弓戦の勉強 ――本当に300メートル先を狙えるのか?
廃棄された?『クロスボウ図鑑』様サイトから抜粋
数値早見表
ポンド→キログラム
「○○ポンドのクロスボウ」とありますが、これは弦を引く重量を表しています。
矢を押し出す重量とも言えます。
レートの高いものだと補助用の機材が必要です。
ポンド kg
1 0.4536
50 22.5
60 27.2
80 36.2
100 45.3
120 54.4
130 58.9
150 68.0
175 79.3
180 81.6
200 90.7
ポンド→矢の速度→ジュール(J)
矢の重量と速度で運動エネルギー(J)が決まります。
数値は大まかな値です。
計算式:速度×速度×矢の重量÷2000
ポンド 矢の秒速(m/s) 矢の時速(km/h)運動エネルギー(J)
60 45 162 20
120 55 198 30
130 60 216 32
150 65 234 52
175 90 324 118
180 95 342 130
185 100 360 136
※各数値は使用する矢で前後します。
※音速は340m/s(1225km/h)です。
他、参考データ
タイソンのぱんち 1000J
やきう投手の投げる球 130J
9mmパラ(普通の拳銃) 500J
三匁筒 600J
44マグナム 1500J
NATO弾 (ライフル)2000J
まず和弓なんですが、おそらくロングボウと同等か、それ以上の威力を持っています。
なぜなら和弓は、弓としては世界最大クラスの大きさだから。
コンポジットボウが云々かんぬん言う方は、その事実を完全に見落としてます。大きさで倍率こそ掛かりませんが、パワー増加と無関係ではありません。
(そもそも和弓も『立てて使う弓』でロングボウに分類される)
そして日本人は、世界有数の変態武器マニアなうえ……和弓は分類上、完全にコンポジットボウとなります。複合素材で強度を高めてますから。
「ロングボウは凄いけれど、ほぼ同じコンセプトの和弓は使い物にならない」
なんていうのは、少しロマンに毒されています。
(嘘かホントかwikiによれば「ナショナルジオグラフィックでロングボウと和弓を比較したところ、和弓に軍配が上がった」とか。ただ、無条件に信じるのも……)
では、各個に計算して確かめていきましょう!
ドローウェイト≒威力ではありませんが、目安にはなります。
最初に提示したデータは現行品の物のようですから、「やや速度は落ちるかな?」程度でしょう。
(狩猟用に比べ戦闘用の矢は重い=速度が落ちる、クロスボウに比べ弓の矢は重い=速度が落ちる、ロングボウに比べ和弓の矢は長い=速度が落ちるですが……まあ目安です。必ず威力が下がる訳でもありませんし)
で、いろいろと調べると――
・日本の一般兵は40~70kg程度で張った弓を使っていた
・西洋のロングボウも、強いので70kgぐらい。平均は36kg(80ポンド)だった
なんて情報がヒット。
……80ポンドとかでも、引くの大変そうだけどなぁ。
ちなみに現代弓道は20~30kgらしいので、戦場ではお呼びがかからない!?
作者は一度だけ引かせて貰いましたが……相当重かったんだけど!?
でも、80ポンドだと前回の考察で――
矢というのは160~180km/hなのだ!
という前提に沿っていたり?
でも強弓レベルだと150ポンドですから、かなり違う代物かも?
またクロスボウも185ポンドあたりから音速を超え、ちょうど火縄銃ぐらいの速度となるようです。
しかし、強弓と比べると確かに強いけれど……劇的ではないような?
これは「もっと重いクロスボウが存在する」か「誰でも強弓レベルだからクロスボウは強い」のどちらか、もしくは両方でしょう。
前置きが長くなりましたが、やっと噂の300メートル射撃です!
高度計算サイトで速度と射角を代入――
どうやら強弓から22°で打ち出すと、約5秒後に届くようです。
◎結論1 強弓レベルなら300メートル届くかもしんない(空気抵抗を無視すれば)
……それとも無理なのかな? 流石に無視しきれる抵抗じゃなさそう。
これはどこまで届くかで再検討しましょう。
そして逆説的に――
◎結論2 強弓レベルのクロスボウも、間接射撃している
となります。
なぜなら150ポンドで張った弓とクロスボウは、基本的に同じですから。
つまり「クロスボウは間接射撃できない」というのは、デマです。ただ苦手なだけでしょう。
これは近距離時を考えると把握して貰えるはずです。
仮に10メートルの超近的を狙ったとします。
秒速65メートルですから、届くまでは0.15秒!
0.15秒に物が落ちる距離は0.11メートル! つまり、たったの11センチ!
これなら見たまま真っ直ぐ狙えの直接射撃です。
0.45秒で1メートル――約30メートル先の的で、やっと相手の1メートル上を狙いだします。
じゃあ、クロスボウは、いつまでも直接射撃かといわれると――
すでに計算した通りで、300メートル先へ届かすのにクロスボウも間接射撃を始めてます。
どころか100メートル先の場合ですら、僅かながらも角度を付けています(射角7°で到達高度3メートル)
やはり直接射撃専門の兵器ではありません。
なので――
「相手に高いところを陣取られた! 直接射撃しかできないクロスボウでは狙えないぞ!」
なんてのは、少し大袈裟です。まあ、苦手とはいえそうですが。
この流れのまま150ポンドボウの限界を。
色々な抵抗を無視しているので、射角45°が限界距離となります。そこから計算すると――
430メートル先へ、なんと滞空時間9.3秒で到着!
が、これは空気抵抗を完全に無視した数値。
まあ無理だな!(苦笑)
◎結論3 ロングボウや和弓では、おそらく400メートル先へ届かない
たまーに「600メートル届くんだい」などと主張されている方いますが、絶対に無理なようです。
そして超音速クロスボウ(180ポンド)でも、射角45°で空気抵抗無視して、やっと920メートル!
その滞空時間は13.6秒ですから、当てるなんて絶対に無理でしょう。
ターゲットが絶対に動かない――縛られているぐらいの条件が必要です。
というか超音速クロスボウって、撃った時に起きるソニックブームで困らないのでしょうか?(苦笑)
それとも愚地克巳のマッハ突きは、あそこまで酷いことにならない!?
(追記:作者の勘違い。超音速クロスボウが実在するかは不明)
まあ話を戻すと……巻き上げ式クロスボウなら『例の距離』に届くのかもしれません。
150ポンド当たりから補助器具は必須……おそらく120ポンドあたりからテコを使っているはずです。
某保険調査員が凄い漫画で、2キロ先まで届くとされたクロスボウも……あれは機械式巻き上げクロスボウの、それも最終型に近い際物と思われます。でないと説明がつかない!
……空気抵抗を無視した射角45°でも、時速505kmでている必要あるんです。滞空時間だって20秒もあるし。
何をしたくて、そんな際物を作ったのやら……ロマン兵器にしたって……。
◎結論4 機械式クロスボウなら二キロ先まで届くよ、きっと!
ついでに平均的ロングボウ(80ポンド、時速180キロ)の到達限界距離(空気抵抗無視で射角45°)を計算しておくと――
到達限界距離 約250メートル! 滞空時間 7秒強!
うん、これ現実で考えたら、200メートルも届かないでしょう。おそらく届いて150メートルぐらいかな?
これなら重クロスボウや強ロングボウが評価される訳です!
両者は通説で300メートルぐらいの距離から攻撃できます!
そんなん一方的! もうレイプかイジメです!
ただ――
命中率は、恐ろしく悪い
が確定でしょう。
150メートル先を狙う場合でも滞空時間2秒越えです。狙って当たると考える方が間違っています。
平均的ロングボウで80メートル先を狙っても、1.6秒程度で着弾します。2秒越えは相当に長い!
ゴルフボールみたいな軽くて抵抗の少ないものですら、微風でガンガン流されていきますし。
そして300メートル先を狙う場合では、滞空時間5秒です!
フランス・イギリスのロングボウ対クロスボウですが、かなり伝説化しているといわざるを得ません。
いや、確かに200~300メートル先から当たればラッキーと、範囲攻撃はアリでしょう。実行もされたと思います。
しかし、それだけで相手を降参させるのは無理でしょう。
もう、とにかく命中しないはずです。滞空時間5秒では風に影響されすぎます。
(風の影響で一秒に20センチですら1メートルずれる? 加味しても、今度は気まぐれに悩まされるはず。そもそもズレずに狙うのが大変、これは後述)
となると両陣営で飽和攻撃&当たればラッキーですが……それって何時間も続けられるのかなぁ?
多少危険でも200メートル。できれば150メートルぐらいまで接近して勝負をつけにいく方がベターに思えます。
で、150メートルぐらいまて接近して、お互いに――
「さあ、弓兵の皆さん! やっちゃって下さい!」
と他の兵科は頼むわけです。
そして数分したら、どちらかの陣営が――
「やべぇww うちの方が弓兵すくねぇww このままだとジリ貧で負けるww」
と気付くわけです(苦笑)
もう『突撃』or『逃げる』となる……のかも?
いや、開戦前に数をそろえられなかった方が悪い?
他にも雨将軍じゃないですけど……風将軍は有り得たかも!?
「ふふ、勝ったな。どうみても我らの方が、弓兵は多い! ――って! 強風! めっちゃ乱気流が吹いてますやん!」
「将軍ー! 風が右へ左へ激しくて、矢が敵陣にすら届きません! 明後日の方向へ流れていきます!」
「な、なんだと!? じょ、冗談ではない! 我らは歩兵が少ないんだぞ! 突撃されたらどうする!」
「わぁ! いまどきランス突撃してきた! もうすぐ近世なのに!?」
なんて喜劇も!?
最後は標的の見え方について!
なぜか関係者全員が口を閉ざす、この問題にメスを!
まず人間大の定義を、縦2メートルで横1メートルの長方形としましょう。ちょうどベニヤ板一枚分の大きさ、もしくは畳一枚(正確には0.9×1.8)ですね。
さすがに人ひとりには大きすぎるので、上半分の1メートル平方が有効とします。
まだ大き過ぎる?
べつに大きくても良いんです。その分だけ射手に有利ですから。
このターゲットを300メートル先へ置けば、300メートル先にいる人間と同じと考えられます。
そして人間は角度によって物の大きさを把握しているそうで、つまり――
『自分とターゲットの底辺を結んだ線』と『自分とターゲットの上辺を結んだ線』で作られる角度
が重要となります。
それが同じだったら、見え方は同じ……だそうです。
これは三角関数で導き出せて、例によって高度計算サイト様にお願いすると――
0.19098522435969°
と判明(底辺300メートルで高さ1メートル)
角度が出たので、次は適当な距離を代入すると、見かけ上の大きさを算出できます。
ここでは判りやすく1mとしましょう。結果――
0.00333……
うーん? 1メートル先に置いた3.3ミリ平方?
300メートル先のターゲットは、それと同じ大きさに見える?
………………ほぼ点ですね。
3メートル先へ貼ることにしても……1センチ平方?
これ狙撃できる?
室内(無風)で弾道調整&把握済みでなら、3メートル先の1センチ平方は……無理ではない……かな?
(ちなみにサバゲーは付き合いでやった程度のエンジョイ勢で、かなり下手な上、足を洗ってからも長いです)
伝説の狙撃手シモヘイヘは、裸眼で400メートル先のスナイプに成功?
(この場合の見た目は1メートル先の2.5ミリ平方! ヘッドショットだったとすると、もっと小さい! わぁっ! 本物の基地外だぁww)
参考 ※ 単位はミリ平方
50メートル 100メートル 200メートル 300メートル
1メートル 20 10 5 3.3
10メートル 200 100 50 33
30メートル 600 300 150 100
オマケ 二キロ先の人間大 → 1メートル先の0.05ミリ平方
ちなみに弓道の的は28メートル先。
28メートルで換算すると……300メートル先の人間大は7センチ平方に相当。
的の一番真ん中の白い丸――中白は半系3.6センチだから……ぼぼ同等?
ど真ん中へ当てられるのなら、300メートル先の人間大に命中も可能?
的そのものには、トップレベルで9割当てるといいますから、大まかな辺りへ撃ち込むのは造作もない仕事……なのかな?
これはスキルとして習得できなくもない感じです。目が良ければ。
(戦闘レンジが最大300メートルな現代の一般歩兵が、基本的にスコープを使わないのにも納得です。練習すれば当てられるようになるんでしょう)
となると問題となるのは、やはり滞空時間です。
5秒もでは、思いっきり風の影響を受けると思われます。それを読むのは凡人には難しそうだけど……限られた天才なら、300メートルを『狙って当てる』偉業が……可能?
「風で一秒に20cmずれている。つまり、風上へ3.3ミリずらし、射角22°で撃てばいい」
……これ、できる?
ちなみに撃った瞬間に風の影響が一秒に15センチと弱まった場合、狙った位置から25センチほどズレます。
場合によってはハズレてしまうでしょう。
できないも、できるも……どちらも正解に思えてきました(苦笑)
ちなみに際物と断じた機械式クロスボウですが、狙撃という一点においては有用です。
滞空時間を短くすればするほど、それだけ風などの影響を受けません。
そして、それは速度を上げれば解決です。
また間接射撃の必要もなくなります。その分だけ難易度も下がり、命中精度も上がったことでしょう。
推定370ポンドなら300メートル先まで1.5秒。推定555ポンドなら1秒。
……現代のスナイパーライフルも真っ青です(追記:作者の勘違い。現在のスナイパーライフルの方が速い)
機械式は、そうやって運用してたのかな? 命中率の高いエースに使わせて?
◎最後に結論ラッシュ!
・80ポンド級は定説通りで良さそう
・150ポンド級は、300メートルぐらいなら届く。
・ただし狙って当たる道具ではない。長距離戦をするのなら集団での運用が大前提。
・150ポンド級でも、接近した方が戦果が見込める。
・天才なら300メートルで狙って当てられたのかもしれない。
・機械式クロスボウは狙撃用だったのかも?
・噂のロングボウ部隊も、全員が強弓だった訳ではない。
・シモヘイヘはおかしい。ゲンジバンザイ!
◎オマケ
那須与一が狙った扇だけど、あれって80メートルぐらい先だったらしいよ!
扇の中の丸は、だいたい直径7センチぐらいなんだって!
つまり与一には、1メートル先にある直系1ミリぐらいに見えてたんだ!
………………うーん?
それ、シモヘイヘの400メートルスナイプより難しくない!?
と、とにかく!
お馬さんにのった与一は、沖でどんぶらどんぶら揺れる的を射ったんだ!
当時の平均的な弓は、70メートル届くかどうかギリギリが普通だったらしいから……オマケしても与一の弓は80ポンド級くらいだろうね。
となると滞空時間は約1.6秒くらいなんだけど、無風だった訳じゃないんだ。
当然にお船は波でプカプカ上下に動くし、お馬さんだって微動だにしなかったわけじゃないからね!
でも、天才与一は風と波と馬の呼吸の全てを計算に入れ……て?
源氏の弓兵は化け物か! なぜ当たる! おかしいだろ!
追記!
クロスボウですが、『間接射撃が苦手』ではなく『システム的に不可能』という情報を頂きました。
弓矢の場合、一度天高く舞い上がってから、矢じりを下にして降ってくる訳ですが……クロスボウの矢でそれをやると、きちんと矢じりが下にならないそうです。
つまり――
「間接射撃も実施は可能だけど、それで当たるのが横っ腹じゃ意味がないでしょ」
となるそうです。
また間接射撃は熟練の技だから、短期育成が可能なクロスボウの射手では無理というご意見も。
というわけで『クロスボウは直接射撃しかできない』という定説が正しかったことに。
(いや、逆に「クロスボウでも間接射撃可能だよ?」とも頂けるかもですが、ここでは不可能な場合の追加情報を)
この前提の場合、イギリス・フランスでやっていたロングボウ対クロスボウの戦いで、クロスボウ側は直接射撃で付き合っていたことになります。
高さ20メートル、底辺300メートルで作られる角度は3.8°弱
とりあえず、ここまでは直接射撃であると考えてみます。
(本当はクロスボウが何度角まで貫通能力を維持できるのか調べないと駄目)
物が20メートル落下するのに掛かる時間は2秒、なので150m/sの速度が必要です。
(正確には初速ではなく当たるまでの平均速度。また空気抵抗も考慮して無い)
これは推定で270ポンドのクロスボウだったとなります。
(色々無視しているから、もう少し重い?)
直接射撃で難易度は下がり、滞空時間も2秒へ短縮。
……ロングボウより命中精度は高かったのかも?
ただし最低でも張力122キロですから、補助具が必須です。
テコ式では難しいレベル……かな? おそらく機械式な巻き上げ機でしょう。
で、これは時速540km/hなので、間接射撃なら2キロ届いちゃう級!
また、残念ながら実際にフランス軍が実際に使っていた重さは、当時の品物を一つひとつあたるしかありません。
以上を踏まえて作者の予想は――
フランス軍は張力250ポンドぐらいのを使っていて、想定レンジは200メートルぐらいだった。
かな?(いうまでもなく確実な根拠はない)
色々な情報を考えるに、これくらいなような?
もちろん300ポンド台が主流で、300メートル先へポンポン届かせていた可能性はあります。
……これ以上は、もっと高度な調査が必要でしょう!