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異世界転移・テンプレート

もうすぐ冒険開始。

 徐々に小さくなっていく白は、石壁と青い炎の松明を浮かび上がらせる。

 固い地面の感覚。腕にしがみつく小さな柔らかさと気持ち悪い柔らかさの感触。

 そして、歓声。


「これは……」

「おお……! 今度は四人だ」


 これはどうしたものだろうか。


「早く準備を!」

「英雄、万歳!」


 四人の足元には、巨大な魔法陣。そして、周りの六本の白い柱。

 蒼はここがどこか知っている。と言っても、訪れたのは初めてだ。


「……ヲリンポス、か……」


 蒼の小さな絶望感は、しがみつく杏には伝わらなかったようだ。その純真な瞳を輝かせ、周囲の人間達を見ている。様々な年齢の人間が鎧やローブや剣や杖を身に着けて一様に喜んでいた。


「蒼くん! す、すごいねコレ! 何なのかな!?」

「何というか……転移してしまったというか……」


 相対的な表情の二人を見かねて、集団から一人の騎士が歩み出てきた。


「英雄達よ。こちらへどうぞ」

「ほえー……」


 その騎士は中々の美形で日本人には親しみの無い金髪である。しかし、ちゃらけた雰囲気は微塵も感じさせず、神聖さすらあった。杏が見惚れるのも仕方がない。


「ちょっと待つやで!」


 その時、慟哭せし者有り。

 蒼のもう片方の腕にしがみついていた霞が、異論を唱える。


「ワイは、信じへんぞ! こんな……こんな……」

「離れろよ」

「蒼氏! これはワイの闘いや! ちょお黙って!」

「そうじゃなくて、離れろって。そういうの一人でやってくれる?」

「やい! そこのイケメン騎士! なんで異世界やのに美少女騎士の姿が見当たらんのや! 出迎えは基本女やろ! ふざけとんのか!」

「すいませーん、こいつ剥がしてください」


 蒼は騎士たちに言うと、すぐさま霞は確保され、錠をかけられてどこかへ連れていかれた。


「……じゃ、案内されるとしますかねぇ」


 霜のややおどけた一言に蒼は頷いた。霜は霜で、さして驚いている風ではない。杏は、もう霞の方を見向きもしなかった。


 案内されたのは、豪華な調度品満載の一室。

 騎士が言うに、ここは英雄の控室のようなもので、歴代の転移者も最初はここにいたらしい。


「つーか……」

「どうした、蒼」


 ふかふかのソファに座っていた蒼が、急に立ちあがった。


「お前ら、本当に能力者だったのかよ!」

「おう」

「そだよー」

「せやでぇ!」


 扉が開かれ、霞が入ってきた。その体はぼろぼろだった。


「……え、どんな能力? いつ使えるようになったんだ?」

「蒼くんは?」


 杏の唐突な返しに、蒼は戸惑う。何しろ蒼は天然の能力を持たないのだ。

 異能の眼も、鍵も、デマキナから貰ったのだ。


「えっとな……あ、あれ? 鍵が無い……」


 蒼はポケットを探って、転移・転生の鍵が無い事に気づく。


「お、あったあった……ってこれ違う!」

「一人で何やってんだよ」


 蒼が取り出した鍵は、転移の鍵でも、転生の鍵でもなく、見たことの無い鍵だった。

 霜は見かねて蒼に近づき、床に落ちている一枚の紙を見つけた。


「おい蒼、落とし物か? 何だこりゃ、メモ……デマキナか」


 折りたたまれたその紙には、デマキナとだけ書かれていた。

 霜が中に書かれている文章を読み始める。


「……蒼っちへ。転移の鍵と転生の鍵はチートすぎるから、返してもらったよん。でも、ヲリンポスで無能は死んじゃうから、この万能の鍵をあげちゃう。この世界の北の果て、天空都市ゼウス目指して頑張ってね。美少女系唯一伸デマキナ……だ、そうだ」

「唯一伸系美少女じゃ無いんか……」


 何故か霞が落胆した。蒼は万能の鍵を見つめている。


「万能の鍵か……」


 蒼は部屋に備え付けられていた、中身よりも外見に金がかかってそうな金庫の鍵穴にそれをさしこんだ。

 どういうわけかするりと鍵は入りこみ、半ば自動的に金庫が開く。中にはこの世界の通貨であろう大金。


「やべえよ……やべえよ……」

「待て霞。これは俺の鍵で開けたもんの中に入ってたから俺の物だ」


 さりげなく霞が中身を盗ろうとしたので、蒼はすぐさまかっさらった。

 

「蒼くん、それいくらぐらいなの?」

「さあ? ていうか、この世界のことなんてほとんど知らないからな……」

「とりあえず、その紙に書かれてるゼウスっつう都市に行きゃいいんじゃね?」

「霜氏。ゼウスは最北端wwwそのうえ山を登らなければいかんやでですぞwっうぇwwwっうぇwww」


 一同が、一様に霞を見た。


「な、なんやこの既視感は……」

「……なんでお前、そんなこと知ってるんだ?」

「……」


 霞は一瞬黙り込んでから、意を決したように話はじめる。


「……ワイの能力は、他人の心の盗み見や。さっきおった奴らの頭見たんやで」


 霞は自身の能力を、どこか良く思っていないような言いぶりだった。

 それを聞いた蒼は、呟く。


「めちゃくちゃ便利じゃん」

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