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翡翠の星屑 小話  作者: 季月 ハイネ
港町の細工風物詩
3/6


『飴細工工房・氷雨』


 ――あめ?

 軒下に下げられた垂れ幕に、でかでかと書かれた文字。『氷雨』という名前は太い文字に変えられており、そこだけ強調されている。

 こおりあめ? なんと読むのだろう。

「お、いらっしゃい、君一人かい?」

「え」

 突然話しかけられて、ラスターは辺りを見回す。彼の視線はこちらの方に向いていたけれど、他の誰かではないかと思ったのだ。

「君だよ、そこの君。子ども一人なんて珍しい」

「ボク?」

 後ろの方にシェリックがいるから正しくは一人ではないのだけれど、そんな訂正をする暇もない。第一、ここにはシェリックがいないのだし、話したところで信じてもらえるかどうか。

「そ。お兄さんが、君の望む形をなーんでも作ってあげよう」

「えっと……」

 前に人がいるのにいいのだろうかという思いが浮かんで、上げた目がそれを知る。よくよく見れば、前にいる人たちはみんな手に棒を持っているではないか。ならば何も問題はないかと安堵する。

「何がいいかい?」

「んー……」

 そう言われても、すぐに浮かんではこない。彼が作っていたのは一輪の花に、可愛い動物。さて、何がいいだろうか。ちらりと周りを盗み見れば、鳥に昆虫に魚に海の生き物に、色々な形の飴を手にしている。彼の何でも作れるという言は、あながち嘘ではないようだ。

「動物でもいいんだよね?」

「ああ、なんでもどんとこいだ! あ、でも僕の知ってる形にしてくれよ。知らないものを言われてもわかんないからな」

 知らないものを作れはしない。それもそうだ。

 話しながら、ラスターの脳裏にふと浮かんだものがあって。その一瞬、なぜだか唐突に惹かれたのだ。店員は知っているだろうか。

「……じゃあ、――」

 果たして、ラスターがおずおずと告げた言葉に、彼は破顔したのだ。

「おお、そうきたかー。できるできる。おーし、見てな、すぐに作ってやるから!」

 店頭には色とりどりの飴が透明な袋に入れられて、ところ狭しと並べられていた。彼の作る細工とは違って、凝った形のものはない。そこにあるのは、四角いものや円筒形のものがほとんどだ。これも彼が作ったものなのだろうか。

 家で待つ祖母を思い浮かべる。土産に持って帰ったら、どんな顔をするだろうか。まだまだ帰れる目処は立っていない。渡せるのもいつになるかわからないから、いつか帰る時に買って行こうと決める。祖母は甘いものが好きだから、喜んでくれるといいのだけれど。

「――はーいっ、できあがり!」

 目の前に差し出された飴に、一瞬面食らう。

「あ、ありがと――わ」

 言いかけたお礼が途中で詰まる。細工の見事な飴と、満面の笑みを浮かべた店員がそこにいた。

「凄い、細かい!」

「ありがとうな。君みたいに格好良く作ってみたよ――おっと」

 間近で合った彼の目がわずかに見開かれる。

「悪いね、お嬢さんか。いやあ、僕としたことがすっかり間違えてしまった」

「いいよ、慣れてるし」

 変化した呼び名に肩をすくめる。他意はないし、ラスターは慣れている。そもそも、動きやすい服装を重視したらこうなっただけだ。

「ほんと申し訳ない。次に会えたら絶対に間違えないからね。はい、毎度!」

「ありがとう」

 彼に代金を渡し、飴を受け取ったラスターはシェリックの元へと引き返したのだ。


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