普通の男の回想 Ⅱ
名を聞くと、渋々少女は「ノガミ レンリ」と名乗った。
綺麗な名前であると褒めると、「おとこのこみたいで、やだ」と唇を尖らせた。
「レナは、もっとカワイイなまえがよかったの!」
そう呟く彼女の心境は解らなくもなかった。
「………レナちゃんは、」
「『レナちゃん』じゃないもん。レナはおとなだから、『レナ』だもん」
「あぁ、ごめんね。
レナはお名前が男の子みたいで嫌なんだね?」
「だって、おとこのこたちがバカにするもん」
「そうか…
…けれど、『レンリ』というお名前はとっても良いお名前なんだよ。
昔の人は『連理の枝』と呼んでいて…」
「レンリのえだ?」
「そう、……好きな人とずっと仲良しでいるって意味でね。
『天に在らば比翼の鳥、地に在らば連理の枝―』
昔の人はそう言って、仲良しでいようって約束したんだよ」
「ふぅ~ん」
そう言いながら退屈そうに、彼女は地面を蹴る。
「…少し難しかったかな?
つまり、レナのお名前はとっても良いものだってことだ」
「……よくわかんないけど、わかった」
ふて腐れた様子で答える彼女に、思わず笑みが零れる。
「まぁ、……レナがもっと大きくなれば、何時か分かるよ」
そんな取り留めもない話をしながら、過ぎる時間が私は好きだった。
幼い彼女は、やはり普通の少女であるが、とても不思議な存在で…
そうして、また今日は過ぎ、明日を連れてくる。
初めて出会った、あの日から繰り返される何の意味も存在しない「お話」―
それでも、またあの場所で何度でも彼女と会うだろう。
今となってはやはり、それが必然だったのだから。