真実
「龍さん、聞いて良いですか」
龍はたじろいだが、それを敢えて見せないように返事をした。
「はい、何でしょう」
「俊さんはどうしてあなたが自殺すると思ったのでしょう? しかもここまで強く思い悩む程。よっぽど何か思い当たる事が……」
「無いですよ、そんなもの」
明らかに龍の声が上擦っていた。
「龍さん、これは一人の命がかかってるんです。もし勘違いでもいい、何か思い当たる事があるんだったら、話してくれませんか? 俊さんを助ける為にも」
龍は顔を上げなかった。
しばらく地面を見つめた後ふと、立ち上がった。
「もう一度やらせてください」
龍は横たわる俊の前の椅子に座ると、マイクに口をあて、スイッチを押した。
「お、龍、久しぶり。どうした?」
「いや、ちょっとな。お前の声聞きたくなってな」
「何か、キモいな。お前そんなキャラだったっけ? 何か変やぞ」
「変やないって。本当にどうもない」
「お前、まさか。死のうとしてるやなかろうな」
「おい俊、何を馬鹿なこと。そんなんやないって」
「なあ、頼むからそんなことは止めてな。もし何かあるんやったら、今からでもそっち飛んで行くから。な? 死んだらどうにもならんて。頼む、約束してくれ、な? 龍」
「俊、あの……」
「何や?」
「あの……あの事ごめんな」
「何? 何の事?」
「ほら、あの……メグちゃんのこと」
「………あぁ、もう終わった事やないか。お前のせいじゃない。それにあの後お前も一生懸命探してくれたやないか。お前が責任を感じることじゃない。それをわざわざ言おうとしたんか? お前も女々しいやつやなぁ」
「いや、その……じゃあな」
スイッチの明かりが消えた。
白衣の男は画面の数値をいくつか確認した。その後ゆっくりと首を傾げた。
「ダメです。変わりありません。何か変化がありそうな予兆はあったのですが」
龍は喋らなかった。
「龍さん、もし良ければその話聞かせてくれませんか?」
龍は正直嫌だった。何の気なしに人の過去に踏み込んでくるこの男にも少し腹が立った。ただ、隠す事でもなかった。何か怪しまれても困る。
「10年前の事です。自分は山村留学のリーダーをしていました。都会から山奥に行って自然体験をするあれです。そこに彼、俊の娘のメグちゃんが来たんです。あいつはメグちゃんの事すごく可愛がっていて。でも、オリエンテーリングの最中、メグちゃんは消えたんです」
「消えた?」
「……はい。私がメグちゃんが過ぎるのを確認してからだいぶ経って、メグちゃんより前に行っていたグループがいくら待ってもメグちゃんが来ないと戻ってきたんです。でもそこは一本道。横に行ける道もけもの道くらいしかありません。大急ぎで警察を交えて、全員で探しましたが、メグちゃんは結局今でも見つかってないんです」
白衣の男は大きく何度も頷いた。
「お辛い話、ありがとうございました。でもそれが原因では無さそうですね」
「どうしてですか?」
「俊さんははっきりおっしゃっていました。『あれはお前のせいじゃない』って。それなのに、何故俊さんはあなたが自殺しようとしていると思ったのでしょうか?」
龍は男を見なかった。見られなかったのかどうか、それは定かではない。
男は龍をもう一度俊の前に座らせた。そしてマイクを設置すると、スイッチを押す準備をした。
「龍さん、残されたチャンスは後わずかです。ひょっとしたらこれが最後かもしれません、俊さんを無限の悪夢から救えるのはあなただけなんです、語りかけてくれますか? 真実を」
男は龍の返事を聞かずに、ゆっくりとスイッチを押した。