平たき剣を持つ男
「ああ~、その男~平たき剣を持ち魔物の群に立ち向かう~♪」
俺は辺境の山小屋に居た。
王様の言葉では、百年に一度の厄災がこの方角から来るらしい。俺はその討伐を任されたのだ。
と言っても王様とやらに大した義理がある訳でもない。王の方も半ば自棄のようにこの使命を言い渡したのだ。その証拠に顔にはありありと不満の色が見て取れた。
どうやら期待の王子や放浪のツワモノとやらも先鋒隊であるこの連中に倒されてしまったらしい。今は俺の食材と化してしまったこいつらに、だ。
「その勇ましき姿~、香ばしい香り~♪」
それで仕方なく俺に頼み込んで来たらしいが、その為に与えられたのはこのうるさいだけの吟遊詩人一人だ。
何でも歴史の証人とやらが必要ならしく、俺の活躍を逐一歌にしてくれるのだそうだ。有難くて涙が出る。
何しろ俺がこの厄災をしのぎ切れば、姫様を貰い次の王座が約束されているらしいからな。
「ああ~♪ あっ……、来た」
どうやら神官どもの言う厄災とやらは本当の事だったらしい、日の沈む方角にある山の色が変わっていく。それはどうやら山を覆い尽くすほどの魔物の群らしい。
そいつはタチの悪い伝染病のように一気に広がりながら俺の前へと押し寄せて来た。
「食らえ」
俺は手にした剣を一閃させる、すると魔物どもの体がいくつも宙を舞った。
それだけでは留まらないその群集に向けて更に一閃二閃と剣を奮う。すると危険を感じ取ったのか群集は僅かに勢いを留め、やがて俺を取り囲むようにしてその足を止めた。
つくづく思う、この剣はチートだ。
一振りで剣・斧・盾の三スキルが乗る。つまり斬撃に切断にシールドバッシュのような打撃攻撃だ。
威力にすると三倍ではなく三乗になるらしいが、算術の才がない俺にその計算は出来なかった。
まぁとにかく凄いのだ。それでもこの剣を王様はともかく騎士や村の人間は認めたがらない、嫉妬でもしているんだろうか。
「も一つ食ら──」
「食べてもよろしいのですか~♪」
「ん?」
どうやらいつもの癖で手心を加えてしまったらしい、魔物どもの肉片は気付けば調理されて旨そうな匂いを撒き散らしていた。
訂正、この剣が乗るスキルは四つだ。更に料理のスキルも乗る。
こんな素晴らしい剣をなぜ認めないのだろう、これさえあればどこに居ても飢える事もないのだ。魔物は簡単に屠れるし、言葉通り調理も出来る。
この剣とは、
「ああ~、最上のコックでもあるその勇者よ~♪」
フライパンだ。