第2話
意識を手放した後、私はすぐに目を覚ました。
「あれ……?ここは……私の部屋?」
そう、目を覚ました私は自分の部屋にいた。もしかして、学校で倒れて家に運ばれて自分のベッドに寝かせられたのだろうか。すぐ目を覚ましたと思ったけど、ある程度寝ていたのかもしれない。私は窓を見た。空は明るい。
私は起き上がり、時計を見た。6時30分。
えっ?ろくじ??最近はそんな時間まで明るかったかな?
スマホを見ると、4月20日、6時30分。時間表示が24時間なので、今は朝になる。
おかしい、4月20日の朝はもう終わっている。だってその日は、私が調理実習で玉葱を切っていて、涙が出たら意識を失った日なんだから。
ここが夢でないのなら、寧ろ先程までの出来事が夢という事かな。考え事をしていたら、気がついたら大分時間が経っていた。
私は身支度を整えて下に降りた。
凄い、正夢だ。
リビングでは両親が喧嘩をしている。理由はお母さんが寝坊して、お弁当が作れなかったから。夢そのままだ。
確か次は猫が怪我していたよね。
私は救急箱から包帯を取り出し、静かに家を出た。家を出ると、猫のいた電柱へと向かう。
「にゃーー」
本当にいた。白くて可愛い猫。夢の通り緑と黄色のオッドアイだ。左前脚を見ると、怪我をしている。私は手当てをした。
「にゃっ♪」
「早く良くなるといいね」
私は猫を撫でた。確かこの後、冬季也に「寧々子、なにしゃがんでいるの」って言われるんだよね。私は後ろを振り返った。
「うわっ」
すると目の前には冬季也が立っている。私に声をかけようとして、私が先に振り向いたから驚いている。
「おはよう、寧々子。いきなり振り向くからびっくりしたよ」
「おはよう、冬季也。なんとなく冬季也が来たような気がしたんだよ」
ここまではあの夢と同じだ。じゃあ今日の一時間目は英語の小テスト?
「ごめん、私ちょっとやる事があるから今日は先に行くね」
「えっ、ちょっと……‼︎」
「また後でねーー‼︎」
私は走って学校に行った。そして学校に着くとそのまま図書室に直行する。
図書室の扉を開けると、数人の生徒が本を読んでいた。試験前ではないので、人が少ない。私は椅子に腰掛け、英語のテキストを開いた。今日の小テストの出題範囲は、先週習った箇所。私はテキストを見ながらテストの内容を思い出した。そして出題された箇所を覚えていく。付け焼き刃だが、やらないよりはマシだろう。
私は予鈴がなるまで必死に、覚えた。
キーコーカーコー
私は、本鈴がなると同時に教室に滑り込んだ。ギリギリまで粘ったから、走る羽目になってしまった。私は深呼吸をし、息を整える。そして席について机に突っ伏した。
「よっ、今日はどうしたんだ?」
「朱鷺……おはよ」
朱鷺は心配そうに私の机に顎を乗せて、顔を覗き込んでいる。
……相変わらず、朱鷺はパーソナルスペースが近い。
「やる事があったって、冬季也から聞いたけど」
「ああ……うん。先週の授業で分からないことがあったから、家で復習しようとしてたんだけど、それを忘れちゃって」
「図書室に行ってたの?」
冬季也も会話に加わった。
「うん。今週ついていけなかったら困るなって思って」
「寧々子は真面目だなー」
「真面目なのは、冬季也の方だよ。冬季也は復習してるんじゃないの?」
「まあ、基本は当日に復習するね」
「ほらっ‼︎」
「いや、こいつは次元が違うから」
そんな話をしてる間にHRが始まった。そして、運命の一時間目。英語の時間がやってきた。
私は配られた小テストに手を置いて深呼吸した。もし、私の見た夢が正夢なら……。
私は目を開いて、小テストを表に向けた。
凄い……あの夢凄いよ‼︎
なんと、テストの内容が全て同じだったのだ。こんな夢を見るなんて、私は予知夢の才能でもあるのかな?
テストは夢の中の私とは違い、とても手応えを感じた。
「疲れたーー、全然出来なかったし」
授業が終わり、朱鷺は机に突っ伏した。夢では私も小テストが全然出来なくて、突っ伏していたな。
「あれ?寧々子は?出来たの?」
朱鷺は疑問を投げかけた。私は英語が苦手。それは朱鷺も冬季也も周知の事実。そんな私が小テストの不出来を嘆かないのに疑問を抱くのは当たり前だ。
「あっ、たまたま復習してたとこが出たからいつもよりはね。といっても、冬季也程ではないと思うけど」
私は私たちの席のところに来た冬季也を見て言った。
「確かにな。冬季也は小テスト楽勝だったんだろ?」
「んーー、でも小テストの内容先週習った範囲だったし」
この言い方は、出来たに違いない。
「今週末は、クロワッサン作る予定だから、いつもより待ち時間が長いから冬季也に英語を教えてもらおうかな」
「いいよ。でもいつもより待ち時間が長いって?いつもの発酵より長いの?」
夢では言葉が足らなかったので、私は先に補足をして話した。
「そうなの。クロワッサンの生地は冷蔵庫で寝かせないといけないのよねー」
「いつもは夜のうちにある程度オレがやってたけど、今回は一から一緒にやるもんな。出来上がるのも夕方以降だし、それがいいかもな」
「えっ、クロワッサンってそんなに時間がかかるの?」
冬季也が驚いて聞いてきた。
「でも、過発酵の心配がないから、出かける用事があっても生地を冷蔵庫にいれて出掛けれるからそれは利点だな」
「そうだね。寝かせている時間に買い物行って、帰ってきたら続きをとか隙間時間に出来るもんねーー。早く作って食べる事は難しいけど」
「へえ。パン作りって奥が深いんだな」
冬季也は不思議そうに頷いていた。
「ーーよし、なら昼はオレが待ち時間にチャチャっと作るか」
「やったぁ」
私は両手を上げて喜んだ。
そうだ。あれも言わなきゃ。あー、でも言うと夢では確か朱鷺が……。
うん、ギリギリに言おう。私は言おうとした言葉を飲み込んだ。
そして、三時間目が始まる前の放課。
「あっ、そう言えば今日はお昼一緒に食べれないんだった」
「「なんで?」」
二人は口を揃えて質問した。
「女子は調理実習があるのよ、確かハンバーグ作るんだったかな」
「なんだ、お菓子じゃないのか」
「他にスープとオートミールクッキーも作るから、クッキーは持って帰ってくるわね、じゃあ‼︎」
私は伝えるだけ伝えて、足早に教室を出た。よし、なんとかあれは避けられたわ。
朱鷺は女子に人気があるから、手なんか握りられた日にゃ、何言われるか分かったもんじゃない。
「ヤッホー♪」
私が去った教室からは、朱鷺の浮かれた声が外までよく聞こえてきた。
現在三時間目の直前。今までの出来事は夢と同じ。こんなに当たるなら、是非一日を見てみたい。私は調理実習の途中までしか見ていないんだから‼︎
自分に文句を言いながら、私は実習室に向かった。
「時坂さんは誰かにあげるの?」
調理実習が同じ班の子に聞かれた。他の皆も聞き耳立てている。
まただ。やっぱり夢と同じで聞かれるのか。朱鷺は言わずもがな人気者だし、冬季也もなんだかんだ言ってそこそこモテる。そんな二人と幼馴染の私は、女子に色んな意味で注目されてしまうのだ。
だから、誰にあげるか皆気になっている。まあ、皆さんのご想像通りですけど。
「えっと、冬季也と朱鷺と一緒に食べようかなと。まあ、お昼いつも一緒に食べてるからね。あげないのは変でしょ?幼馴染だし‼︎」
夢と同じならたまに聞かれるあのフレーズが飛び出す。その前に牽制牽制。私はクッキーを入れる為に持ってきたタッパーを出しながら、幼馴染を強調して言った。
「あの二人と幼馴染って良いよねー」
「うんうん、羨ましいよー」
「さっ、さあ作り始めないと時間がなくなっちゃうね」
よしよし、話題を上手く逸らせれた。そして、玉葱を切り始めた。
しかし、問題はここからだ。私はハンバーグの玉葱を切っているところで目が覚めた。この後は一体どうなるのだろう。
ううっ、やはり目にしみる。私は玉葱を切りながら涙を流した。
そしてまた意識が途絶えた。
***
「続きは⁈」
私は勢いよく起き上がった。辺りを見渡すとそこは自分の部屋だった。私は慌ててスマホを見る。
4月20日、6時30分。
そう、私は3度目の朝を迎えたのだった。