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プロローグ

この作品は、適当にコメディ風味で冒険していけたら、と思います。ストレスフリーの作品になる予定。予定は未定。

「君には、英雄を送るこっちの世界と向こうの世界を繋ぐ人間――異世界案内をやってもらおう」

「はあ?」


 十二歳にしてはややませていた少年に告げられた言葉。それが、彼の人生を変えた。

 あの日世界が変わってから実に、五年の歳月が過ぎようとしていた。


* * *


 彼――卯月 蒼(うづき あお)は今日も学校へ行く。

 至って平凡な彼は、平穏な一日を過ごしていた。


「蒼氏! 彼女ってどうやって作るんや? ワイ今まで彼女いたことないんやが」

「俺に聞くなよ……。お前はその一人称と関西弁をやめることから始めろよ」


 蒼はうんざりとした表情で、目の前の巨漢を見る。

 普段から関西弁を多用する、蒼の友人である関東人の高校生。彼の名は藤 霞(ふじ かすみ)

 

「なんでや! 一人称関係ないやろ!」

「その寒い台詞もナシだな。オレ的にはナイわ」


 さらに霞に追撃を加えるのは、霞に対してスマートな体型の好青年。名は神下 霜(かみした そう)

。彼は一枚の紙をひらひらとさせつつ、ドヤ顔を披露する。


「こんなオタクのことより、これ見ろよ。こないだの進研模試の結果、俺校内3位だぜ」

「なッ……! ワイですら三桁だというのに……。これは、次の試験では本気を出さねばなるまいな……」

「厨二はいいから黙っとけ。霜がこの学校で三番とか、天変地異でも起こりそうだな」


 言いつつ蒼は、自らの結果の記された紙を出す。

 霞と霜はそれを見て、同じリアクションを起こした。


「なん、だと……」

「二位……?」


 蒼はそんな二人を後目に、三人の結果表を並べた。


「お前ら二人の点数足しても俺に及ばないみたいだ……つーか、お前ら名前似すぎだろ。どっちがどっちか分からなくなるんだけど」


 と、蒼がそんな分かりきった愚痴をこぼすと、霜が急に立ち上がった。


「ま、俺には愛する彼女がいるからなぁ。学力じゃなくて総合力では圧勝してるぞ? 人生は総合力」

「はいはい……」

 

 蒼はいつものように小馬鹿にしようとしてやめた。

 時計を見るなり椅子を立ち上がる。


「すまん、昼休みにすることあるんだった」


 足早に教室を去ろうとすると、霜と霞がその後をついていく。


「杏ちゃんに会いに行くのか?」

「ワイも会いたい、それで二人でお話したいんやけど、ついていっt」

「事案発生するから駄目だ。それと、杏に用事があるわけじゃない」


 ついてこられないようさっさと教室を出ると、蒼は一人で屋上へと向かった。

 黙認されている壊れたドアを開けると、凄まじい突風が卯月を襲う。


「……こんにちは」

 

 風に顔を顰めつつもそう言うと、風はぴたりとやんだ。

 

「何の用かしら?」


 屋上のフェンスにもたれ実に鬱陶しそうな眼で卯月を見る女子。彼女は四前弥生(よまえやよい)。蒼たちは知らない事だが、進研模試の校内ぶっちぎりの一位である。

 だが彼女もまた、頭の出来のような小さなことではなく――普通の人間とは違っていることを、蒼は知っていた。


「霜の彼女さんだよな? 最近うまくいってる?」


 蒼はそんな話を切り出した。


「彼女じゃないわ」


 ひどく冷淡に。

 弥生は霜を嫌っている。これは校内でも広く認知されていることだ。ゆえに弥生は、蒼の見当違いの言葉にイラついたのだ。

 空が黒く曇っていく。蒼が今朝見た天気予報は、快晴である。


「まあまあ。そんな表向けの嘘はいいから。俺は霜の親友なんだ」

「ということは、あなたが藤霞?」

「……体型の話をしてないのかアイツは……。えっと、俺はもう一人の方で、卯月蒼だ」

「興味ないわ。用件は?」


 辛辣な返しだが、蒼からすればかえって都合が良い。いちいち時間をかけていられないのだ。


「単刀直入に言おう。あんたは異世界に行け」


 蒼は真剣に、至って本気で言いのけた。


「意味が分からないわ。あなた頭おかしいの?」

「おかしくない。異世界が無いと思ってるんなら、それは間違いだ」


 それを聞いた弥生は、頭を軽く押さえる。


「……そんなふざけた話を聞くつもりは無いわ。帰って」


 弥生の眼光が、女子がするようなものでは無くなっていく。

 空を食らいつくした黒雲が、滴を落としていった。


「じゃあ、お前の今一番やりたいことを当ててやろう」

「……?」


 蒼は一歩弥生に近づいた。

 僅かに身構える彼女を気にも留めず、蒼はその瞳を見つめる。


「……うわ。神下霜を保護したうえで、能力行使による国家転覆。ひいては二人だけの世界の創造……幸せなk」

「やめなさい」


 見れば、殺すかのような勢いの弥生が、蒼の胸倉を掴んでいた。


「すまんすまん……でも、分かっただろ? えーっと、気象の操作ができる四前弥生さん?」

「何故……」


 蒼はそっと手を離させ、小雨が止んだことを確認する。


「あんたは空。俺は眼」

「……眼がどうしたというの?」


 蒼は自らの両目を指さした。


「右目はあんたみたいなの能力の詳細を把握、左目はその人の一番したいことの察知。つまり、俺も能力者だな」

「……驚いた。私の他にも能力者がいたなんて」


 弥生は初めて出会う自身以外の能力者に少なからず驚き、興味を持った。

 卯月 蒼は、異能力者である。これは誰にも話したことがない――ただし、他の能力者を除いて。


「多分だけど、霜も能力者だと思うぞ」

「多分? あなたの眼とやらで能力は分かるんじゃないの?」


 弥生の冷静な指摘に、蒼は若干の戸惑いを見せた。


「あー……色々あるんだ。異世界案内役にはな」


 そう言って蒼は懐から二つの鍵を取り出した。


「これが転移。こっちは転生。さあ、どっちがいい?」

「待ちなさい。異世界案内役とはどういうことなのかしら。詳しく教えて」

「俺は五年前からこうやって異世界に行ってもらう人間を送ってたんだよ。さ、どっちだ?」

「待って。強制なの?」

「……嫌なら断ってもいいけど、霜さえいればこんな世界、目障りなだけなんじゃないのか?」

「……」


 弥生は口をつぐみ、その優秀な頭脳で考える。

 異世界というリスク、卯月蒼の信頼性、霜との未来。

 そこへ、蒼の言葉が入り込む。


「別に、今すぐ行かなくてもいい。また後日来るから、その時までに霜にも話しといたらどうだ? ま、じっくり考えろよ」


 蒼はそう言い残し、足早と屋上を去って行った。

 屋上に残されたのは、空の気分を変えることのできる一人の少女。彼女はころころ変化する空を仰ぎ見るのであった。


* * *


 卯月蒼、十七歳。

 職業、高校生。

 副業、異世界案内。

 

 それが彼の秘密である。

 さらに言えば、常人では持たざる二つの魔眼と非科学的事象を発生させる二つの鍵を持っている。そして両極端な、高校生と仕事人の二面も持ち併せていた。

 

「異世界って楽しいのかねぇ……」


 卯月は異世界に行ったことがない。毎度異世界に転移者、転生者を送り出しているにもかかわらず。ここで言う異世界とは、卯月の持つ二つの鍵で行ける世界を指す。

 

 異世界の名は、ヲリンポス。

 十三の主要な都市と、豊かな自然、そして魔物と魔法の存在する、まさにゲームのような世界である。

 

 蒼はほんの少し異世界に憧れを抱いていた。

 ――そして彼は、自分自身がヲリンポスに行く運命にあるということをまだ知らない。

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