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無制限三本勝負と心配性気質とネタ切れ救済措置

自由度:★★★★

濃密度:★★★

完成度:★★

ケータイ小説がにわかに流行りだした時期というのは、もう10年以上も前になるのか。その頃はまだ学生だった私は、授業中に机の下に隠したガラケーでせっせと手打ちして小説を書いたものだった。画面を見ないで入力できるボタン式のガラケーは便利だった。一発変換でひたすら打ち込んだ文章というのは、後からまとめて読み直した時にとんでもない悪文になっていて、休み時間に友人に見せて笑い転げたりどういう内容かを解説したりしたものだ。


その頃のケータイ小説サイトの文字数制限は、大抵が数千字程度だった。今でもその名残を継いだサイトを活用して1ページ分の文字数を測っているし、小説「涙の魔法」の本編と外伝のバックアップとしても活用している。ちなみにパスワード機能を利用してそのページに「下書き」という項目を設けているが、そちらはすでに50ページを超えてしまった。本編のプロットと最終章のプロットと中途半端な外伝の下書きが、およそ1:1:8の割合で混在している。外伝の多さよ。


その点、なろうの1ページあたりの入力可能文字数というのは、数千字の制限に慣れた私としてはあまりにもカルチャーショックが大きかった。7万て。「涙の魔法」本編がラストシーンまでで15万強ほどの文字数らしいので、つまり複数の章に渡り51ものページをせっせと書き上げてきたわけだが、詰め込んでしまえばわずか3ページでまとまってしまうということだ。異次元過ぎて想像が追いつかない。


これほど優れた性能を誇る機能を利用していて、有効活用しないままなのも惜しい。そう思って先日投稿した短編「お探しの遺書は見つかりませんでした」は、図らずもキリよく6600字で書き上げた。入力フォームのスクロールバーが短くなるほど文字数を気にして焦りを感じるのはもはや自然と身についた感覚なのだが、それをまったく気にする必要もなく長文の短編を1ページでまとめられたというのは、私個人としてはかなり斬新な感覚だった。


そんなわけで今回のツナメパンは一つのテーマをめちゃくちゃ長文でお届けしよう、というつもりはない。むしろ逆だ。大した文章量で書くほどでもない小ネタを集めたものを、まとめてご紹介しようと思う。そうすればいつもと同じくらいのそこそこの量になることだろう。ネタ切れ感に満ち溢れているが、少しでも小説本編の創作に余力を残したいためだ。と、もっともらしい言い訳をしておく。







・坊主と小箱


短めのスパンで転職を経験している私にとってありがちなのが、物凄く見覚えのある客に出くわすこと、なおかつ誰なのか思い出せないことである。思い出したところで向こうはこちらを覚えてるわけなどないから声は掛けないし、思い出そうとする労力が無駄とも言える。だがどうしても気になってしまう、という葛藤は誰にでも共感していただけることだろう。


仕事あがりまであと一時間ほどのことだった。私と店長以外に誰もいない店を訪れた男性客が、物凄く見知った人のような気がしたのだ。どの職場で見た顔なのか。パチ屋のホールでよく見かける顔でないことは確か。案外テレビに出ている誰かにそっくりなだけ、という結果だったこともある。


時間を掛けて様々な憶測を巡らせていたが、ようやく誰なのかを思い出した私の答えは、結果として上記のどれにも当てはまらなかった。我が家が檀家として属している寺の住職だった。年に数回の法事以外顔を合わせることがないし、見慣れた袈裟姿ではなくただの私服だったから、その人だとすぐに思い出せなかったのだ。それに40そこそこであろう若いその住職も、長年我が家の世話をしてくれた父親からここ数年で代替わりしたばかりで、私と目が合っても向こうも檀家の人間であることに気付いていない様子だった。


誰なのか思い出せてこちらが勝手に腑に落ちてしまえば、もうただの客と店員だ。彼がレジに向かうのを待ちながら品出しをしていると、なかなかの時間を掛けて品定めを終えた彼がようやくレジ前についたことに遅れて気付き、私は後ろから一声掛けてレジ内に回り込もうとした。


その瞬間ふと目に入った、彼が手にした小箱が何故か気になった。一瞬目にしただけでは十数センチ程度の長方形の箱であることしかわからず、彼が寺の住職だと事前に気付いた私はそこから連想して、線香だろうかローソクだろうかと予想した。サイズ的に線香だろうな、と結論づけてから、待てよとさらに思い返す。


檀家から余るほど線香やローソクをもらっている寺の住職が、コンビニでわざわざそれらを買い求めることなどあるのだろうか。不測の何かも起こりうるかも知れないが、などと深く思案する必要がなかったことを、レジに差し出されたその小箱のパッケージをしっかりと確かめて、私は理解した。


『0.01』


……。


……はい。一番薄いヤツですね。こだわりがあるんですね。紙袋はございます。お若い奥様はご健在ですか。


仏の教えを説く身であれ、人は皆等しく人の子である。勉強させていただきました。







・田舎のコンビニ


私が勤めている店は車通りの多い県道沿いにあるのだが、なにぶん田舎なので少し行くと田んぼも畑も林もある。夏から秋にかけての悩みの種と言えば、多種多様の虫だ。店長も含め、女性の比率が高い店員のうちどんな虫でも平気だという人がいない。比較的平気なのは夜勤組の若い男子達と、店長と私くらいだ。だがそれぞれどうしても無理、という虫が決まっていて、出没する虫とその時に居合わせた人の組み合わせ次第では店内からそれを追い出すことがままならずお手上げ状態になることもある。


ある日の夕方のことだ。出勤したばかりの私がいつも通りレジを打っている時に、外にいた店長が何やらにこにこしながら店に入ってきた。レジ応対中の私はそれを一瞥しただけですぐ仕事に意識を戻したが、何かいいことでもあったのだろうかとほんの少しそれを気にしていた。店長も仕事中の私に脇目も振らず、まっすぐにレジの間を抜けて事務所に向かっていった。


ちょうどその時の事務所には、夜勤組の男の子が一人いた。掛け持ちをしているバイトを終えて、仮眠を取りに自宅へ戻る前にたまたま店に寄っていたことを私は覚えていた。事務所のドアを開けて彼がいるのに気付いた店長は、その彼に声を掛けながら中に入り、ドアを閉めた。


「ねえ、またクワガタ捕まえ(バタン)たー」


商品の袋詰めをしようと頭を下げてレジ袋を探っていたことが幸いした。店長の声を聞いていた私は床に向かって盛大に吹き出した。


事務所では、店長が近隣で捕まえてきたクワガタとカブトムシを飼育している。ちなみに私が唯一触れないのはそういった甲殻類の虫なのだが、虫かごの中にいるそれらを眺めるのは楽しい。触れないだけで。それらを手掴みで捕まえてくる店長に対して私は尊敬せざるを得ないし、何とも平和な店だと感心せざるを得ないのである。







・MISSION「バレない嘘をつけ!」


何をするにしても、何に遭遇するにしても、私は人一倍間の悪い人間だと思っている。影響を及ぼしているのは私自身の何かなのか、周囲の環境なのか、何を恨めばいいのかわからず不遇な出来事にただ落胆するばかりなのが、私の常である。


その日はすこぶる体調が悪かった。小一時間ほどトイレにこもっていたくなる症状をなんとか耐え凌ぎながら、ようやく帰宅ラッシュ帯を乗り切って店内が少し落ち着いた時だった。いつもなら売り場の商品整理を優先させるところだが、この時ばかりは体調維持が先決だった。私がトイレに行って戻ってくるまでの間、店長にレジを頼み、急ぎ足でトイレに向かう途中の出来事だった。


店の入口前を通ってトイレに向かおうとしたところで、私に反応したのかと錯覚するほどの距離で自動ドアが外からの来客に反応して開く。咄嗟にその気配に反応して「いらっしゃいませ」を口に出来る日頃培った自分の条件反射能力に救われつつも、それどころじゃないと進行方向を見据えようとした私は、その客を見てさらにそれどころではなくなった。


ツナメさんだった。確かにちょうどいつも彼が訪れる時間帯に差し掛かってはいたが、前日に彼が煙草を買っていったのを覚えていた私は、今日も彼が訪れる可能性はかなり低いと見込んで完全に油断していた。挨拶は済ませたことだし、と懸命に素知らぬふりを心がけて再びトイレを目指しながら、私はその短い距離を進む間に真剣に頭を働かせた。


どうする。店長にトイレに行ってくると告げたばかりだ。すぐに引き返してレジに戻る理由がない。店には客もそんなにいないから「使用中でした」なんて嘘は通用しない。ああ背後でツナメさんがレジ横の煙草を取った音が聞こえる。そのまま煙草だけ買って帰るならレジに戻る意味もない。てか二日連続で煙草買うパターンなんか今までなかったぞ。ああ離れたところから店長と他の常連さんの話し声が聞こえる。ツナメさんは買う物を選び終えてレジに誰もいない時は店員を探して「すいません」と声を掛けてくる人だ。私にも店長にも声を掛けてこないということは煙草だけの買い物じゃない。


フル回転させていた思考が結論を弾き出し、売り場とトイレを隔てるドアの前まで辿り着いていた私は、歩く速度を落とさずに方向転換した。違うルートを通って飲み物を探しに来たツナメさんとすれ違ったが、なんとかポーカーフェイスを保ってレジに戻ってきた私を、きょとんとした顔で店長が出迎える。


「あれ?トイレは?」

「使用中でした」

「え、だって女のお客さん、誰も来てないよね?」

「そうでした?鍵かかってたみたいだったんで、誰か入ってると思って」


私はそれらしくすっとぼける演技は得意な方だ。外から個室のドアに鍵がかかってるかどうかは、個室の取っ手の小窓の色で判別できる。個室を開けようと思ったら、そこが施錠を意味する赤になっていたと、一ミリも確認していないでたらめな嘘で店長を騙しているうちに、彼はレジにやってきた。2台あるレジのちょうど中間で話し込んでいた私と店長のうち、幸いにも彼に気づけたのは私が先だった。


何食わぬ顔でレジに立ち、今日は煙草とコーラだけかと確かめながら何事もなくツナメさんの会計は終わり、時間にしてほんの数分の私の一人奮闘劇がようやく終わったと満足しながら彼を見送った。


だが、勝って兜の緒を締めよだ。何に勝ったのかと問われると、この場合は店長に他ならない。実際ツナメさんの会計は、それ以前まで5回連続ほど店長のレジに行ってしまうことが続いていたのだ。私の思惑にまったく気付くわけもない店長に対して、私は勝手に敗北を喫し続けていた。一度くらいズルして勝って、ほんの少し悦に浸るくらい別にいいじゃないか。そう思いながら、私は嘘の帳尻合わせと本来の目的のために再びトイレに向かった。


滞りなく用を済ませ、レジに戻る。私の小さな嘘に騙されたままの店長に対して、私はさらなる嘘で前言をごまかした。


「やっぱり誰も入ってませんでした」

「でも、鍵のところ赤になってたんでしょ?」

「たまにあるじゃないですか。半開きになったままで、中に誰もいないのに鍵が下りちゃってるパターン」

「あー、あるある」

「外から一瞬見ただけだったんで、半開きになってるの気付かなかったみたいで」

「一回目でトイレ入れたのに、損しちゃったね」

「ほんとですよ。鍵に騙されちゃいました」


こうして私の密かな企みは、いつものように間が悪くて不遇な私の小さな失敗談に落ち着き、私と店長がそれを笑い飛ばして幕を下ろした。


鍵は何の罪もなく、実は私が騙す側であり、そんな私を笑う店長が騙されている側であることは、私しか知らない。私が実は何も損などしていなかったという事実も、店長は知らない。







三本立てというのは実にキリがいい。ボリュームのバランスを抜きにして。三本立て、という言葉の語呂もなんとなくいい。そんな私のずれたセンスも置いといて。


日常で感じたことをまとめる、とこのツナメパンのあらすじ部分で前置きしてあるが、実際に日常から得られた一つの事象について数千字に渡ってまとめるというのは、実を言うとこれまではかなりの労力を要していたのだ。それが今回、逆に少ない文字数でまとまってしまう小ネタを温めておいてまとめて放出させるという手法は、かなり負担が少なくて済んだ。


気が付けば5000字を超えた。小説本編を書き溜めている転載元サイトでこれを書いていたら、とっくに制限を超えてエラーが表示されているところだ。文字数に縛られないって素晴らしい。自由って素晴らしい。


そんなお気楽思考で長ったらしい文章を書き上げたことに今回も満足している私だが、読者にとっては「長すぎる」と受け取られたりはしないだろうかと、要らぬ不安を感じていたりもする。

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