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心理戦  作者: 木沢 俊二
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真実の真実

「お、龍、久しぶり。どうした? こんな突然電話なんかかけてきて。何かあった?」

「あのな、俊。メグちゃんの事なんやけど」

「………。あぁ、もう終わった事やないか。お前のせいじゃない。それにあの後お前も一生懸命探してくれたやないか。お前が責任を感じることじゃない。それをわざわざ言おうとしたんか? お前も女々しいやつやなぁ」

「いや、そうじゃないんだ。そうじゃなくて……」

「…………」

「メグちゃんは消えたんやない。メグちゃんは……」

「メグがどうしたって?」

「メグちゃんは……俺が殺したんだ」

「殺した? どういうことや?」

「あの時、俺はメグちゃんが通り過ぎるのを見た。その後、道の整備のためにあぶない枝や石を片付けてた。そして、ふと振り返った時、メグちゃんがそこにいた。俺、気づかんでメグちゃんを蹴落としてしまったんや。その衝撃で、メグちゃんは崖下に落ちた。何度も頭をぶつけて、どう考えても助からん状態だった。俺は急いで崖を飛び降りた。そんでメグちゃんの所に行った。でももう明らかに助からない事は分かってたんや。もう頭が真っ白になって、メグちゃんを急いで別の場所に隠した、そんで知らんふりして捜索したんや。そんで、翌日隠したところからメグちゃんを遠くの川に流した……メグちゃんは俺が殺したんや」


 龍は一気にそう言い終えると、嗚咽を漏らして泣いた。

 白衣の男は呟いた。


「龍さん、それは本当なんですね」

 

 龍はゆっくり頷いた。


「……すまん、すまん全部俺のせいや……あれから何度も死のうとも思った。でもそんな勇気も無かった。俺、自分がどんなちっちゃい人間かと思った」


 そう言って泣き崩れる龍の姿をしばらく眺めてから、白衣の男は別の誰かに眼をやり、一つ頷いた。


「もういいですね、はい、リリースします」


 その合図を皮切りに、辺りの電気がつき、辺りからぞろぞろと人が集まり始めた。そして、ある者は俊に取り付けられていた機具を外し始めた。


 龍は辺りを見回した。


「これは?」


 白衣の男は懐から名刺を取り出した。


「真実を話してくれてありがとうございます。私は、特殊捜査官の山岸です。

科捜研の管轄になります」


「カソウケン?」


「はい、今回は10年前田中恵さん失踪事件が時効を目前としまして、その最後の解決策として、私たちの部門に依頼が来ました」


 その頃、横たわっていた俊は、大方の装置が外されたところだった。

 俊は頭を振りながら起き上がった。


「いや、刑事さん、聞いてたよりきつかったですよ、これ」

「俊、お前……全部嘘やったんか?」

「騙してすまん、でもこうするしかなかったんや」


 龍は思わず山岸と俊を交互に見合わせた。


「私たちの計画を実行するには俊さんの協力が不可欠でした。不本意ながらも俊さんはこの大掛かりな『演技』につきあってくださりました。全ては龍さん、あなたの心を開くために」


 龍はその場にがっくりとうなだれた。山岸はその肩にそっと手を置いた。

「龍さん、先ほどの証言を元に龍さんの身柄を確保します。よろしいですね?」


 龍の手には手錠がかけられ、二人の男とともに出口へ向かった。

 去り際に、俊は呼びかけた。

「龍、お前は悪くない。タイミングが悪かっただけや。でも……」

 俊の目も少し潤んでいた。


「……でもな、やっぱりもう助からんでもいい、それでも最後に一度メグを抱きしめたかったな……」


 龍は何も言わずに、警察官に連れられ去って行った。


「山岸さん」

山岸はその様子遠くに見つめながら、後輩の質問に答えようとしていた。

「何?」

「何か世知辛い世の中になりましたね、たった一つの自白を取るために、こんなにも大掛かりにやるなんて」

「まあな、ただ昨今、自白の重要性が低下したとはいえ、自白のみに頼らざる事件はまだ多数ある。昔のような強迫まがいの取り調べが難しい今、このような、大掛かりな捜査は今後も増えて行くだろうな。そのための我々の部署だしな」


(了)

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