その笑顔に
青年は、整った顔を苦しげに歪ませた。
「これで、わかっただろう? ――俺は」
ポツリと語ったのは、遠い昔、親からある日突然知らされた事実。「お前の母親は、人間だ」――それから幾年、追放を受けた。いや、自ら外へ飛び出した。
もう、自分の居場所はないと知ったあの日。
守ってくれる人などいないと知ったあの日。
しばらく人間のまま、各地を転々とした末辿りついたこの国。
少女は、ギュッと目を瞑った。
「……なんとなくそうじゃないかって、思ってました。――あなたは、時々優しくなるんです。本来の竜は、あんなに優しくはなれないのでしょう? きっと、お母様は優しい方だったんですね」
「俺はただの出来損ないだ。優しくなんかない」
「そんなこと、ないですよ」
不意に、青年の手を握った。見せつけるように上げて笑う。
「あったかい。ほら、優しいでしょ?」
その笑顔と温もりに、青年は虚をつかれたようだった。たじろぎ顔を逸らす。
少女は笑顔のまま首を傾げた。
「ほかのところには、行かないんですか?」
「さあ、どうだろう。ここよりいい場所があれば」
曖昧にごまかす。少女は小さくあ、と呟いた。
「……もう、戻らないといけないみたいです」
遠くに見える城には、ほのかに灯りがついている。
「明日、また来ていいですか?」
「うん」
「それじゃあ」
少女はさっきと同じような笑顔を残して山を降りていく。
青年は、心の奥でくすぶる気持ちに気づかないふりをした。




