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おてまりさん  作者: 北 真理子
2/2

「おとんち の御利益や!」

気がつくと、おてまりさんは、仏壇の前の

ど真ん中に座っていた。

そして、次々と、黒い服を着た大人が、頭を下げに来ては、

めいめいの席に戻って行った。


中には、手を合わせて涙ながらに拝んでくる老婆もあって、

不思議な緊張感がみなぎっていた。


いったい、今、何が起こっていて、

自分が何をしているのかがわからない。


それでも、次々と人々がやってきて、こちらも頭をさげる。

父は、末席にいて、やはり、多くの挨拶に対応していた。

呼びかけても届かない距離だと見て、おてまりさんは

諦めの境地で、黙々と挨拶を繰り返していた。


祖父の踊り事件の後、いさかいや、まずい場面に差し掛かると、

おてまりさんは、頭の中でおまじないのように、

「おとんち トントン」と歌うことにした。


不安で不安でたまらない、現在の心境を誤魔化すには、これしかないと

歌い続けた。


実際、家では、不穏な空気になれば、すかさず、祖父が歌って踊るようになっていた。

≪おとんち≫の一言で、言い争いもおさまった。

やがては、祖父が≪お≫といって、踊りの身構えをするだけで、

家の者が、いがみあうのを避けた。


おてまりさんも、嬉しくなって、祖父の≪お≫の掛け声で、踊りのポーズで身構えた。

そこから唄って踊りだしたい衝動にかられながら、嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。

御蔭で、家の中は丸くおさまったが、

おてまりさんは、すっかり、「おとんちソング」の魔法に夢中になっていた。


すると、「おとんち トントン」の効果で、情勢が変わった。

御坊さんの度胸が始まったのである。

いつの間にか、皆が席に着いていた。

おてまりさんは、会釈から解放されていた。


「おとんち の御利益や!」


「おとんち トントン」と歌って、場が鎮まると

祖父は、こう言って、満足そうな笑みを浮かべた。


場の空気が変わったことも、おてまりさんには、おまじないの効果が出てように

解釈された。

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