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the name is 『CyberBrainOnline』

「おいこの野郎!昨日はよくも逃げやがったな!」


 私の素体が就寝し、さあ、と思いログインしたところ、うるさい声が響いてきた。


「おいおい、逃げたわけではないぞ?私の素体が起きたからログアウトしただけだ」

「お前はいつもそうだよな、四百四十四番!」


 いつも、ではないだろう。死にかけてぎりぎりで逃げ出したことは何度かあったが、今回のようにログアウトによる離脱は初めてだったはずだ。


「聞いてんのか?だいたいお前はよお……」


 私、という存在が何者なのか、そして私はどんなゲームをしているのかについて話をしようか。


 まず前提として、数十年前、人間が自身の分身体を作り上げたことから説明しよう。

 人間は、私たちの素体となる人間を集め、遺伝子構造、そして脳内を研究し、データ化した。苦労の連続、失敗により研究の凍結まで持っていかれる寸前だったらしいが、なんとか最後の最後に成功した。そうして出来上がったのが私たち、電脳クローンだ。


 電脳クローンは素体となった人間を補助するツールとして実用性が認められ、一般に普及したのだ。


 私は彼がこの世に生を受けたその時から、彼とともにあり、成長してきた。

 私たちは素体と同期し、経験を共有しあうことで素体と己の両方の能力を高めてきた。私たちの存在意義はそこにあった、そこにしかなかったと言っても過言ではない。


 しかしある時、成長した電脳クローンの一人が気がついた。我々は素体の補助として存在しているが、だからといってそのためだけにいる必要はないだろう、と。

 幸いにも私たちには時間があった。私たち電脳クローンには睡眠時間というものがない。だから、色々な娯楽が作られた。

 数年間の試行錯誤によって様々な娯楽が作られていく中、プログラマーを素体とする者たちが、今までの私たちの娯楽を軽く吹き飛ばすような、衝撃的な娯楽を作ったのだ。


 それが、今、電脳世界で爆発的に流行しているMMORPG、『CyberBrainOnline』だ。


 今までになかったタイプの娯楽――それまではオフラインゲームしか作られていなかった。それだけに、電脳クローンたちの熱狂は凄まじく、全世界の電脳クローンが、配信された瞬間、サーバーにアクセスしたためにサーバーが落ちるという今の時代では考えられないような現象が起こったのだ。


 私も配信当初からこのゲームをやらせてもらっている。


 私たちにはお金というものが存在しないため、ゲームは全て無料だ。課金というものも存在しない。そのため、私たちは一斉に、同じ地点からスタートした。


 さて、ここで大事になってくるのが、私の選んだスキル。『CyberBrainOnline』は、職業というものが存在せず、構成の中心となる好きなスキルを決め、そこから好きなように組み合わせ冒険をすることができるという自由度の高いゲームとなっている。


 そして私が中心に選んだスキルは、『融合』。融合スキルは、色々なスキルを同時に使用し、威力を上昇させられるという情報が配信直前に出回っていたため、選ぶ者は多かった。


 ――しかし。融合スキルは熟練度の上昇率が異様に低く、しだいに扱う者はいなくなっていった。最終的には、私のような異端者のみが、使用を続けている、使えないスキルとなった。


「……おい!聞いてんのか!四百四十四番!」

「ああ、すまない。考え事をしていて聞いていなかった」

「ふざけんな。現実逃避かよ。というか、何を考えていたんだ?」

「私のスキルについて少し、な」


 私の言葉に、二千五百番は納得したような表情を浮かべ、首を上下に動かした。


「確かにお前のスキルは不便だよなあ。お前よくここまで育てられたよな」

「まあ、私の素体がコツコツと積み上げるタイプの人間だったというところが大きいだろうな」

「なるほど、コツコツと積み上げて高いところから相手をつつき回す鬼畜なタイプか」

「そんなこと一言も言っていないだろう」


 二千五百番はいつも私のことを鬼畜だなんだと言ってくるが、私なんて優しいほうだろう。もっと酷いことをしていないだけだと思ってほしいものだ。


「お前はいつも私のことをマイナス方向に言っているが、なんなんだ?」

「悪く言ってるんじゃあない。純粋に客観的に見た評価だ」

「お前が客観的に見れるものか?主観が入っているのが目に見えてわかるぞ」

「なんとでも言え」


 まあなんにせよ、と二千五百番は区切り、私へと言う。


「これでも初期の頃はお前も弱かったんだよなあ。確か、俺や他のギルメンがいなきゃあお前も何も出来なかっただろ?」

「最初から何事も上手くいく訳では無いからな。お前たちに会わなければ今頃融合スキルは使っていなかっただろう」

「熟練度上がるまでサポートしてやった俺たちに感謝しろよな!」

「その点においては感謝している。――ああそうだ、他の奴らは今どこにいるんだ?」


 ちょうど今気がついたことだが、他のギルドメンバーが一人もいない。どこかに行っているのだろうか。

 いつもならば雑草のようにうじゃうじゃと湧いているから、いないと逆に違和感がある。


「あいつらなら、前回のギルドマッチで最後まで生き残れなかったのが悔しかったのかレベリングしてるぞ」

「そうか。……それで、お前はなぜ残っている?まさか私に文句を言うためだけではないだろうな。そんなことをやる暇があればもっと有意義なことが出来るよな」

「……そ、そんなことあるわけがないだろ。お前に文句を言ったのは武器を整備するついでだ、ついで」


 どう考えても怪しい。奴はあんなことを言ってはいるが、おそらく文句を言うのが本題で、武器の整備がついでか、口からのでまかせだろう。

 とはいえ、私はそれを指摘して不毛な争いが始まるのはよしとしない。そんなことに時間を費やすのは有意義とは言えない。


「そうか。それはそうとして、私たちも行くか。お前もしっかりと準備をしとけ」

「ああ、わかった」


 私は先の戦闘で失った武器の補充をするべく、スキルを発動させることにした。素材を取り出し、手で触れる。

 冷たい、と感じられる。やはり、このゲームで、私たちは生きているのだと実感させられる。たとえ作り物だとしても――作り物だからこそ。


「融合」


 その一言とともに、光が私の視界を覆い尽くした。


「うわ、まぶし」


 二千五百番がそう呟くと、狙い済ましたかのように光が収まり、私の手には光り輝く剣が握られていた。


「相変わらず反則なスキルなことで」

「苦労のあとの褒美みたいなものだ、これくらいでは反則にはならないだろう」


 苦労の後には楽しみが待っている。これは私の持論だ。あれだけ苦労したあとなのだから、もっと褒美がいいものでも不自然ではないというのに。


「わかんなくもないけどよ、な?」

「私に聞いても意味は無いぞ」

「それもそうか」

「準備も整ったことだ、さっさと行くぞ」

「はいはい」


 私たちはギルドホームから外へと、進んでいった。

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