吾と珈琲
珈琲はもう吾にとって底なしで、堕ちてゆく雫は闇であり光であって、それは無言の友人であり、酸いも甘いも素知らぬ顔でカップの内側は満ち足りてゆく。厳かに波立たず深く透き通っているが、やがて冷めて濁ってしまうと躊躇うことなく吾は珈琲を捨ててしまう。すぐさま新しい珈琲を淹れる。美味しい(不味い)ではなくて好き(嫌い)でもなくて安心(不安)ってわけでもないが、熱い(新しい)コーヒーを常に欲する。それを手に入れられる幸福。しかしカフェインがカラダを冷やすという説が有力なら、ハニーバニラカモミールティーなどを飲めばいいのかもしれないが、別段温まりたいわけでもなく、はたまた眠気覚ましとも違う。珈琲は隙間を繋ぐのだ。吾の間を埋める糊だ。吾が剥がれないように、死の淵までも粘着することだろう。