普通の男の回想
私は彼女を特別、愛していた訳ではない。
ただ、「私」という存在は、この世界にとって些か想定外の代物であるのだろう。
いや……或いは、全て運命的なものなのかもしれない。
それ程までに、私の「想い」というものは、一般的でいて、大いなる破壊的要素を孕んでいるのだ―
私が彼女に出会ったのは、凍てつく風の踊るとある昼下がりのこと―
諸事情により、私は人生で数多ある苦境の真っ只中にあった。
その日も私は、ただ水面の浮草の如く、当てもなく彷徨っていた。
行き着いたのは、自宅から数キロも離れた場所にある公園―緑の多い大きな自然公園だった。
徐に近くにあったベンチに腰を下ろし、深い溜息を吐く。
広い原っぱには、小さな子供たちが遊具で遊んでいる。
傍らには母親とみられる女性達が数人、お喋りに夢中になっていた。
其々、亭主に対する不満や周囲に対する苛立ち等を大袈裟に熱弁している。
低俗でいて変化のない昼下がりに、私はもう一度大きく溜息を吐いた。
「……おじさん、どうしたの?」
不意に声をかけられ、そちらを見ると、いつの間にか隣に五歳くらいの少女が座っていた。
背中まである長い黒髪に、ガラス玉のような丸い瞳、季節に不釣り合いな短パンからは小鹿のような脚が伸びていた。
「さっきから、ためいきばっかでしょ?
レナがなやみきいたげるよ!」
舌足らずにそう告げる少女はとても幼かったが、明確な意図を持って語っているのが私にも分かった。
曇り空の間から暖かな日が差し込む冷たい午後―
それが私と彼女との出会い―
そして同時に、「私」という歪みがこの世界に生きているという事を証明する必然的な始まりだった。