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 本編に入れなくても良かったのですが、書きたくなったので書き連ねてみました。時間軸は本編の25と26の間に起こっていた出来事です。

 未読の際はそちらをお読みいただいてからご覧になると、より楽しめるのではないかと思います。


「――リディオル殿!」

 ひと仕事終えてひと息吐いて。そろそろ耐え切れなくなってきた眠気を解消しようとした時に、それはやってきた。

 後ろで結われた長い髪。今しがた彼のところへと送ってきた彼女と、よく似た髪型。もう目が覚めたのかと一瞬目を見張るが、そもそも顔も背も髪の色も、何もかもが違う。

 やってきた女性は漆黒に近い、深くて暗い茶色だ。

「なんですかね、セーミャ嬢。あんた、キーシャ様のお世話してるんじゃなかったんです?」

 扉がきっちりと閉じられたのを確認してから、リディオルはそう口を開く。

「そのことに関してお話をしに来たんです。まだお嬢様の具合が良くないので、この嵐を弱めていただけませんか?」

「その提案は、これがシャレル様のものと知っていての意見か?」

「ええ。そのシャレル様からもお許しが出ました」

 毅然と言い張るセーミャに我知らずため息が漏れる。意見とは言うものの、今誰が身体を張っていると思うのだ。

 まったく、どうしてこう自分の周りにいる女性陣は好き勝手に物を言う方々なのか。

 ――なんてリディオルがひと言でも口にしようものなら、何倍にも増した理不尽な言い分が返ってくるだろう。さらに面倒くさいことになるので、リディオルの心の中に留めておく。

「はいはい、分かりましたよ。なんとかしましょう」

「あ、それから」

「何か?」

 呼び止められて嫌な予感しか浮かばないのは、なかなかない状況である。嬉しくない。大変嬉しくない。

「この嵐、出来るなら進行を止めないで留めていただきたいとのことです。その方が、この後の計画にも支障は出にくいでしょう、ともおっしゃっておりました」

「……ずいぶん簡単に言ってくれる」

 口の中でつぶやいたのだが、そのぼやきはしっかり彼女まで届いていた。

「え、宮廷魔術師ともあろう方が、まさか出来ないんです?」

 そう首を傾げられる。これが彼女の場合、純粋な疑問なのだから性質が悪い。嫌味な態度が全く見られないのが彼女のいいところでもあり、また、悪いところでもあるのだけれど――本人は全く気付いていないのがさらに拍車をかけていて。

 リディオルもそれを分かっていたからこそ、彼女の今後が心配になってくる。この調子でこれからもやっていけるのだろうか。

「そのやっすい挑発なんとかしてくれませんかねぇ。出来ようが出来まいがやりますけどね?」

「失礼な、挑発ではありませんよ。あなたの実力を考えての意見です。あなたに出来ないなんてことないでしょう」

「へーへー、やらせていただきますよ。仰せのままに」

 これでまだ休息にはほど遠くなった。

 あー、面倒くさい。けれども言われたからにはやるしかない。仕える主からの命令となれば、なおさら――

「まだ何か?」

 何か言いたげに。そこに立つセーミャへ問いかける。

「ラスターは、大丈夫でしょうか」

 その言葉におや、と首を傾げる。

「へぇ、気になるんで?」

「気にならないと言ったら嘘になります。彼女はキーシャ様を助けてくださいましたし、お若いのにしっかりとした方でした」

 しっかりと。ラスターとは数回話したくらいだが、それは確かに頷ける。あのシェリックが傍に置いているくらいだし――

 けれども、セーミャに言われると全く別のことが頭に浮かんでくる。

「しっかりとって、そりゃあんたの上司と比べたらでしょう」

「それは言いっこなしですよ。あの人と比べたら、みんなちゃんとした方です。リディオル殿だって。本当になんとかしてくださいよあの人……」

 大きく吐かれたため息が、セーミャの苦労を物語る。

「あー、はいはい、取って付けたおまけの褒め言葉ありがたく。ま、頑張れ。俺の管轄じゃねぇからな、そっちは」

「別にいいんですよ、リディオル殿が担当してくださっても」

「お断りだね」

 何が悲しくて苦労を増やさないといけなのか。

「嬢ちゃんはなんとかするだろうよ。なんとかならなきゃ、この先には進めない。それだけのことだ」

「そうですけど」

「そんなに気になるなら、一度様子でも見に行ったらどうだ? 別に直接の干渉を駄目とは言われていないでしょうよ」

「そっか、その手がありましたね」

 名案だとばかりに彼女が手を合わせる。

「ではそのように。ありがとうございます、リディオル殿。嵐のことはお願いします」

「はいよ。あんたはキーシャ様の様子でも見てな」

「ええ、そちらはお任せください」

 そうして今度こそ、彼女は部屋を後にしたのだった。

「さあてっと。それじゃ追加のお仕事でもしますかねぇ」

 首を鳴らし、リディオルも動くべく立ち上がる。

 とりあえず、風がうまくこちらの言うことを聞いてくれそうな、外にでも行こう。と言っても船上では出る場所など限られていて。

「嬢ちゃんはどうなることやら」

 彼女の傍にいるであろうシェリックと、思いがけず気にかけていた様子のセーミャと。

 これからを期待しながら、リディオルの足は甲板へと向かうのだった。


  了


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