Mystery
バルディオスのジーグ村でリリスが殺害されて約半年の月日が流れた。
レディンは以前に比べると前線に出る事がめっきり減り、自宅で書物を読みふける毎日を送っていた。
書物の内容は偏った物だった。
そう、リリスについての歴史文献や伝説関連である。
あの日以来。
自らの手でリリスを埋葬した日から、レディンはリリスに関するあらゆる事柄を調べていた。
リリスとは何なのか、一体いつから、何のために、殺されては蘇るのか?
過去にもレディンと同じ疑問をもつ者は少なからず居たようで、リリスに関する逸話は数多く残っていた。
特に光の神が降臨したと言われる年代のものはどれも未確認生物の謎的なゴシップが大半だった。
リリスは山一つを消し去った事がある。
リリスは巨大化できる。
リリスは魔王の花嫁である。
リリスは何百と存在する。
リリスは1万からなる軍隊を一瞬で滅ぼした事がある。
などなど。
おかげで書物に書き残されている内容はどれも同じような事柄ばかりであったが、幾つかの書物には興味を惹かれる記述もあった。
リリスは死ぬ直前までの記憶を有して蘇る。
リリスは超破壊能力を有する。
リリスは不老であり、姿形は変わらない。
リリスは死ぬと、数ヶ月から数年を経て別の土地で蘇る。
どれもリリスという存在に深く関連する事柄だった。
そして数年前に、とある山間部にあった村の長老が、ギルドの依頼の礼として渡してくれた古い賢人の自伝的書物。
それに、レディンが衝撃を受ける一文があった。
『此れだけは記述しておかなければならない。
リリスには両親がおり、生まれ育った村があった。
そして光の神が降臨したのはその村であり、リリスが最初に処刑されたのもこの村だったのだ。』
レディンの背筋に冷たい汗が流れた。
その後も様々な書物を読んだが、同じような内容の記述は無かった。
作者の脚色かもしれない。
使い古された昔話をより面白みに富む様、設定を変更したりすることは良くあること。
だが、レディンに強烈に訴えかけるこの一言が、この書物の信憑性を高める。
”此れだけは記述しておかなければならない”
これがリリスに対して強い思いを込めた一文である事は感じられる。
そう、今レディンが感じている気持ちを作者は感じていたのだ。
リリスは元はただの人間だったのだ。
この日を堺にレディンは人々の前からその姿を消した。