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幻花瞬月
あの日出会えたのは
貴方と言う名の幻でした
幻花瞬月
幻が
花開いたと思った
瞬間に気化した音色が錆び付いて
月はただ天球の頂点で 嘲笑っていたのです
あの日出会えたのは
残像すら残らない 春の日の貴方でした
幻の
花びらが
瞬く間に消えたのに
月だけがただ 水の枯れた涙をたたえていたのです
あの日泣いていたのは
儚い幻の海で 名無しとなって消えた
子供のような貴方でした
幻のような霧雨の中
花は砕けた硝子細工の破片のように
瞬間で朽ちた腐葉土の中を
月が手探りで 忘れかけた傷を抉るのです
幻花瞬月
あの日出会えたのは
貴方と言う名の幻でした




