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ぶりっ子な私と毒づく人達とサンタクロースな彼

文章量:★★★★

暴論度:★★★

冗長度:★★★★★

いい子にしている子供のところへ、サンタクロースは必ず来る。年末の忙しさに追われる大人達の手を煩わせることのないよう子供をおとなしくさせるための、大人達にとって好都合な脅しの常套句である。悪い子はなまはげに襲われるといった脅し文句も、対極的でいて同義だ。故にサンタクロースとなまはげはカテゴリ上仲間である。我ながらなかなかの暴論だ。


妖精や幽霊といったいわゆる想像上の存在というものは、邪念の少ない幼い子供には見えているらしいといった話は定説である。想像上の存在を主軸に置いたファンタジーストーリーの方がこのなろうにおいてはウケがいいのであろうが、残念ながら私のネタストックのうちファンタジー色の強いものは極めて少ない。あることにはあるが全体像がまだ定まっておらず、書き出しすらままならない程度のネタなので公開は当分先だ。いずれやる。おそらくたぶんきっと。


ともあれこのツナメパンにおいても「妖精」という単語をどこかで使った覚えがある。確か実物の茂松さんについて語った記事で彼のことをそう表した。彼は妖精か何かなのではなかろうかと。40手前のいいおっさんではあるのだが。


ツナメさんの外見は茂松さんに似ている。妖精のような人に似ているツナメさんも、私にとっては妖精のような存在と言える。今回の私の暴論ぶりは一体どうしたものか。小説の評価が急上昇して日間ランキング一桁までいってしまったことに浮き足立っているのかもしれない。そんな日間8位を記録した「涙の魔法」本編と、日間4位を記録した短編「お探しの遺書は見つかりませんでした」もどうかご覧ください。


完全に浮き足立っていて本筋から逸れがちなことはさておき、妖精や幽霊やサンタクロースに出くわすには、いい子にしていることが最も手っ取り早いのではないだろうかと私は考える。もはやいちいち暴論にツッコミはしない。







話は変わるが、私の職場のコンビニは深刻な人手不足に悩まされている。一人一人が過密すぎる基本シフトを抱える中、平日の夕方から夜勤帯前までは私と店長しかいないという事情から察していただけることだろう。つまり代わりに夕方に入ってくれる誰かを新しく雇わない限り、私はこの仕事を続けるしかない。でないと店長が過労死するのは目に見えている。


そんな中、つい最近になって年内退職を予定していると、私に明かしてきた人がいた。交代で日勤を担当しているお姉様方の内の一人だった。


基本的に夕勤である私には影響はないので正直どうでもよかったし、予想はしていたからあまり驚かなかった。まあこの人なら近い内に辞めるとか言い出しそうだなと、常日頃からなんとなく察しがついてはいたのだ。


不愉快な客に対する愚痴。店長に対する愚痴。同僚に対する愚痴。その他勤務中に感じたありとあらゆる不満事を惜しげもなく私に漏らすような人だったからである。彼女の愚痴の対象とならなかった人などいないのではないのかと思わされるほど、私は彼女のストレス解消のための愚痴聞きをした。そんな私のことだって彼女は陰で誰かに愚痴っていることだろう。以前記事で取り上げたAという仕事の出来ない同僚を私は苦手としているが、それ以上に遥かに苦手なのが彼女だった。


Aはすでに仮称として挙げたので、退職する彼女の方をBさんとする。そのBさんがいつものように不愉快な常連客の愚痴を私に漏らしてきたことがあった。


「たまに夕方に来るお客さんでさ、こっちが何聞いても絶対返事しないおじさんいるじゃん」

「あー、あの人夜遅い時間の方がよく来ますよ。夕方に来る方が珍しいくらい」

「そうなの?私あの人、大っ嫌い」

「なんでですか?」

「だってすぐ怒るじゃん。しかもかなり理不尽なことで」

「え、そんなに怒ったりします?あの人」

「怒られたりしない?」

「はい。滅多に」

「うそだあー」


微塵も信じてもらえていない様子で返されたが、私は至って真面目に答えたつもりだった。むしろBさんが何故その常連客によく怒られているのか、不思議で仕方なかった。


私の中ではその常連客を勝手に「エルヴィス」と呼んでいる。由来は察していただけるだろう。見た目が和製プレスリーっぽいとか、そんなくだらない理由からだ。


コンビニ接客のテンプレである「こちら温めますか?」や「お箸はお付けしますか?」といった問いかけに対し、エルヴィスは首を振るだけで返答してくる客だ。しかも振り幅が異様に小さいので、注意して彼の反応を窺っていないと正確に読み取ることが出来ない。首振りの縦と横を勘違いして応対してしまい、低い声で「おい」と咎めるくらいの叱咤しか彼はしないものだと私は思っていた。


だがBさんは、エルヴィスに理不尽な叱責を受けた具体例を次々と私に報告してきた。完全に無口キャラの地位を私の中で勝手に確立していた彼は、Bさんに対してはしっかりと苦情を言葉で伝えることがあるらしい。彼の声をろくに聞いたことのない私はその意外さに驚き、確かに理不尽とも言えることも含めてよく彼の怒りを被るというBさんに対しても驚いた。


私はエルヴィスを毛嫌いしてなどいない。むしろ好感すら抱いている。彼は甘いものが好きらしいのだ。三回に一回はイチゴ風味の飲み物やチョコレートを買う。50そこそこの見た目のくせに可愛らしいおっさんじゃないか。


これはBさんに対してかなり失礼な推論だが、エルヴィスが私とBさんに対する態度が違うらしいというのは、単純に接する機会の多い私に心を開いているとか許しているとかの次元ではなく、Bさんの接客・勤務態度が元凶なのではないかと思っている。詳細は説明しても仕方ないので、それを集約したBさんの以下の発言で察していただきたい。


「なんかさ、そういうお客さんばっか相手にしてると馬鹿馬鹿しくなるよね、真面目に仕事するの。こんな店に尽くす義理とか責任感じる必要なんてないよ」


日に日にこういった発言が目立ち始めたBさんは、勤めたての頃はこんな風にも話していた。


「私、定年までこの店と店長について行きますから!」


その発言は、発注ミスだか接客クレームだかで割と取り返しのつかないことをした後に発したものだと私は記憶している。


仕事の出来ない役立たずのAなんかより、無口で少し対応の面倒な客なんかより、私はBさんの方がよっぽど相容れない。







理不尽な境遇に嘆くことは当然として、その根底に日頃の自分の行いがまったく関わっていないとは限らない。根っこのほんの一部に自分の中の何かしらが関わっていたら、極端な話すべて自業自得と言える。おそらくはエルヴィスもBさんの仕事ぶりや振る舞いに何か思うところがあって、ちょっとしたことでもつい口にしてしまっているというのが真相ではないだろうか。


エルヴィスに理不尽な文句を付けられたことのない私は、少なくとも彼のいる時は至って真面目に働いていると思う。彼がいる時だけ特別そうしようと心がけているつもりはなく、仕事は真面目にやっているつもりだ。表面上は。そつなく作業をこなしながら頭の中で妄想を繰り広げてはいるものの。


誰が見てもいい子ちゃんに見えるように、表面上だけ振る舞おうとしている自覚はある。そうしようと心がけなければならないのは、根っからの善人ではないからだ。そう常日頃から心がけているかいないかの差がはっきりしたのが、エルヴィスとBさんの件だろう。


心がけ自体は賢明そうでいて、実際はかなり苦労している。私はBさんのように気軽に誰かに愚痴を言える性分ではないのだ。思うところがあっても一旦自分の胸中でぐっと堪え、不満を溜め込む癖がある。むやみやたらに誰かに話してしまうと楽になれるだろうが、自分と関係のない愚痴に付き合わされる億劫さを知っているからこそ、私は誰かにそんな思いをさせてしまうことを申し訳なく思う気持ちが先に立ってしまうのである。


その点、ツナメパンは溜め込みすぎたストレスの発散にうってつけだ。思いつくがままに溜め込んだ思いを文章化させきった後の私の心境は、毎回予想以上に爽快な気分を得られているのだ。無理矢理誰かを付き合わせることもない。読み手も飽きたら途中で読むのをやめるだけ。


こうして誰かに迷惑を掛けないよう日頃から心がける私がいい子であるという証明として、妖精でもサンタでも現れてくれないだろうかと、馬鹿馬鹿しいことを思ったりしている。







一週間続けて来ないというのは珍しいことではないが、来る日も来る日もツナメさんに会えずに終わるのはやはり寂しい。そんな状態のまま10日も彼に会えない退屈な仕事の日々が続いて、さすがに鬱屈してきた日のことだった。


頑張った自分へのご褒美、というフレーズは今でも耳にすることがあるが、私は正直あまりこのフレーズは好かない。一般的には自身を自ら労うことで次の目標の活力となるだろうが、個人的には一度自分を甘やかしたところで何の薬にもならないと決めつけているせいだ。


それでも、いい子にしていたご褒美として。人から疎まれるようなことをしなかったご褒美として。むやみやたらに誰かに毒づいたりなどしなかったご褒美として。ささやかな私の善行に応えて、ツナメさんが来てくれたりしないだろうかと、私は待ち焦がれた。


厳密にカウントしていたわけではないが10日あまり会えない日が続き、その日もいつもの時間帯に彼が来なかった憂鬱をごまかしながらレジ打ちをしていると、レジ応対していた最後の客が帰ると同時にやっとツナメさんが現れたのだ。珍しく、いつも来る時間より一時間ほど遅い来店だった。


もはや諦めきっていたところへの、まさかの不意打ちだ。素直に昂ぶる気持ちを抑えながら消耗品を補充するふりをして、私はじっくりと彼の買い物を観察していた。いつもより一時間遅かったのはやはり残業していたせいなのか、彼は某エナジードリンクを選んでいた。疲れを取るためだろう。心なしかいつもアップにしている彼の前髪がほんのわずかに垂れているように見えて、いかにも人間くさい疲労感が表れていた。


そしてかなり久しぶりにパン売り場の前に立つ彼を目の当たりにした。期待を込めて見守っていると、やはり彼が選んだのはカレーパンだった。さすがである。そこに痺れる。憧れっぱなしなのは言うまでもない。


やがてお馴染みの電子煙草とそれらを手に私のレジにやってくる。久々に会えてかなりご満悦で応対していた私は、勢い任せで彼にちょっとだけ仕掛けてみようと思いついた。


ちょうどその頃は、煙草を購入した客にサンプル煙草を勧めていたのだ。ごく普通の火を点けるタイプの煙草なので、本来なら電子煙草を買う客に勧めることはない。それでも私は以前、駄目元でツナメさんにサンプルを勧めたことがあった。あっさりと断られた。人によっては電子でも火でも、という喫煙者はいるが、どうやら彼は専ら電子派なのかもしれない。それでも、銘柄の違う今回は受け取ってくれるかもしれないという根拠のない期待を込めて、私は彼にサンプル煙草を勧めることにした。


タール量の異なる三種類の煙草を彼の手元に並べ、決して噛んだりしないよう気をつけながらセールストークを彼に向ける。


「只今サンプル煙草お配りしてまして、よろしかったらお好きなのどうぞ」

「あー、じゃあ、これで」

「こちらですね。ありがとうございます」


なんと、受け取ってもらえた。前回受け取らなかったのは電子じゃないからという理由ではなかったらしい。贔屓と異なる銘柄だったせいなのか、あるいは単に受け取らなくてもいいやという気分だっただけなのか。いずれにせよ、勧めた物を素直に受け取ってもらえたことに、私は単純に浮かれた。


久方ぶりに顔を見れたばかりか、ツナメさんはお決まりのカレーパンまで買ってくれ、以前断った煙草さえ受け取ってくれた。テンションが上がらざるを得ないことばかりが立て続けに起こってくれたのは、日頃の行いがいいせいだろうかと調子に乗ったって、ある程度は大目に見ていただきたいと願う。







素直にテンションを上げてしまった私は、無謀な挑戦を試みた。Twitterを活用しているなろうユーザにとってはお馴染みの「#rtした人の小説を読みに行く」を自分もやってみようと思い立ったのだ。


結果、リプだけでおよそ50作品ほどの依頼が来た。想定外すぎた。すべてに評価を付けて感想リプを返すつもりで注意書きに時間が掛かるという旨を明記してはいるものの、始めてから10日が経つ現時点で10作品ほどお待たせしてしまっている。なんとか途中で投げ出すことなく、完遂させたいと思っている。


自身の作品の評価が急上昇したのは、その相乗効果によるものだ。自身の作品に注目を集めることを目的としていなかったとはいえ、大変ありがたいことだ。色んな刺激を受け、学ぶことも数多く、突拍子のない思いつきとはいえ行動に移そうと思い立って本当によかったと思う。


そのきっかけを与えてくれたのが、久しぶりに会えたツナメさんだ。不満を堪え、善行を積むことを心がけていれば、きっと来てくれるんじゃないんだろうかとこの頃感じている。頑張った私へのご褒美として。


彼はいい子にしていた私にプレゼントをくれるサンタクロースとは少し違うし、今回に至っては私が無料の煙草をプレゼントした側なので立場が逆転しているが、そういったカテゴリの存在なのだと私は勝手に決めつけている。

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