Love Affair
ティシフォネと少女・・・リリスはライディンの東出口へと脚を進めていた。
リリスはティシフォネが勇者の話しをしてから、ずっと何か考え込んでいる。
その為か、ティシフォネの指示に従いこうして大人しく出口へ向かっていた。
(なんだか、急に黙り込んで気持ち悪いねぇ。まあ、大人しくいう事聞いてくれりゃいいか。)
そうしてしばらく歩き続けていると、向こうが明るく光っていた。
それは森の出口から射し込む日光の為である。
「やーっとこんな辛気臭い森ともおさらばか。」
ティシフォネが一人ごちながらも、リリスにその場で待てと指示をして、一人森の出口付近から平原が見渡せる場所へとやってきた。
「な、なんだよアレは!?」
見渡す限り平地である平原の一部分が銀色に光っていた。
それはこの森から何人も逃がさない銀の壁。
目を凝らしてみると、その一つ一つが重装備の鎧を身に着けた騎士である事がわかる。
そう、壁と思われるものは数万の軍隊による隊列で出来たものだった。
銀の壁とライディンの森との中間地点、距離的には森から500mも離れていないところに男女の姿があり、そこへ一人の男が近づいていくのが見て取れた。
「ありゃあ勇者さま・・・か?」
歩み寄る人物は先ほど苦汁を飲まされたレディンだと判別がついた。
「後二人は・・・でけぇ奴とちっこい女・・・」
男は物静かで顔の造りの渋さも手伝い三十路とも取れる雰囲気だが、その2mは超える長身と、それをさらに超える大きな鎚を持っている為に重く異様な雰囲気をかもし出していた。
横の男との比較によりさらに小さく見える身長だが、実際も135cmしかない女は薄い生地を幾枚も重ねたローブを羽織っている。
その風貌よろしく、木の削り出しに水晶を付けた典型的な魔術師の杖など持っていた。
「でかいトンカチ男と小さい魔術女のコンビ・・・あれ?」
ティシフォネはそのフレーズが脳裏の隅っこに引っかかった。
「たしか、1年ほど前に名が騒がれた二人がそんな感じだったか?」
彼らに符号する人物が関係した出来事が話題になった一件があった。
それは2年ほど前に中規模な小鬼群がボルテス渓谷で暴れているというものから始まった。
速やかにギルドを含め近隣諸国の協力により、この小鬼群の討伐部隊が編成された。
ミネルヴァ国より第三師団の第五小隊、ギルドの依頼により参加した騎士団が、メデュース、エリュアレ、ゴォルグンの3隊。
いずれも一つが30名近い人数の騎士団である。
そしてそのサポートとして、幾人かの戦士と魔術師達を含む、総勢250余名にもなる部隊だっ。
その闘いで名を馳せたのが進撃の鉄槌と、不動の魔女とよばれたゼスとハウゼスだ。
当初は正攻法で殲滅させられるだろうと単純な掃討作戦しか立てなかったが、小鬼の数とその統率された動きに思いのほか手間取り半年にわたる期間を要することになった。
ある程度の数を退治しても、しばらくするとまた数が増えてゆくため、解決するためには一度に何百と群れる小鬼を全て一掃する必要があった。
そのための作戦として、魔術師による大規模な破壊魔法による殲滅作戦が浮上した。
騎士団で一箇所に鬼どもを追い込み、囲いから逃げ出す小鬼は戦士たちに任せる。
簡単な作戦だが、成功の鍵はチームワークとタイミングを取る指揮官の度量によるところが高い。
実際に作戦が実行されたが、数十になる小鬼群が別働隊のような動きをとり、呪文に集中する魔術師達へと襲いかかってきたのだ。
騎士団の囲いを解けば何百という小鬼が一斉に襲い掛かってくる為に騎士団は動く事が出来ない。
また、戦士たちだけでは相手をする数に限界があり、魔術師達への攻撃は免れなかった。
その場所で他の魔術師を護る為に唯一人で壁となっていたのがハウゼスであった。
彼女は他の魔術師と同じく集団で発動させる魔法に集中しながらも、同時に結界魔法を駆使していた。
結界を力任せに突破しようとする小鬼達のプレッシャーに一歩も引かずに耐え忍ぶ。
それを救ったのが立ちふさがる小鬼達を巨大な鉄槌で薙ぎ払い掛けつけたゼスであった。
この二人の活躍により大規模破壊魔法は成功し、小鬼達は殲滅された。
他にも活躍した者達はいたが、二人の活躍が作戦の成功に深く関っていた事は誰もが判っていたのだ。
そしてこの出来事はギルドを通じて大きな話題になっていたのだった。
「おいおい、戦闘開始かよ、うわ、あのトンカチ男無茶苦茶だな!」
そう言ってふいとリリスを見やるティシフォネ。
何時の間にか横に来て食い入る様に戦闘を見つめるリリス。
「へぇ。やっぱり自分の立場をわきまえてるってことかい?」
ティシフォネが意識せず柔らかく問い掛けた。
「?」
「あんたがリリスなら、そのリリスを保護するような行動をする野郎が気になるんだろ?
自分のせいで、人間と敵対してる勇者がどんなやつか知りたいんだろ?」
いつの間にか少し意地悪な感じの話し方になっていた。
「・・・」
「なるほど、自分でも困惑してるって感じだな。」
「はい。私は数百年もの間、ずっと見つかり次第殺され続けてきました。
貴方とこんなふうに話したり、ましてや勇者と呼ばれるような立派な方に・・・
私を護るような行動を取られるなんて、今まで有りませんでした。」
「ま、そうだな。好き好んで世界中を敵に回すなんて誰も考えないさ。
あんたに、リリスに荷担するってのはそういう意味になっちまう。
まあ、慰めにはならんだろうが、あんたの境遇に多少なりとも同情する奴らはいる。
だが、そこまでだ。
自分の知り合いが困っていても我が身を犠牲にしてまで助けるなんて奴が珍しい世の中だ。
それが赤の他人を、それも神様がお告げした災いの元なんて見向きもしねェよ。」
自分の言葉に多少の苛立ちを隠せずに言うティシフォネ。
「そう・・・でしょうね。だからこそ、理解できません。
あの人がそこまでして私の為にしてくれる事が・・・。」
レディンから視線を外すことなく答える。
「あー・・・そりゃたぶん誰にもわかんねぇよ。」
心の底から呆れるティシフォネが視線を戦場に戻した。
「!?」
「なっ、なんだアレ!魔法なのか!?」
鉄槌に飛ばされたレディンの身体は、まるで地面に落ちたように見えた。
「なんだ勇者さまヤラレたのか・・・肩透かしもいい所だな・・・」
「・・・・・・」
自分が負けた相手がアッサリと敗れたことに怒りを通り越し軽蔑すら感じられていた。
リリスはその場面を未だ食い入る様に見つめている。
「まだ、あの人は負けていません。」
確信に満ちた台詞。
「どう見ても勝負あっただろ・・・」
ティシフォネが再度視線を戻すと、そこには水柱ならぬ土砂柱があがっていた。
その後の展開は目にも留まらぬ展開だった。
「な、なんだ?何が起こったのか全然わかんねぇ!」
ティシフォネには土砂から飛び出したレディンがゼスと一騎打ちで勝った事実が判っただけ。
その経緯まではまるで目で追えるものではなかった。
「あの人こちらに向かってきますよ?」
「げっ!?マジかよ!来んなよ、来んなって!!」
ゼスとハウゼスを倒したレディンは、ティシフォネ達を目指すかのように一直線に走ってくる。
その速度は凄まじく、見る見るレディンは距離を詰めてくる。
「と、とりあえずここから離れるぞ!」
そうティシフォネがリリスへと語りかけたとき、突然目の前にレディンが沸いたように現れた。
「こ、このぅっ!?」
「きゃあっ!?」
レディンは一瞬速度を落とすも、二人を両肩に担ぎ上げると再び速度をあげて森の奥へと進んだ。
「すまないが、しばらく大人しくしていてくれれば助かる。」
一言断りを入れる。
「~~~・・・」
ティシフォネは担がれるときの打ち所が悪かったか悶絶していた。
「・・・・・・」
リリスは自分を担ぎ上げ、ひた走るレディンをじっと見つめるのだった。




