表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/37

With a sigh

少女は目を覚ました。

辺りを見渡すと日も暮れて暗闇に包まれていた。

自分の居場所は変わらない。

昨夜追いまわされ、意識が途絶えた後、誰かに傷の手当てをしてもらい、毛布にくるまれたこの場所にいた。

どうやら泣いている内に再び眠っていたようだ。

ここ数日延々と追手から逃げる生活を続けていた。

寝る暇も惜しんで、ずっと歩きつづけた。

しかし、何処をどう進んでも、追手との距離は開かなかった。

そして、ついに昨夜は距離を縮められ、もう捕まってしまうと覚悟していた矢先、極度の疲労から気を失っていたのだ。

少女は自分の状況を思い出して身震いする。

そして、再び辺りを見回す。

・・・誰もいなかった。

いつも追いかけられている時に感じる人々の念が今はさっぱり感じられなかった。

逃亡中についた体中の細かな傷は手当てされたお陰で痛むことは無い。

また、いつも野晒しで眠っていたが、今回は毛布があった為眠りが深かったようだ。

半日も同じ場所で眠っていたなんて信じられなかった。

この数百年、いつ人間に見つかるかわからない為、隠れて寝ていても気が休まることは無かった。

一箇所に居続けると発見されやすくなるため、移動を繰り返す。

大きな木の洞、洞窟、茂みの中などで息を潜めて眠る。

リリスと呼ばれ、実際何度も殺されたが、何故かこの世に蘇ってしまう。

そんな化け物に成り下がろうとも、走れば疲れ、疲れれば眠くもなる。

生きていれば腹が減り、傷を負えば痛みが走り血も流れる。

なんと理不尽なのだと、神を呪った事もあった。

だが、呪うだけ疲れるだけなので、もう考えないようにしている。

くぅ、と可愛らしく少女の腹が鳴った。

少女はこの状況に驚いていた。

自分が安心している。いつ見つかり、惨殺されるかもしれない生活を数百年送って来た自分が、暖かな毛布に包まり、安らかに眠っていた事実に驚きを隠せない。

不意に涙があふれた。

こんな、たったこれだけの安心を今までずっと忘れていたなんて。

今の自分は考え事が多すぎて混乱してきている。

この数百年の生活で、少女は人間らしい思考回路の殆どを封印していた。

逃亡生活に邪魔な楽しさ、喜びなどの感情を押し殺し、如何に人間に見つからないか、どうすれば逃げれるか、それを最優先に考える思考パターンを構築してきたのだった。

過去を振り返る暇など無かった。

生きることに喜びを感じていた時代は幻想。

出会えば殺害される現実。

死んでも蘇るが恐怖と痛みは何度味わっても軽減されることは無い。

出される度に味の違う料理。

一つも組み合わないパズル。

人間の考え抜いた殺傷方法のなんと豊富に飛んだことか。

獣ならば己の牙と命を武器に戦うだけである。

だが、人間は違う。

如何に殺さず苦痛を与えることが出来るか?

などとふざけた理由で平然と思考回路が活動する。

理論的、道具的、精神的、肉体的、合理的・・・

あらゆる局面を馬鹿丁寧に想定し、結果を出す事に至福の喜びを得る。

人間の有能な一面でもあり、際限の無い欲を生む一面でもある。

求めぬ方向へ向かえば最悪を。

求める方向へ向かえば最善を。

そんな最悪をこの身に受けてきた。

あんな邪悪で凶悪で醜悪なモノと戦えるわけが無い。

昔は毎年のように殺された。

自分は無害だと主張し、人間であると訴え、信じてほしいと懇願した。

しかし、誰もまともに取り合わない。

人前に出て行けば捕まり、殺される。

そんなことを繰り返していた少女は逃げることを必然的に選択していた。

人間の欲望から、痛み、死、希望から逃げることだけを思考に費やした。

その学習能力と生存本能のおかげか、殺される率は減っていった。

長い期間生きることが出来る喜びを感じるわけでもなく、ただ、殺されないだけの生活を続けているのであった。


少女は思った。

まるで夢のようだと。

自分が平凡な少女であった頃に感じた安心感や喜びを感じている。

しかし思考はそこで現実へと戻る。

そう、今のは夢でしかない。

いま、この瞬間にでも人間に見つかれば、捕まり、欲望のはけ口にされ、殺されるのだ。

すでに同じ場所に1日いることになる。

ふぅ、と1つ深い溜め息をついた。

少女は思案する頭を数回振ると身体を起き上がらせた。

毛布からさらけ出された身体が夜の冷たい風を受け、身を振るわせる。

そのお陰で引き締まった。

何処の誰かはわからないが、傷の手当てをし、毛布まで掛けてくれた事に感謝をし、一時でも人間らしい夢を見させてくれたことに感謝をする。

少女は深深と頭を下げて礼をした。

一刻も早く別の場所へ移動しなければ。

少女の思考回路はすでに生存本能の復帰とともに優先順位を切り替えていた。

この先には迷いの森と呼ばれる広大な森林があるはず。

そこに一旦身を隠そう。

暗く冷たい夜の森の中を明かりも持たず、月明かりのみで少女は移動を開始した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ