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07 想像力が豊か。

20190805




 翌朝。

 ふかふかのベッドで目を覚ました私は、昨日を振り返った。

 正直言って、暇な一日だったのだ。

 私の身体を気遣ってのことだろうが、何もしないは苦痛で仕方なかった。

 例えば、急なお休みをもらってしまった日のよう。

 家族がインフルエンザで出勤出来なくなった時がいい例になる。私はすこぶる元気なのに、仕事に行くことを禁止され、だからといって気軽に漫画を買いに行くのは罪悪感があり。仕方なく、家にこもっていた。あの時のような苦痛さを感じた。

 何もしないって苦痛なのだ。

 そう! 難しいものなのだ!

 何もしないで休むって、高等技術だと思う!

 せめて、漫画があればいいのに!

 聖女は新しい漫画を所望する!

 でもあるわけがないのだ。女性が足を露出してはいけないような、古い風習のあるこの世界に漫画なんてない。多分、中世風な世界観だと予測出来る。

 トーンやかけ網技術を駆使して物語を描く漫画家は、この世界にいない!

 朝から憂鬱な気分なのに、部屋は豪華絢爛である。

 ミスマッチなまま、私はベッドルームにあるクローゼットを開ける。

 最初に選んだドレスが私の好みだと判断されたようで、似たようなデザインがずらりと並べられていた。足元にはサイズぴったりなブーティも揃えられている。

 本当に豪華絢爛なのに、これをよしとしない私ってばワガママ。

 でも、まぁ。嫌いではないですよ?

 一着のドレスをなんとか一人で着ていれば、コンコンとノック音が聞こえてきた。

 そばにあるドレッサーの鏡で、変ではないことを確認してから、扉を開く。


「聖女様、おはようございます」


 サラさんが一礼した。左右には、また騎士が二人立っていたけれど、テュス様は見当たらない。彼はまだのようだ。


「おはようございます」


 私も、一礼をした。

 部屋に入って、サラさんにお世話されていれば、またノック音。

 今度は朝食が運ばれた。昨日とは違い、ちゃんと一人分の量が綺麗に盛り付けられている。普通に、豪華な朝食だ。

 私がそれを堪能したあとに、またノック音。


「おはようございます、ナツカ様」

「テュス様、おはようございます」


 キラッキラッのお色気騎士テュス様のご登場だ。

 騎士の制服をきっちり着ているだけなのに、どうして色気がただ漏れなのだろうか。疑問で仕方ない。

 その目にかかりそうなプラチナブロンドのせいか?

 はたまた、長い睫毛が囲うアメジストの瞳のせい?

 笑顔で挨拶してから、じっと観察してしまった。

 テュス様は微笑みを浮かべたまま、キョトンと首を傾げる。

 僅かに揺れた髪が、さらり。それだけで、色気を感知。


「……突然ですが、テュス様。モテますよね」

「え? 突然ですね……」


 テュス様は困ったような笑みになる。


「結婚指輪はなさっていないようですが」

「あ、独身です」

「そうなんですね。私もです」

「そうですね。ナツカ様の世界も結婚指輪は左手の薬指につけるのですか?」

「はい、そうです」


 私の左手に注目するテュス様に、ちゃんと見えるように見せた。

 ラピスラズリの指輪しかつけていない。


「話は逸れましたが、テュス様は女性に言い寄られることが多いでしょう?」

「……えっと」


 困った。そんな顔をして、頬を人差し指で掻くテュス様は視線を泳がせる。


「色欲の騎士……」

「えっ?」


 ぼそっと聞こえた声を発したのは、後ろに控えていたサラさんだった。


「やめてくださいっ! それで呼ばれるの、嫌いなんですよ……」


 テュス様は、ぷくっとむくれる。

 え。可愛い。


「色欲の騎士。そう呼ばれてしまっているのは、事実ではないですか。彼は一つため息を零せば、その性的な魅力に当てられて、女性が倒れたほどの色気の持ち主です」

「ため息一つで!?」

「はい。他にも、稽古中の彼が汗を流しそして拭う姿に、見物していた貴族令嬢の皆様が次々と卒倒したとのことです。同じく目撃したメイドの中には、鼻血を出した者も少なくありません」

「卒倒に鼻血!?」

「さらには同性である男性も顔を真っ赤にしてしまうほどの無駄な色気の持ち主……よって色欲の騎士という異名がついたのです」

「同性まで!?」


 真顔でさらりと話すサラさん。

 この人、本当表だけは毅然としている。


「ううっ……そこまで話さなくてもいいじゃないですか……」


 テュス様に目を戻してみれば、恥ずかしさで赤面していた。

 恥じらう表情まで、色気がすごい。

 こう、ふんだんに薔薇のトーンを使いそうな場面だ。

 そこまで!? と反応してしまったが、理解は出来る気がする。

 現代風の学校で例えれば、モッテモテのサッカー部のイケメン男子生徒が、汗を流しシャツとかで顔の汗を拭い、腹ちらしてしまうシーン。鍛えられた腹筋と汗ばむ肌に、女子生徒達の黄色い悲鳴が上がる。

 そんな感じだろう。

 貴族令嬢達は悲鳴を上げるなんてはしたない行為が出来ず、飲み込んだ末にキャパオーバーして倒れたのだろうか。


「……あまり、見ないでください。ナツカ様」


 私の凝視を、嫌がる素振りを見せた。


「真顔でいても、見惚れられて……正直コンプレックスに思っているのです」


 コンプレックス、あり余る色気。

 何それ欲しい、コンプレックス。

 えー。せっかく性的な魅力全開なのに、コンプレックスに感じているのか。この人は色仕掛けを自分から使っていけないタイプか。性格はワンコじゃん。可愛い。

 ギャップ萌え。


「幼い頃から女の子に間違えられたり、変な男の人に絡まれたり」

「……想像つきます」


 色気ありすぎる女の子に間違えられたのだろうか。

 または色気ありすぎる男の子をナンパ。


「護身のために鍛え上げても、理想の男にはなれず」


 理想の男ってやっぱり、筋肉マッチョな感じかな。

 その方が騎士っぽい。


「歳を重ねるごとに、被害が増えていっている気がします……」


 歳を重ねるごとに色気が増して、それに当てられて被害が?

 きっと大人の色気ってやつが増してきたのだろう。


「……ナツカ様は、どう思いますか?」


 しょんぼりしていても、やっぱり薔薇トーンが似合うとしみじみ思っていたら、上目遣いで尋ねてきた。

 うわっ。色っぽい。

 え。本当に無自覚お色気なの?

 その仕草とか、やばいって自覚なしなの?


「どうって……?」


 ぽっかーんと見つめてしまいながら、私は質問の意味を問う。


「……その、こんな私でも、おそばに置いてくださいますか?」


 色欲の騎士だって呼ばれていても?

 いや別に気にしないけれど。

 むしろ、目の保養でいいと思う。


「はい。大丈夫ですよ」


 笑顔で答えれば、ぱぁっと明るい顔を上げた。

 やっぱり、性格はワンコタイプだな。わしゃわしゃしたい。

 お色気ワンコ騎士。私の中でそんな異名をつけてみた。


「おそばにいて、いいのですね?」

「はい。そばにいてください」


 頷いて見せると、花が舞うような、華やかな微笑が溢れる。

 可憐な花が、幻覚で降り注いでいるように思えた。

 漫画で言えば、トーンが必須のイケメンだ。華のあるイケメン。

 そんな彼が嬉しそうなら、よかった。


「では、【聖なる水場】に行きましょう」


 今日も張り切って、石を吐きに行こう。

 お祈り中の魔導師さん達に解散してもらい、私はまたテュス様の手を借り、ブーティを脱がしてもらった。裸足で水場に入り、中央に立つ。

 今日もぬるい水に足を浸かり、スカートを濡らす。

 しょうがない。だって足を出すのはNGらしいから。

 また、水に集中をした。

 ーーーー水。水。水。


「っ!」


 石を吐き出す。

 両手で受け止めたそれは、やっぱり瑠璃色だった。

 サイズも昨日吐いたものと変わらない。

 結局、加減みたいなものがわからず、一日一回石を吐くも、瑠璃色のものしか出せずにいた。

 ベア様達が、加減方法を探すと言ってくれたが、それが見付からないまま。

 異世界から来て、早一ヶ月となってしまった。

 今日の石吐きチャレンジを終えて、午後の冷たい紅茶を啜る私は静かに思う。

 私、聖女として役立たずのレッテルを貼られているのでは?

 一ヶ月も毎日石を吐いていれば、流石にコツとかわかりそうじゃん?

 仕事だったら、正式採用されているよね?

 なのに吐き出す石は、瑠璃色! 瑠璃色! 瑠璃色の一択!

 ぜんっぜん、透けない!

 私も吐くなら宝石みたいなきらめく石を吐きたいのは山々なのだけれど、どう改善したらいいのかわからない。

 そう例えば、常に一緒にいてくれるお色気ワンコ騎士のテュス様の瞳のような。透けてしまいそうなアメジストを吐いてみたい。

 初めは吐くという行為に抵抗を覚えていたのに、吐いてみたいという気持ちになってしまった。多分おかしいのだろうけれども、私はちゃんと使命を全うしたいのだ。

 物は試しに、一般に手に入れられる石を食べてみるか。いや仕組みがわからないから、食べても無意味の可能性もある。

 試しに透けた水色の石を握って、石を吐いた日もある。やっぱり瑠璃色だった。

 もう使ってくださいよ。瑠璃色の石を。

 使えると言えば使えるのでしょう?

 でも高価すぎて使えないって。そう言わずに。

 胃がキリキリしてしまいそうだ。

 そんな私の心情を見抜いているかのように、サラさんはラベンダーティーを淹れてくれた。落ち着く香りは、眠気を誘う。

 それにカップの中身は、ラベンダー色。


「ふっ……テュス様の瞳の色……」


 そう笑みを溢して、私は残りのラベンダーティーを飲み干す。

 そばに立っていたテュス様は、何故か頬を赤らめていたけれど、私は気に留めずに、アメジスト色の石が吐けるように願ってみた。



 

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