日曜と私と役立たず
愚痴度:★★★★★
スッキリ度:★★
日曜日は嫌いだ。一週間のうちで唯一の休みである土曜日が終わって、長い連勤の初日。夕方から夜にかけてが基本シフトの私が、唯一午前から出勤しないといけない日。客数は比較的平日よりも少ないという特殊な立地の店にも関わらず、厄介な客層が最も多い日。一番嫌いな従業員と組んで仕事をしないといけない日。そして、退勤の時間までにツナギの彼は絶対に来ない日。
逆に言うと、日曜さえ乗り切れば平日は気楽なのだ。好きな時間に寝起きしても、のんびりと自宅で過ごしたり出かけたりしてからでも、余裕で出勤できる。出勤から数時間はバリバリ仕事が出来るお姉様方のうちの一人と私で、それ以降は店長と私で、何の問題もなく店を回せる。
だからといって仕事が楽しいかと言われても、仕事自体は何も楽しくない。レジ接客の時の笑顔は、意識してそういう顔にしている方が集中しやすいと学んで自然と身についただけだ。楽しそうに仕事してるね、なんて誰かに言われようものなら、腹の底から笑い飛ばして全力で否定してやろうかとも思ったりしている。
不真面目極まりない店員が仕事で唯一楽しみにしているのは、ツナギの彼の来店である。そんな彼のことをつぶさに書き起こしてみたくなって、意味のわからないタイトルをつけてこうしてエッセイを書き始めたのが、憂鬱な日曜に日付が変わったばかりの時間のこと。あまりにも書くことに夢中になりすぎて、投稿して活動報告も終えた頃には早朝5時。少しでも寝ないとと無理矢理寝たものの、案の定支度がギリギリ間に合うかどうかの時間に起床して出勤。
それでも、衝動に任せてこのエッセイを書こうと決めたことに私は満足している。何の面白味もないことしか書けないどころか、ただただ読み手を不愉快にさせるだけの鬱モード全開なことも書き残していこうかとも思っているが、高次元な自己満足が狙いであることをご理解いただいた上で、読み流すなりお読みいただくことを中断していただくなりしていただけたらと、貴重な読み手の方に勝手を押しつけるつもりの不条理な書き手根性も惜しみなく晒していこうかと。普通にごめんなさい。
そんなメンヘラアピールはさておき、嫌いであると前置きした日曜勤務を終えて、予想通り来なかったツナギの彼についての話題が何もない今回は、何について語るべきか。あらすじに日常のストレスもまとめると前置きしたのをいいことに、日曜勤務で組まなければいけないその嫌いな従業員について、思いつくがまま書こうかと。
彼女を仮にAと称する。歳はアラサーの私の年齢で単純計算して約2倍。彼女の実子と私はだいぶ歳が近いらしい。
何と言ってもAはとにかく仕事が出来ない。鈍くさくてミスも多い。自分がその時に取りかかっていること以外に気を配ることが出来ないというか、物事を同時進行で行うことが出来ない。Aの仕事ぶりを傍で見ている時の私は、浅い知識の中から彼女をとある疾患の症例に当てはめて考えたりすることもあるが、実際にその障害に悩まされている人に対してもAに対しても失礼に当たるので、その名称だけは伏せる。
それだけで済めばまだいいが、特に厄介なのがAの性格だ。とにかくよく喋る。思ったことがすぐに口に出る。かと思えば、何かイレギュラーなことが起こって私や他の誰かの補助を必要とする肝心の場面で、正確な説明が出来ずに黙り込む。むしろ説明すること自体を諦めて、何があったのかこちらから質問する形でないと説明が出来ない。
私とAのちょうど中間の世代であるお姉様方は、仕事の出来ないAを明け透けに嫌っている。人手も足りていない中で最低賃金で自分たちが頑張ってるのに、出来ない人を庇う余裕なんてない。そんな義理もない。彼女たちの言い分に物凄く共感を持ったが、どうやらお人好しらしい私の性格上、私も彼女たちほどAを突き放して接することは出来なかった。
その結果、Aは私を唯一の味方に認定した。嫌われてしまったものは仕方ないと、他の人たちに自分の仕事ぶりを認めてもらうことは諦めたようだったが、自分の子供と大差ない私にだけは嫌われないようにと、私のいるところではAなりに努力をしているようだった。私に愛想を尽かされたくないと必死になるAは、そんな自分が恥ずかしいとは思わないのだろうか。
そんなAに日頃思っていたことを話せた、スカッとした話を一つ。
きっかけは忘れてしまったが、とにかくAが私を褒めちぎってきたことがあった。覚えるのも早いし、何でも出来るし、よく気が付くし、というようなことを言っていたと思うが、私は全部聞き流した。Aに褒められるのは嫌いなのだ。
「私なんて歳だからろくに覚えられないし、仕事できないし、こないだもミスして店長に怒られたし、もうクビだろうね」
この定型文が必ずと言っていいほど私を褒めた後に付いてくるから、Aのベタ褒めが嫌いだった。
そしてその時は、さらにAが付け足してきた一言で、私が抑え込んでいたものが瓦解した。
「燐紅ちゃんみたいな若い子が羨ましいなー」
もはやその時の私が抱いていたのは、殺意と呼んでしまって構わない。
若さや羨ましさで自分の行いが許されるとでも思っているのだろうかと。Aより仕事をこなしている自分の働きぶりは、若さで済まされる程度なのかと。
幸運にも店内に誰もいない状況を機に、私は無表情を心がけてAに怒りをぶちまけることに決めた。
「そうですか?私はAさんのこと羨ましいと思ってますけどね」
「え、どうして?」
「仕事が出来ないことを自分の能力と歳のせいにするだけで、ミスしてごめんなさいって周りに言えばそれで許される立場に甘んじてられるなんて、なかなかできないと思いますよ」
「え?え?」
端からこの馬鹿に理解させようと思って口にしたわけではない私は、どういう意味かなどと聞き返される隙を与えないように続けた。
「私はこの店で一番不真面目だと思ってます。店に尽くす気なんて全然ないですよ。それでも人に迷惑かけるのが性分的に嫌なんで、私は自分のミスは全力で反省して二度と同じことをしないようにだけ気をつけてます。周りに迷惑かけっぱなしで申し訳ないって思うのはAさんも同じでしょうけど、Aさん反省しないじゃないですか」
「はっ、反省してるよ!」
「するだけで改善する気はないですよね、出来ないから。周りもそれをわかってくれてるしって甘えが、同じミスをしないように気をつけることを怠ってる。そんな人と一緒に仕事なんてしてられないでしょうから、私はそういう人間にならないように気をつけてるだけです」
私の話を理解したのかしていないのか、Aは何も返さなかった。ただあからさまにふてくされた顔で私から目を逸らしていたのは、自分が説教されているという場の空気だけ理解していたからだとは思うが。
「クビにされて済まされるなんて甘いこと考えない方がいいですよ。どれだけ役立たずだろうが頭数さえいればなんとかなってるんですからうちの店は。自主的に辞めようが本当に店長にクビにされようが、その埋め合わせに勤務時間増やされるのは必然的に私なんですからね」
その日一日、Aは一切私と口を聞かずに仕事をしていた。私にとって実に快適な勤務環境であった。
私の説教でAが少しでも悔い改めたかというと、そんなことは微塵もない。相変わらず仕事は出来ないし、ミスをすれば口でだけ反省してみせるだけだし、何の役にも立たない。
平日の私の仕事量を1とするなら、Aと仕事をする日曜の私の仕事量は3ぐらいだ。Aの働きぶりは0どころか明らかにマイナス域であり、二人分頑張らないとなんて軽い考えで日曜を乗り切ることは未だ出来ない。
それでも私は、Aの牽制の仕方を覚えた。あのやりとり以来、私が説教じみた発言をするとAはすぐに私から逃げるようになったのだ。絡まれたくない時や作業に集中したい時は、無駄話を持ちかけてきたAに説教じみた切り口の言葉を発してAを傍に寄らせないことで、3の仕事量をこなすことがだいぶ楽になった。
どのみち変わらない仕事量を最も楽に出来るのは、今の私にはやはりツナギの彼の存在しかないのだけれど。
当然、今日は来なかった。以前、平日と同じシフトで日曜勤務をしていた際、いつもの日の暮れた時間にツナギ姿で来たことがあったから、もしかすると日曜が休みの職場ではないのかもしれない。
明日は来るだろうか。何を買っていくだろうか。
仕事さえ終わってしまえば、そんな想像で好きなだけ楽しめる日曜日は、そんなに嫌いでもない。