殺し方
5分で読めるアメリカンジョークショートショート。
世間はクリスマスの季節にミンクのコートを着たその女はヤミ金事務所にいた。
「もしもーし!借金の期限とっくに切れているで!早く口座に振り込めや!」
「あ、どもども。モフモフファインナンスです。ご融資のご相談ですか?」
「いるんでしょ!電話出ろ!電話に!」
「いつ来ても殺気だっているわね、ここ」
「ま、こういう商売ですから」
女の相手をしているのはヤミ金事務所の社長銭金正広だ。同業者間のあだ名は銭金のマサである。
「でね、また浮気したのよ。うちのダンナ。それも17歳よ!自分の娘より年下に!」
「しょうがねえなあ、あの野郎は。顔だけはいいから、学生時代から女癖が悪かったんだ」
「浮気しなくなる方法ってない?」
「方法ねぇ。あることはあるな。イイ所紹介してやるよ」
「いらっしゃいませ」
マホガニーで出来たバーのドアに付けられた真鍮製のベルがカランカランと鳴る。入ってきた客は歳は40過ぎだが身なりのいいミンクのコートを着た美女であった。コートを壁に掛け、バーテンダーのいるカウンター席に座る。
「お飲み物は?」
美女は
「マテーィニを。唐突だけどあなた、本業は殺し屋なんですってね」
と話を切り出した。バーテンダーは苦笑しながら
「これはご冗談を、いったいどこでお聞きになられたのですか?お客様?」
と答えた。
「あなたに仕事を二十回も依頼してたヤミ金屋を経営している銭金のマサからよ」
そのとたんバーテンダーの顔からすうっと笑みが消えた。
「マサの知り合いか。で、誰を殺ればいいんで?」
「私の亭主よ。ここ2年家にも帰らない上にいくら言っても自分の娘より年下の小娘と浮気するのよ。これが顔写真」
「そんな事情はどうでもいい。報酬はいくらだ?何か注文は?」
「思いっきりむごたらしく殺して。この世に生まれてきたのを後悔するくらい痛い死に方で。1500万円でどう?」
「請け負った。安心しろ。俺の仕事の成功率は100%だ。警察に捕まった事もない」
美女が帰った後、バーテンダー兼殺し屋は店を閉めて自宅に帰り考えにふけった。自宅の壁には、日本刀、ナイフ、拳銃、ライフル等が山ほど飾ってある。
「最大限に痛みを与えて殺せか。一流の殺し屋ほど一撃で痛みを与えずがモットーだからな。経験がないぞ」
室内をうろうろ歩きながら考える。
「ナイフは?駄目だ。痛みを感じるほどめった刺しにしたら返り血を浴びて捕まる。捕まらないようにいつも通りサイレンサー付きの拳銃は?これも良くない。3、4発で死んでしまう。毒ガスは?即死してしまうし、こっちが危ない。ヒモで絞め殺す?これは一番苦しくない殺し方だから駄目だ」
三日後の深夜、ターゲットが帰宅途中で歩いているのを殺し屋が運転席から双眼鏡で監視していた。手にはグレネードランチャーと今回の仕事用に特注した弾を二発持っている。広いが人目につかない道に出たときに殺し屋は行動に出た。弾を装填して発射する。
「何だ?接着剤か?チクショウ!靴の中まで染みこんでいるから脱げない!う、うわあぁぁぁぁ!」
数日後、警察が被害者の出入りしていたマンションの一室を訪れた。インターホンを鳴らす。
ピンポーン
「はーい、どちらさま?」
「警察です。娘さんですか?」
「パパが何か?」
「非常に言いにくいのですが、あなたのお父さんがロードローラーにひかれてペッチャンコになって死んでいるのが発見されました。私も警察官になって長いですが、こんな酷い事件は初めてですよ」
「あら、ごめんなさい。私今シャワーを浴びていますの。お手数ですけどドアの隙間に挟んでおいていただけます?」
1時間後か。シャワーを浴び終えた愛人はスマホから電話をしていた。
「銭金のパパァ~、寒くなったからミンクのコート買って~。お願ぁ~い」
「よしよし、お前の欲しがるものなら何でも買ってやるぞ」
「ありがと~ぉ。パパ大好き~ぃ」
日本の落語で言う小咄。