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とある魔女の歩む道  作者: いろは
1日目
6/62

時の間と呪い


 アメルの家の前に施された魔方陣から、淡い光が漏れだす。その光が一層強まったとき、アメルとタマの姿が現れた。大魔女の元から戻ってきたのだ。

 

「あの、主…お身体の方は大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫です。魔力の回復が止まると言っても、すぐに影響が出るようなことではありませんよ」


 家へ入るなり、ソファに深々と腰を下ろしたアメル。どこか疲れた様子のアメルに、タマは気遣うように声をかける。しかし、声は気落ちした様子もなくしっかりとしており、また紡がれるやや楽観的な言葉をいつものアメルどおりだった。


「…あの人は私に、偉大な行いをするよう言いました」

「確かにそうおっしゃっていましたが…それが何か?」


 少し考え込むかのように目を伏せていたアメル。そんなアメルの口から呟かれたその言葉に、タマは軽く首を傾げる。なぜ今、大魔女が最後にはなった言葉をアメルが口にするのか、タマは分からなかった。

 そんなタマの問いに、アメルは伏せていた瞼を上げる。そして、大魔女の発言はいったん置いておき、アメルがかけられた魔法について説明を始めた。


「制止魔法というのは、俗に言う『呪い』です」


 呪いとは、一般的に使用する魔法とは異なった術である。

 普通、魔法師たちが使用する魔法は、4大元素の力を源とした術。そして4大元素は、火、水、風、土を表している。これに対して、呪いという術は4大元素とは異なる力が基となっている。


「光と闇、生と死、時で構成された世界…いわゆる『時の間』」

「その世界の力でかけられた魔法が、呪いなのですね」


 アメルの話を聞き、タマはそう答える。しかしアメルは、少し考える素振りを見せた。アメルがかけられた制止魔法は、間違いなく時の間による魔法ではある。


「少し違います。時の間からの魔法が、必ずしも呪いというわけではありません」


 そう言って、アメルはタマへと視線を向ける。


「具体的には、移動の陣も時の間の魔法です」

「…確かに、4大元素の力ではありませんね」


 呪いは時の間の魔法である。

 しかし、時の間の魔法は呪いではないのだ。人の生死に関わるような魔法を俗に呪いと呼んでいるに過ぎない。そしてそうした魔法は、生と死を司る時の間の力を持って使用される。


「ただ、私たち一介の魔法師が時の間による魔法を扱うには、移動の陣のような魔法陣が必要となります」


 4大元素の力はアメルたちの住む世界の根源である。そのため、魔法陣などなくとも4大元素による魔法を使用することができる。魔法師によっては、詠唱すらも必要としない。

 それに対して時の間は異なる世界の力。そのため、魔法陣を介してでしかこの時の間の魔法を扱うことはできず、また詠唱も必要となる。


「ただし、魔法陣なく術を扱うことのできる例外もいます」

「…大魔女様、ですね」

「その通り」


 タマの言葉に、アメルは頷いて見せる。

 アメルへ魔法をかけた際、大魔女は魔方陣も詠唱もなく術を使用していた。それがごく当たり前であるかのように。しかしふと、タマの頭に疑問がよぎる。その疑問を、タマはアメルに問うた。


「主、呪いは確か禁術のはずでは…?」

「えぇ、魔法律にもそのように記されています。私たち魔法師は、この魔法律の下に存在しています」


 魔法律とは、魔法に関するあらゆる決めごとである。

 魔法律を破るようなことがあれば、厳しい処罰が下される。また魔法律により禁止される魔法は、人が人の生死を左右する術や、使用することで人の生死を危ぶむ術である。そのため魔法律には、俗に呪い呼ばれるような術を使用すること禁じている。


「そして魔法律は、大魔女の下に存在しています」


 魔法師たちを律するための魔法律。

 そんな魔法律は、歴代の大魔女たちにより創られてきた。つまり、魔法師たちの法は大魔女であると言っても過言ではない。法すらも超越する存在、それが大魔女なのだ。


「だからこそ、あの人はいかなる場合も例外なのです」


 この国にとって、大魔女は『法』そのもの。

 だからこそ、大魔女は魔法律に縛られない。


「…話が大きくそれてしまいましたが、呪いを解くには3つの方法があります」


 呪いと言うものは、人の生死に関わる術である。そして、基本的に呪いと呼ばれる魔法は、術をかけられてすぐに命を落とすと言うものではないのだ。そして、呪いを解く方法も、ない訳ではない。


「1つ目は、呪いをかけた本人が術を解す。2つ目は、術者を殺すこと」

「さらりと恐ろしいことを…どにらにせよ、難しそうですね」


 タマの言葉に、アメルは小さく頷いて見せる。

 そして、最後の方法を、アメルはその口で紡ぐ。


「最後に、これが最も可能性がある方法です。それは、術者が与えた条件をクリアすること」

「条件?もしかして…」

「えぇ。恐らく、あの人が最後に言っていた『偉大な行い』がそうなのでしょう」


 アメルの言うようように、ある一定の条件を満たしたとき呪いは解くことができるのだ。特に、大魔女がかける呪いは、相手に最後のチャンスを与える場合。今回のアメルの場合は、『偉大な行いをする』ことであった。


「しかし、偉大な行いなど一体何をすればよいのでしょうか?」


 タマのその言葉に、アメルは重たい溜息を1つ吐き出した。


「何となく、察しが付きます」


 独り言のようにぽつりとそう呟いたアメル。

 アメルは、気だるげに立ち上がり、ペンと紙を取り出した。そして、さらさらと何事かを書き出す。書き終えた紙を丁寧に折り、封筒に入れる。その封筒にも何か文字をつづり、最後に封蝋を押した。これで、一連の作業は終えた。

 アメルの口から、また1つ重たい溜息が零れ落ちた。



1日目:おしまい



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