Revelation of god
彼女はおよそ4百年前、人々の前に現れた光の神から『この世の全ての災いの源』だと告げられた。
光の神は彼女をリリスと呼び、彼女を滅する事が出きれば、全ての災いは無くなるだろうと続けた。
この頃は世界中で疫病が猛威を古い、更に異常気象の為に飢饉もしばしば起こっていた。
皆が皆信じたわけではなかった。
年端も行かぬ少女を殺せば災いが無くなるなどと。
しかし、自分達の信じる神が告げたことが間違っているとも思えない。
そして一部の信心深い人々が強行で少女を処刑することに踏み切った。
その日のうちの彼女の処刑は終了した。
せめて一思いに、と斬首刑が選ばれた。
すると、どうだろう。
その年は飢饉も疫病も無く平和な日々がつづいたのだった。
しかし翌年、再び世界に飢饉や疫病が再び猛威を振るい始めた。
やはり一人の少女を生贄にしたぐらいでは災いなど無くなるはずが無い。
人々は1年前に情け無用に処刑された一人の少女に申し訳無いと思い始めていた。
だが、ある日その少女が村に帰ってきたのだ。
確かに一年前処刑された少女だった。
村人達は戦慄した。
確かに処刑は行われ、墓まで用意して埋葬したのだ。
だが、こうして目の前に少女はいる。
人々は理由がわからなかった。
彼女の知識は確かに生前の彼女のものだった。
疑うこと無き本人だったのだ。
彼女についての査問会議は徹夜で行われた。
少女は気がついたらこの村の付近にいたのだといいはるばかり。
埒があかなくなり時間も無駄に周り始めようとした時、一人の青年がつぶやきを漏らした。
少女は魔女なんじゃないかと。
その一言が人々を虜にした。
それならば納得がいく。
魔女ならば怪しい秘術で不死身にもなるだろう。
そして少女が魔女ならば帰ってきた目的は一つ。
自分を殺した村人達に復讐するためしかない。
こんどは神様は関係がない、村一致で処刑は実行される。
理解不能な出来事に猜疑心が後押し、その狂宴は再び行われた。
今度は村人を守るため、世界の災いを無くすための正義の行為として。
魔女だと判断された少女は生きたまま焼き殺された。
やはりその年は飢饉も疫病も流行らず平和な日々がつづく。
しかし、今度は4年が過ぎた頃。
三度災いはおとずれた。
世界中で疫病が猛威を奮い、抵抗力の無い老人や子供はすぐさま死んで行く。
4年前の比ではないそれは人々にひどく絶望を抱かせた。
その噂は風の便りで運ばれてきた。
少女を処刑した村の青年が出稼ぎ先の隣町で少女を見たという。
それから暫らくして少女は三度めの処刑を受けるのだった。
気がつくと生き返っており、見つけられると殺される。
繰り返される凶事は次第に地域を広げてゆき数百年たった今では世界中で追われている。
もはや深い意味を知り少女を殺す者はいない。
農業、薬学、医学・・・文化水準が発達した現在では、数百年前にいわれた災いなどすでに滅している。
リリスを追う者達は罪に為らない罪を犯す愉しみに浸りたいが為に追いたてる。
およそ人の生活では経験できない「やってみたいができないこと」が出きるのだ。
世界中の人々が、神が、認めてしまった存在してはならないモノ。
暴行、殺人、虐待、およそ人間の理性が禁忌とするものがリリスになら許される。
それどころか仕留めた者は半ば英雄扱いであった。
この甘露を求めて世界中のどこか壊れた者達はリリスを追いたてる。
ただ己が欲望のはけ口のために。
そんな気が狂いそうな生活が数百年続いている。
もう、何百死んだろう。
もう、何百蘇っただろう。
もう、何千許しを乞うたろう。
もう、何万泣き叫んだだろう。
だが、現実は変わらない今日も追いかけられる。
つかまれば乱暴され殺される。
幾度となく蘇るとはいえ、死ぬことの痛みや恐怖まで無いわけではない。
だがしかし、気が狂うことも、ましてや安らかに死ぬことも出来ない。
ただ、出来るだけ殺されないように身を隠しながら生き延びるだけだ。
そんな自分が今は不思議な状況に陥っている。
こんな身の上の自分を追手から逃がし、傷の手当てをし、毛布をかけてくれる。
とても信じることが出来なかった。
だがしかし、数百年ぶりに胸に込み上げる人の温かみに嗚咽が止まらない。
暫しの間、少女は毛布に顔を埋め涙を流していた。




