表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

無能の証明、決意の早朝

 霞の能力の話は、皆あまり興味を示さなかった。

 現在、霜は情報収集、杏は昼寝、霞は徘徊と、各々館内で過ごしている。

 蒼はというと、危惧していた。


 ――俺だけノーマル人間なんだけど――。


 これまで蒼が異世界に送った人間は、皆特異な能力を有している。が、蒼に能力は無い。せいぜい変な眼と変な鍵のみである。

 しかも、デマキナによって転移・転生の鍵は失った。

 よって、蒼は眼を使いつつ、館内の現地人との交流を図っている。


「――というわけで、英雄の歴史はヲリンポスの歴史とも言われる程に、重要なものなのです」

「へ、へえ。今まで……ひっそり、こっそり過ごそうとした英雄とか、いないんですか?」


 蒼は館の衛兵と話していた。曰く、英雄達は数々の功績と共にこの人界を守ってきたと。

 直球で言うなら、役立たず。そんな英雄がいないのか、と暗に尋ねるも。


「……そういった英雄の話は聞きませんね。僕が英雄学に精通していないというのもありますが……。この館には今まで召喚された英雄達の記録が記録室に残っていますから、尋ねるのはいかがでしょう」


 衛兵の青年は、恐縮です、と言わんばかりに謙遜するが、相当な知識の持ち主であった。蒼はさっきまで、数十分この世界の話を聞いていたのだ。


「あっ、そうですか……。じゃ、じゃあそこ行ってみまーす……ありがとうございます……」

「いえ。力及ばず、申し訳ありません。記録室は突き当りを右ですので」


 蒼は若干項垂れつつ、言われた記録室へ赴いた。

 丁寧な装飾のドアをノックし、ゆっくりと開く。


「失礼しますー……」


 部屋の中には、本。本。本。と机。

 そして、眼鏡の女性。


「英雄殿ではありませんか。何か御用ですか?」

「ええ、ちょっとこれまでの英雄の記録を拝見したいなと」


 蒼はそういって、女性の眼を見た。

 現実世界では見慣れなかった銀の髪。背筋を伸ばし、真っすぐこちらを見ている彼女からは、真面目そうな印象が感じられた。

 そして、すぐさま異能検知、願望察知。

 ソフィという名だ。そして、欲するものは。


「はえー……」

「? 記録に用があるのでは?」

「……ああ、そうでした。すいません」


 見た物は忘れておくとして、俺は記録を探す。

 はたして、チート無しの主人公はいるのか。

 もしかして俺が今まで送ったヤツらも記録されてるのかな、なんて思いつつ小分けにされた書類を漁る。


「お、コイツは」


 ふと、見る目を止めてしまう。案の定俺の送ったやつらはいた。年齢やら能力やらが記載されていて、どれもかなりの強さだ。

 全部俺が選んだんですけどね!


 違う。俺は知人を探しに来たのではない。弱い英雄。いねえ。


「……無能」

「すみません!」

「え、ソフィさんのことではなく!」

「……そ、そうですか。私、名乗っていましたか?」


 ソフィさんの言う通り、彼女から名を聞いていない。


「名前くらいだったら分かるんです。俺のちょっとした能力で」

「すごいですね。話すことなく情報が得られる」


 ところがどっこい。色々制約はあるんだなこれが。


「そんな便利な物じゃないっすけどね……。用事済んだので失礼します。ありがとうございました」


 俺はそそくさと部屋を出た。

 どうもこの世界の人間が信用できない。いや悪い人ではなさそうだけども。

 とにかく、用心はしておこうと思う。

 

「蒼氏~」


 ふと聞こえた深いな呼び声の方向には、汗まみれの霞がいた。


「どうした」

「聞いてくれや、クソ異世界人に絶賛迫害され中」

「意味が分からん」

「とにかく助けてーや、ワイあっち行った言うて」


 そう早口で告げてきた霞は、さっと物陰に隠れた。

 このまま立ち去ってもいいところだが、霞を迫害するという連中に協力しようと思う。

 追手はゆっくりと駆けてきた。

 

「おっと、英雄殿。お連れの大きな体躯の方を知りませんか」


 誰かと思えば、転移した時にいた美形騎士だ。その表情に邪な表情は無くただ困っているという風で、迫害という霞の言葉が誇張だったと思えた。


「ああ、あいつならそこ――」


 俺は口を止めた。


「いや、向こうに行きましたよ」

「ご協力感謝します。では」


 そう告げた騎士は、左手を腰に吊るした剣の柄にあてつつ、足早に駆けて行った。


「ふぃー、ありがとうやで蒼氏」

「……あの騎士、お前を殺そうとでもしてんのか」


 俺は無意識に願望察知していた。その中に、微かながら殺意を垣間見てしまったのだ。


「せやで、ワイ無実やのに」


 いや、何もしてないなら殺そうとはせんだろ。と思いつつ、霞の身を案じてみるとすぐにでも出発した方がいいのかもしれない。


「もう出とくか? 霜と杏呼んでくるけど」

「いや、ええわ。どーせアイツじゃワイ殺せへんからな」


 なんで、という表情を作ると、すぐさま霞は答えた。


「アイツの考えなんて全部読めとるんや。なんかアイツここの中で結構嫌われもんらしいで? あんま派手に動けんから昼間の内に殺しとこーっつって」

「へえ」


 霞の能力は便利だ。俺は一時の願望を知るだけ、霞は脳内すべてを読む。


「……きばらんよーにな」

「は?」


 俺が追及しようとすると、霞は巨体に見合わぬ速さでどこかへ去って行った。きもい。

 

 そして俺は、明日の準備の為急いだ。


 * * *


「よし」


 小声で呟き、急いで、だが静かに装備を整える。

 昨日の晩、俺たち四人は初心者用の装備を支給された。

 俺は短剣と盾だけ貰い、防具は貰わなかった。理由は二つある。


 一つ、俺は筋力に自信が無く鎧は装備できないこと。

 二つ、冒険者、最低でも転移者とは思われないようにする為。


 ふたつとも、俺が一人で行動する為だ。


「じゃあな……」


 ベッドで寝る杏とソファで寝る霜に別れを告げ、部屋を出ようとする。前に、クローゼットに押し込められている霞にも別れを告げてから出た。


「ふう、やっぱ朝は嫌いだな」


 俺は英雄足りえない。必ず三人の足を引っ張る。

 それならば一人で行動し、三人を陰からバックアップした方が良い。

 三人が英雄と称えられ、おこぼれとして俺も現実に帰還する。


 それがベストだ。

単独行動、どうなるか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ