第二章 第二部〜擬似〜
今回はシリアス要素から入ります。
複雑そうな機械が並ぶ部屋。ホルマリン漬けにされた謎の生物の四肢。まるでゾンビの研究でもしていそうな部屋だ。そこで男が、
「擬似・シャドウ。」
かの"力"のような言葉を唱えた。すると、ひときわ大きな入れ物で培養されていた物体が膨張を始め、人のような形になった。それも···"忌むべき力"を持つ、"彼"と瓜二つな肉体へと。
「成功だ···!」
男と、その周りにいた数人の幹部らしき人や白衣に身を包んだ人が小声で呟いた。すると、彼と似た肉体。本物を光として、"影"とでも言おうか。培養されていた入れ物のガラスを割り、中の液体を垂れ流しながら。
「手荒なことをして申し訳ありません。マスター。どうぞ、ご命令を。」
影は男に跪き、畏まった口調で話した。
「ならば···。貴様をシャットダウンする方法を知っている、あの研究者達を」
「消せ」
男が命じるが早いか。
「クロウ。」
そう唱え、手から闇色の刃を生やし、白衣を切り裂いた。
ものの一瞬の出来事。白衣の者達は驚く暇もなく床へ倒れ、白衣と無機質な床を紅に染めた。その傷跡には、紫の液体が付着していた。
「上出来だ。」
男は無機質で、それでいて嬉しさを感じさせる声で言った。幹部らしき人物も怯えていたようだが、男への忠誠心が強いのか、すぐに元の様子に戻った。影はというと、何一つ感情を動かす様子もなく、ただただ気持ちのこもっていない双色の眼で生命失き白衣を見下ろした。白色の髪が、室内なのにどこから流れてきたのか、風にたなびいた。
「ケイよ、結果を。」
男にケイと呼ばれた幹部は、不意を疲れたように驚き、
「実験は成功。影は無事生成され、ボスに完全に服従している状態。"力"の行使も上々です。また、この結果から分かる通り、ボスの機械による力も証明されました。」
淡々とケイが実験結果を分析し、報告した。
「第一段階。成功です。」
実験室は静かな歓喜に満ちた。
ところ変わって、彼、五十嵐涼の部屋。彼は青白い炎を弄び、やがて飽きたのか、炎を裂くように握り潰した。炎は青い煙と化し、部屋の中に消えていった。先程から付いていたテレビが、ニュースを放送した。
「次は東京都で多発している無差別殺人事件のニュースです。この事件の被害者の関連性として、多くは背中に三本の切られた跡が付いていて、その傷の周りに紫色の色素が皮膚に沈着しているということです。当局は薬品を使った犯行だと見ていますが、凶器は未だ不明な模様です。」
近頃物騒だと思いながら、台所に飲んでいたコーヒーカップを片付けると、いきなりリビングからガラスの割れる音が響いた。彼は驚き、リビングへ戻ると···
窓際には散乱したガラスの破片、所々に紫色の液体が付着している。そしてそこに立っていたのは···
自分だった。いや、正確には少し違った。まず、眼の色。彼は深い黒色をしているが、相手は白銀と金色のオッド・アイだった。そして、髪色。黒髪の彼に対して相手は白髪だ。その手にはまだ乾いていない紫の液体が付着した、闇色の刃が陽光に反射し光を放っていた。流石に相手も自分と似た風貌の人間に怯んだのか、少しよろめいたが、いきなり口を開き、
「好都合。お前を殺せば全て終わりだ。」
彼も只ならない空気を感じ、身構えた。
「パワード。」
相手"力"を唱え、手に生えた刃で彼を貫こうと手を振り下ろした。間一髪、彼は避けたが、今さっきまで居た場所の床は深い切られた跡が付いていた。それよりも彼が驚いたのが
(なんだこいつは···!?"力"を使った?パワードなら攻撃力を増強させる力だ。それを使った···。まさに俺の"影"ってわけか···)
「テレポーテーション。」
彼は、影もろとも姿を消した。
最後まで読んでくださってありがとうございます!
今回はシリアス要素入りです。初となる主人公以外の"力"の保持者です。はてさて、どうなるのか···