表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紗江の誕生日  作者: 貴幸
2/2

あと







サエは俺の耳を指しながら楽しそうに微笑んだ。


驚いた。

しかし、ピアス穴なんてもの、開けて大丈夫なのだろうか。


サエの身体は弱い。

開けたところでそこに雑菌が入ったら終わりだ。


「ダメ、なんじゃないか?」


「えぇ…」


がっくりと頭を下げる。

そんなに俺のピアスが羨ましいのだろうか。


「イヤリングとか今度買ってきてやるから、それじゃダメか?」


「それじゃあ意味がないの」


むう、と頬を膨らませ俺を見つめる。


「それなら一応先生に相談してみたらどうだ?」


「先生絶対ダメって言うわ。」


それはダメという事じゃないか…

なんとかサエを説得しようと思うが、うまい言葉が見つからない。

サエがこんなに頑固なのは初めて知った。


「…じゃあ、諦める。」


不満げな顔でサエは言う。

そして俺に近寄り、左耳に触れてきた。

反射的に背筋が伸びる。


「その代わり、ハルトが代わりに開けてよ。」


「俺…?」


耳に触れるサエの手が気になって話に集中できない。

つまり、俺にもう一つピアスを開けろと言うのか。


「いいけど…サエはそれでいいのか?」


「うん、でも私に開けさせてね?」


「あ、ああ…」


今からピアッサーを買いにいくのは面倒だと思った。

何か尖ったものはないかと聞くと、サエは引き出しの中に入っていた安全ピンを差し出した。

病院内で学校の授業みたいなものをする時につかう、名札についていたものだ。

俺の血で汚すのは申し訳ないと感じた。


「一気に刺せよ、痛えから。」


「う、うん。」


サエは緊張はしているようだが、それより楽しそうだ。

サエは元から開いている穴の上辺りを触る。


「ねぇハルト、ここかな」


そんなこと言われたってわからない。


「サエの刺したいとこに刺せばいいよ。」


そう言うと、サエはデコに指を当てた。


「ふざけるなよ」


「あはは、ごめんってば。…いくよ。」


「おう。」


深呼吸をする。

右耳の穴は安全ピンで開けたが、痛いし化膿するしで大変だった事を思い出す。


「えいっ!」


左側を鋭い物が突き抜ける感覚。


「あっ!くっ…う、いて、痛え…ッ!」


「あ、ぁ、ハルトごめん、私うまくできなかったかも…」


左耳に熱を感じる。ジンジンという痛さとドクドクと血が流れ始めるのを感じた。


「はは、いい勢いだったよ…まだ抜いたらダメだからな。」


「うん…やっぱり血が出てるね。」


あぁ、このままサエが近くにいたら患者服に血がついてしまうな。


「そうだな、サエ、離れ…」


サエはとても満足そうに微笑んでいた。


「ふふ、赤いリングがついているみたいね。」


その悪戯な微笑みにドキドキと心臓が、強く動く。

これは出血に心臓が頑張って働いているのか、他なのか。

穴を開ける前と同じように、サエはまた耳に触れた。


「サエ、触られると痛い。」


「うん。」


「…サエ、満足?」


「うん。」


「そう…」


「うん…」



それからしばらく安全ピンを耳に刺したまま二人で時を過ごした。

赤く染まったティッシュは先生に聞かれたら鼻血がでた、と言おうと二人で話し合った。


「抜くよー」


「おう。」


安全ピンが耳から離れた。

穴は割と綺麗に開けられているようだ。

まだジンジンと痛むが、化膿はあまりしていない。


「今更だけど、私の我儘で傷つけてごめんね。」


我にかえったかのごとく、膝を抱えて申し訳なさそうに言った。


「サエはこれくらい我儘な方がちょうどいいよ。」


頭を撫でるとえへへ、と嬉しそうに微笑む。


「ハルト、穴塞いじゃダメだよ?」


「…なんでそこまで拘るんだ?」


「それはね、この傷がある限りハルトの身体に私が残るからだよ。」


サエは悲しそうに微笑む。

そんなの無くたって、俺からサエが消えることなんかないのに。


「バカだなぁ…」


無性に抱きしめたくなる。

でも俺がサエを抱きしめる権利はない。


「ハルト、最後にもう一つだけお願いしていい?」


「なんだよ、何でもきいてやるよ。」


「抱きしめて、思いっきり。…あ、折れたら困るからほどほどに」


言い終わる前に細くて小さな身体を思いっきり抱きしめる。

本当に、折れてしまいそう。


「そんなこと誕生日じゃなくてもしてやるよ。」


「……ありがとうハルト、大好きだよ。」







サエの誕生日を祝えたのは、これが最初で最後だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ