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09 テュス。



お色気ワンコ騎士テュス様視点!







 それは、いつもの猛暑の日のこと。

 すっかり夏の気温が定着した日々に突如、涼しさを感じた。

 今日は妙に涼しい。そういう話題を団長としていた時、その報せを耳にした。


 聖女様が【聖なる水場】に現れた、と。


 それが本当かどうかの証拠を得られないまま、慌ただしく正装の甲冑に着替え、玉座の間に整列した。

 やがて、支度をした聖女様が、やってきたのだ。

 ダークブラウンの髪と瞳を持つ女性。やや日焼けした健康的な肌色。

 歳は私とそう変わらないだろう。

 横目で盗み見ていた私のすぐ横で、彼女がよろけた。

 倒れてしまうと思った瞬間には、もう腕を差し出して受け止めていたのだ。


「お怪我はありませんか? 聖女様」


 足をくじいていないかとそう確認した時、自分が色欲の騎士とまで呼ばれてしまっていることを思い出した。コンプレックスまで感じている外見を目にして、聖女様はどんな反応をするのだろうか。

 一瞬、不安が過った。


「ありがとうございます」


 驚いた表情で私を見た聖女様は、にこやかに微笑んだ。

 その笑みは少々緊張が滲み出ていて、それでいて茶目っ気のあるもの。

 優しい目をしていた。私の目を真っ直ぐに見つめて。

 多少は私のことを凝視したが、スッと背筋を伸ばすと玉座の前まで自分の足で歩いて行った。

 国王陛下が跪く。それを合図に、私も含むその場にいた全員が聖女である彼女のために傅いた。

 また盗み見てみれば、聖女様も膝をつくと、国王陛下に顔を上げるように言っていたのだ。

 ああ、なんて優しい女性なのだろう。

 それは聖女故のだろうか。

 ダークブラウンの瞳は、大きかった。私を映すくらい。

 これは今まで思ったことはなかったがーーーーなんだか守りたい女性だと思えた。




 その後に、団長から聖女様の護衛が二人、交代でつくことになったと聞いた。

 ついでのように、聖女様は自ら望んで異なる世界からやってきたわけではないと耳にした。

 それはきっと、私には想像も出来ないほどの、寂しさや不安があるのではないだろうか。家族や友人、そして故郷から引き離されて、いきなり国を救う使命を課せられた。

 それにも関わらず、聖女様は承諾したそうだ。

 この国を救う使命を、引き受けた。

 ああ、やはり優しい女性なのだと思った私は。

 気付いたら口にしていた。


「私をーーーー聖女様の護衛につかせてもらえないでしょうか? 団長」


 団長は当然のように驚き、そして深く考え込んだ。

 副団長の座にいるため、それは簡単には行かないとはわかっている。

 けれども、彼女を守る任につきたいと希望した。

 やがて、団長は許可を出したが、国王陛下の許可も必要だと、一緒に許可をもらいに行ってくれたのだ。

 時間は、翌朝。

 国王陛下も、深く考え込むように間を空けたが、やがて許可を出してくれた。

 私ほどの腕が立つ者が、そばにいるべきだと判断してくれたのだ。

 それは自分の力を認めてもらえた大変光栄なことだった。

 あとは、聖女様本人の許可をいただく。

 自分をそばに置いてもらえるだろうか。もし拒まれたらどうすればいいのだろう。ちょっとの不安が過ぎりながら、私は【聖なる水場】の途中にある中庭で待っていた。

 そして、彼女を再び目にする。

 前下がりの長い髪は結われた姿。すぐに声をかけることが出来なかった。

 彼女は道の途中で立ち止まり、俯いていたのだ。

 その姿は、あまりにも悲しげで、そして儚くて、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。

 昨日は、伸ばしていた背も項垂れていて、気付いた時には声を上げていたのだ。

 そうして、困ったような笑みを浮かべつつも、聖女のナツカ様から許可をいただいた。

 テュス様とぎこちなくも、呼んでくださるナツカ様を見上げて。

 心から、温まるような気持ちが、飽和した。

 その日のうちに、懇願した理由を問われて、正直に話した。

 大丈夫かと問うたけれども、彼女は赤らめた顔を両手で隠して、お礼を言うだけ。涙目に見えたから、きっと私が感じたのは気のせいでも思い込みでもなかったのだろう。

 ナツカ様は、喜んでくださった。そう思うことにした。




 けれども、それから早一ヶ月が経とうとしている。

 私は、口にした通り、ナツカ様の心も守れているのだろうか。

 些か、疑問に思った。初日しか、彼女の心に触れていない気がする。

 それは彼女が本当に気丈でいるからなのか。それとも、気丈に振舞っているだけなのだろうか。どちらかはわからない。

 優しく笑うナツカ様は、夜な夜な泣いているのではないだろうか。

 時折、ナツカ様のお世話役に任命されたサラさんに尋ねてみたが、涙を流した形跡もなければ、寝不足になっている様子もないとのこと。

 それは安心すべきことだろうが、少し欲張りなことを思ってしまった。

 もう少し、心に寄り添いたい。なんて。

 慰めたいだなんて。きっとそれは欲深い願望なのだろう。

 ナツカ様の希望で、街に出掛けた。

 サラさんに言われたデートという言葉に、動揺する。

 いいのだろうか。色欲の騎士なんて呼ばれてしまっているこの私が、聖女であるナツカ様のデート相手なんて。いや、あくまでデート風であり、それにナツカ様はお忍びだ。

 強力な瑠璃色の魔力の石を出す聖女であるナツカ様の外出は、少し危惧された。他国の拉致などだ。

 かの昔、聖女を取り合って戦争が起きたこともあるそうだ。それ故に聖女を、公にすることに反対の意見もあると聞く。しかし、だからと言って、軟禁生活をさせられない。

 彼女は意図してこの世界に現れたわけではないのだから。

 まだ聖女が現れたことが噂の段階の街ならば、安全だろうという判断で許可は下りた。

 それと私という護衛もついているから。

 気を引き締めて、護衛を全うしよう。

 そう心に決めたが、デートをしている風に手を繋ぎ続けることは、女性経験が豊富ではない私には少々ハードルが高かった。女性は顔をぼんやり見つめたっきりため息を吐き続けたり、酷い時は卒倒してしまうから、距離を置いていたのだ。

 けれども、それは私だけではなかった。

 ナツカ様も異性と手を繋ぎ続けることは慣れていないご様子。頬を赤らめつつも、私の手を握り返してくれた。

 互いに緊張とともに握っていたけれど、いつしかナツカ様は市場に陳列したものに釘付けになる。その目は、輝いていた。ダークブラウンという暗い色の瞳だが、宝石のような眩しさがある。

 私は、それを見つめてしまった。

 盗っ人が出た時、一瞬握っている手を忘れかける。

 ナツカ様から離れてはいけないが、盗っ人を野放しにすることは出来ない。

 ここはナツカ様を抱えてでも盗っ人を捕まえよう、としたが、先に魔力の気配に気が取られた。それは手を繋いでいるナツカ様のもの。すると走って離れようとする盗っ人が転倒。見れば、水の塊に阻まれたようだ。

 ナツカ様が魔法を行使した。

 なんて器用な魔法の使い方だろうか。感心と驚きをしている間に、ナツカ様は次に行こうと笑いかけてきた。

 自分はナツカ様のおそばで、役に立っているのだろうか。

 その疑問が悶々と湧いてきてしまった。

 先程もナツカ様の手を煩わせてしまい、役に立っていない。

 心と身体を守りたい。その気持ちが発揮出来ていない。

 ナツカ様は、どう思っておられるのだろうか。


「ナツカ様……先程は申し訳ございません。一瞬ナツカ様から離れようとしてしまいました」


 堪らず、謝罪をした。

 キョトンとしたナツカ様は、吹き出すように笑う。


「謝らなくてもいいですよ」


 そうはいかない。そばに置いてほしいと頼んでおきながら、離れようとしたのだから。


「テュス様は優しいですからね」


 食い下がろうとした私に、ナツカ様はそう言う。


「え……私が、優しい?」

「はい。女性を苦手に思っているようですが、初めて会った時に私を咄嗟に受け止めてくれたじゃないですか。優しい騎士様です」


 優しい騎士様。

 その言葉の方が優しさを帯びている。そう感じた。

 いいえ。優しいのはあなた様です。

 そういう風に思ってくださるナツカ様の方が、優しいのです。

 嬉しさを覚える。どうしようもないくらい。

 くすぐったさを胸の中に感じた。

 それは一体、なんなんだろうか。



 

20190806

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