ミステリーな出来事
しこたま利用している、地元の中央図書館で久々に借り
てきた小説『夜行』……鞍馬の火祭の日、かつての仲間が
集まり、それぞれ旅の話をするのだが、岸田が描いた四十
八作の連作銅版画『夜光』にまつわる不思議な体験だった。
この小説を読んでいるとき、起こるべくして起きたのか
……それとも偶然に起きたのかは定かではないが、とにか
くこんな不可思議な事が起きたので話をしよう。
むしむしとした梅雨が毎日続き、この日も朝からシトシ
ト降る雨に閉口していた。己の性格上は晴耕雨読型である
ため、どこにも出掛けず、やるべきことをかたずけ、落ち
着いたところで、さあ図書館で借りてきた本でも読もうか
と読み始めた。
第一夜を中ほどまで読み進めたところで、いきなり、バ
タ~~ンとすぐ右横で大きな音がした。ビクッとして見て
みると、壁に掛けてあったおやじの写真が額ごと、長き年
月で溜まっていた埃と一緒に落下したのだ。幸い落ちどこ
ろが良かったのか、ガラスは割れずにすんだ。見ると額に
取り付けていた紐が劣化して切れていた。
(長い間、掛けたまま掃除もせずにほっておいたから、お
やじが怒ったのかもしれない……)
と思いながら掃除機をかけ、新しい紐に取り換えて額も
きれいに拭いてまた元の所へ掛けなおした。
(なぜ今なんだ?……偶然か?……)
それとも、小説の内容が内容だけに、腑に落ちない感じ
ではあったが、気をとり直してまた『夜行』の続きを読む
ことにした。
「夜行とは、百鬼夜行の夜行さ。岸田の描いた女はみんな
鬼なのさ」……「世界は、つねに夜なのよ」
こんな事が起きた第一夜を読み、第二夜、そして第三夜
と読んでいたとき、今度は不思議なことが起きた。
いつも枕もとに、液晶デジタル置時計を置いている。こ
の時計の大きさは、直径七センチほどの真四角な形で、暗
いところで時間を確認したいときは、時計を右か左に九十
度傾けると、「ピッ」と電子音が鳴り、ブルーとグリーン
の明かりが交互に数秒間点滅して、時間が確認できるよう
になっている。
ところがである、本を読んでいる最中に、この時計がい
きなり触りもしていないのに、「ピッ」と鳴ってブルーと
グリーンの明かりがいつものように、数秒間点滅して消え
たのである。
(ええ~~~ッ、この小説は、百鬼夜行を呼び込むとでも
いうのか……)
まさかそんな事はないだろうと、自分自身を納得させた。
長年使っている時計だが、こんな現象は初めての事で、
まじまじとしばらくの間、時計を憑りつかれたように凝視
していたが、その後は何事も起きなかった。
『二度あることは三度ある』という言葉があるが、またこ
の先を読んでいく間に、何か起きるのではと、ちょいと期
待をしたが、第五夜を読み終えるまで何事もなく過ぎた。
ミステリーで、ホラーで、パラレルワールド感のある小
説は大好きでよく読んでいるが、このような現象というべ
きか、不思議な事が起きたのは初めてであった。
その後、液晶置時計は、いつものように何の変化もなく
正常差を保って今も使い続けている。