04 石を吐く。
作者、誕生日です。(`・ω・´)
20190804
与えられた部屋を出ると、そこには騎士が二人立っていた。
私に挨拶をすると、後ろをついてくる。護衛のためだろうか。いやそれ以外ない。
あっれー。私が読んでいた漫画の中の聖女には、護衛なんてついてなかったなー。
城の中なら、安全のはず。それとも魔物が襲撃してくるような物騒なところなのだろうか。
「……あの、サラさん。治安って、どうですか?」
「と言いますと?」
「魔物が住まう森に囲まれているとは聞きましたが……」
「ああ、大丈夫です。城には選りすぐりの魔導師様達が結界を張っていますので、城にいる限り、魔物の襲撃なんてありません」
魔物の襲撃はありえない、と返事が返ってきた。
じゃあこの護衛は、万全のためだろうか。
やっぱり聖女だから、護衛なしで彷徨かれたくない。そんなところか。
そう納得していれば、外に出た。
夏の陽射しが照らす中庭。
ちょっと眩しくて、目が眩んだ。
けれども日本の猛暑と違って過ごしやすい気温を感じ、ちょっぴり寂しさを覚える。ここは異世界なのだと。
そして、あの暑すぎる夏に帰ることは出来ないかもしれないのだ。
忘れていた不安が波のように押し寄せてきて、足を止めてしまう。
「……聖女様?」
サラさんに呼ばれても、反応出来なかった。
俯いてしまう。
私は生きていけるのだろうか。
次の漫画の新刊まで生きなくては! とか、この漫画の最終回まで生きていられるかな? とか、そんなくだらないことを思いつつも、アルバイトして日々を送っていたのに。
きっとこの世界には漫画なんてものはないし、ましてや望んでいる新刊もない。
もうあの物語の続きは読めないのだろう。
その寂しさが、まるで私を生き埋めにするかのように、息が。
息が。息が、出来なーーーー。
「聖女様っ!!!」
ザッと目の前に現れた騎士に驚き、私はビクッと顔を上げた。
なんだか血相を変えた顔をしている。どうしたのか。
あれ、よく見れば、この人、昨日私が盛大に転ぶところを阻止してくれた騎士ではないか。
どこか切なそうにアメジストの瞳を細め、なんだか苦しげに唇を噛む表情。
色気というものが溢れ出ていて、なんとも言えない。
そんな色気ムンムンな騎士は私を見つめた末に、跪いた。
おっと。デジャブ。
思わず周りを見たけれど、昨日の圧巻な光景はない。いるのは、彼の登場に驚いている騎士二人とサラさん。
「聖女様。私はアメテュス・メテュストスと申します。突然お呼びして申し訳ございません。実はあなた様にお願いがあって、ここで待ち構えておりました」
アメ……なんだ。だめだ。難しくて、覚えられない。
多分噛む。人様の名前で噛む自信がある。
もう一度名乗ってもらうのは申し訳ないので、とりあえずお願いとは何か問うことにした。
「お願いとは?」
「はい。私をおそばに置いてもらえないでしょうか?」
「お、そば……」
蕎麦か。美味しいよね。私、とろろかけるのが好き。
そんな話ではないか。
おそばとはつまりは。
「私の護衛をしたいということで間違いないでしょうか?」
他にないよね、そばに置けって意味。
「はい。願わくば、あなた様の心と身体をお守りしたい……昨日、目が合った瞬間にそう抱いたのです」
ん? 心もって、どういうことだろうか。
ちょっと疑問に思いつつも、目をパチクリさせて考え込む。
彼は切実そうに見つめてくる。もはや効果音がキュルルンって言っている気がした。漫画だと薔薇のトーンが似合う色気漂う騎士なのに、子犬みたいに見つめてくるってギャップ萌えってやつではないだろうか。キュンとした。
「えっと……それは大変ありがたいと思うのですが……私の一存では決められないかと。騎士のお仕事の方はどうなるんですか?」
目の保養で大変ありがたいのだけれども、やっぱり勝手に騎士をそばに置くのは良くないだろう。
「それならば、所属先の騎士団長と国王陛下から許可を頂きました」
え。早。
じゃあ私の合意を得ればいいのか。
つまりは、聖女の護衛をお仕事にする、ってことでいいのだろう。
団長はともかく王様から許可をもらったのに、私が断るのも可哀想。
べ、別に目の保養の色気漂う美形騎士をそばに置きたいわけじゃない!
ただ、そう、こんなにも懇願しているから! そうなのだ!
「で、では……お願いします」
「……っ。ありがたき幸せ……。全身全霊でお守り致します」
恐る恐ると首を縦に振ったら、何故か泣いてしまいそうな表情を俯かせた。
え。イケメン泣かせた? と焦った。
「私は夏華と申します。あなたのことはなんで呼べばいいでしょうか?」
「親しい者から、テュスと呼ばれています。どうぞ、気軽にテュスとお呼びください」
名乗ると、笑った顔を上げてくれる。
セーフ。イケメンを泣かせてなかった。
それにしても、やっぱり華やかな花のトーンが似合うお色気のある微笑だ。アメジスト色の瞳もプラチナブロンドの髪も、キラキラしていて、本当に見目麗しい人。
「では……テュス…………」
こてん。と首を傾げた。
「様?」
様付けがいいのだろうか。さん付けがいいのか。わからない。
「はい、ナツカ様」
太陽を眺めるような、そんな微笑を溢すと返事をした。
テュス様で正解のようだ。
安心して、手を差し出す。
「これから、【聖なる水場】に行くんです」
「はい、おとも致します」
立ち上がった彼を見ると、思った。
身長高い、な。
私はあまり身長がない方なので、余計に彼が大きく感じる。
甲冑は着ていないが、騎士団の制服らしきものに身に付けていた。
やっぱり高貴な身分の騎士様なのだろうか。
横を見れば、一歩後ろを歩くテュス様。
ニコニコしている。そんなにご機嫌な様子だと、大型犬を連れている気分になった。さっきは子犬に見えたのにな。
少し中庭を歩いていけば、例の水場を発見した。
そこには、人集りが出来ている。
「聖女様ですわ!」
「聖女様がお越しになられたぞ!」
たちまち、人々が跪いた。
今度は修道女のような格好の女性達とローブ姿の男性達。
毎日祈りを捧げる場所だと聞いていたけれど、まだ祈っていたのだろうか。
それともあれかもしれない。石を吐く姿を見物しに来たのだろうか。
正直、見物ならやめてほしい。だって、吐くなんて、嫌な行為だ。
出来ることなら、祈りで石を生成したい。なんで石吐き聖女なんだ。
「聖女様! あの!」
「あ、昨日の……悲鳴を上げていた人」
「も、申し訳ございません!!」
私が初石吐きをした時に祈っていた女性が、真っ赤な顔をして謝罪をしてきた。
「聖女様を見て悲鳴を上げた無礼を、お、お許しくださいませ!」
「ああ、いいんですよ。驚いただけでしょう?」
「あ、嗚呼……なんて慈悲深きお言葉っ……!」
真っ赤な顔で謝っていた女性は、たちまち涙を流したものだから、動揺してしまう。
今度こそ泣かせたー!!
「な、泣かないでくださいっ」
「喜びの涙です、えぐっ、えぐっ。私の祈りで参じてくださったので……私昇進しました……どうお礼をすればいいかっ」
「あ、よかったですね!」
「でも、悲鳴を上げた無礼をどう詫びればいいかと、ずっと不安で眠れずにいたのに……お優しいお言葉をいただけて、私、ううっ」
どうしよう。この女性が吐きそうなのだが。
泣きすぎて、どうしたらいいのだろうか。
「魔導師様。聖女様が困っていらっしゃいます。どうか泣き止んでください」
助け船を寄越してくれたのは、サラさんだ。
え。ちょっと待って。今、魔導師様と呼んだ?
修道女じゃなくて、この人達が魔導師なの!?
「そうですよねっ、私ったら! 重ね重ね申し訳ありません……!」
また真っ赤な顔をしたその女性は、深々と頭を下げてハンカチで顔を覆った。
「またこれから、聖女様が【聖なる水場】にお入りになります」
相変わらず毅然とした態度のサラさんは、チラリと私に視線を寄越す。
「あ、出来ることなら、皆さん……見ないでほしいのですが」
ここで言った方がいいと判断して、伝えておく。
「はい」
「仰せの通りに!」
「我々一同、祈っております!」
たちまち、人集りが消えた。
残るのは、騎士の三人とサラさんと私と水場だ。
ちょうど中庭の中央にドーンと置いてある【聖なる水場】は、どこからか新鮮な水が流れてくるようで、いくつか溝がある。それを踏まないようにして、水場に入ろうとしたらサラさんに呼び止められた。
ブーティを濡らしてはいけないか。
サラさんは膝をついて、ブーティを脱がしてくれた。
その間、テュス様が手を貸してくれて支えてくれる。
踊り場で座って脱げるのになぁ。
聖女扱いになれなきゃいけないのだろう。
脱がしてもらったあとは、白い大理石のような踊り場に上がる。
テュス様の手が離れたあと、そっと水に足を入れた。
冷たさを覚悟していたけれど、意外とぬるい。
昨日のひんやりした冷たさはなかった。
少々拍子抜けしたけれど、ちょうどいい温度なので、そのままもう片方の足も入れて、水場の中心に立つ。
足首まで浸かる浅い水に、ドレスが濡れる。
持ってはいたのだけれど、濡れてしまったのはしょうがない。
私はじっと、吐き気が込み上がることを待った。
いや、吐き気を待つってなんだろう。変だな。
石を吐くという事実が、十分変だけれども。
んー。昨日はどうやって吐いたのだろうか。
確か、ひんやりした水を感じていた。
水がキーワードみたいだから、とりあえず、意識を水に集中してみる。
裸足を浸かっている水。
ーーーー水。
ーーーー清らかな水。
「うっ」
喉に異物を感じた。急に喉に現れた感じ。
それを吐き出せば、掌には15ミリほどのサイズがあった。昨日よりも大幅に小さいけれども、また瑠璃色の石だ。
本当に、石を吐いた。
私は石吐き聖女なのだと、しみじみと実感し、私は透けない石を太陽に翳してみる。瑠璃色の石は、やっぱり透けなかった。