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咎人共  作者: 古山夏冬
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一話 聖職者

 初投稿。叱咤激励を頂けると嬉しいです。ストーリーはふわっふわしてます。

「貴方達は、聖なる神の使いなのです。」


 これは、彼に刻み込まれた言葉。


「神を疑い、神のおわすこの国に反抗の刃を向ける『咎人』の処刑が貴方達の神命。」


 これは、彼の存在理由。


「『聖職者』は手に武器を持ち、人を裁きます。また、聖職者に裁かれた咎人達はその罪を赦され、永遠の平穏を手に入れるのです。」


 これは、彼を人から遠ざけた台詞。


「貴方達は神にとても近い存在。咎人に汚され、彼らの手に堕ちてしまうのは禁忌。その時は、自ら神の御許に赴きなさい。」


 これは、彼のたった一つの定め。


 そして、「X-13」。これが、彼の名前だった。





 一仕事終えて大きく吸い込んだ息は水のにおいがして、雨を予感させた。少年がちらりと上を見る。耳元の無線機が小さく震えた。


「B地方に敵軍あり。早急に向かい処刑せよ。」


 御意。少年は小さく呟き、湿った地面を蹴る。雨は今にも降りだしそうで、彼を少しだけ憂鬱にさせた。


 初めて人を処刑した日がまた脳裏をよぎった。


 十二歳の誕生日、この国の子供達は神から天命を授けられる。それは赦しでもあり、定めでもあった。彼らはその時を以て「処刑人」に、天からの使いに、人ならざる者になる。そして「咎人」を裁くため、戦場へと赴くのだ。


 少年が初めて人に手をかけた時は、霧雨が降り注いでいた。十数年訓練を受け続けた彼と、戦のため駆り出された一般市民の男共。五対一とはいえ実力の差は歴然だった。


 剣と銃を手に携えて、少年は一度に四人を葬り去った。一人は首を掻き切って。一人は胸を突いて。一人は脳天を打ち抜いて。一人は崖から突き落として。


『あと、一人。』


 ゆっくりと間を詰めて、腕を引いた。男が銃を構えて後ずさる。少年の右手の剣が鈍く光る。兵士の銃の安全装置が外れた音と同時に、彼は一気にケリをつけようとした。が。手元が狂ってしまった。雨に降られた柄が滑り、喉元を狙った切っ先が男の胸を払う。血飛沫が白い「祭服」を染めた。


 剣は宙を舞い、男は崩れるように倒れた。だが、これで終わりではない。少年の義務は咎人の息の根を止める事なのだから。飛んでいった剣に見切りをつけ、銃を構える。だが、失敗から来た焦りが左手を震わせる。


 一つ息を吐いた。安全装置を外す。引き金に指をかける。覚悟なんてする必要もなかった。しかし何気なく上げた視線が、男と目を合わせてしまった。


『っ・・・』


 男の目は、深く澄んでいた。恐怖も死も何もかもを受け入れて、ただ銃口を見つめていた。だがやがて左目に表情が浮かび、一筋の滴がつたった。唇が動いた気がした。


『・・・・・・クロエ・・・。』


 少年は引き金を引いた。訳も分からず打った一発が乱れもなく眉間に当たる。吹き出した血が男の顔を隠した。


 少年は叫び、十字を切るのも忘れて走り出した。後のことはよく覚えていない。でも、その日のことは忘れずにいる。ふとした時に浮かんでくる男の目が、彼の心に薄い影を作っていた。


 罪悪感とは違う、淡い、拭えない感情。少年はこれが聖職者にふさわしくないものだと、子供心に勘付いていた。だが消えることはなかった。ただあの目が、脳裏に焼きついて離れない。


 その事実が彼の心の小さな棘となり、彼の胸を控え目に突いていた。


サブタイトルってめんどい。

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