だから
「もう一度尋ねます。」
「だからですか?」
「はい。」
「だから殺しました。」
---
パパとママはいつもけんかしてた。
パパがおこる。
ママもおこる。
ぼくはなぐられる。
いたい。
でも。
みんなそうなんだっておもってた。
くまさんだけは。
ぼくのはなしをきいてくれた。
だから。
くまさんがだいすきだった。
---
ようちえんで。
おともだちをみた。
なぐられてない。
おこられてない。
あれ。
ぼくだけなのかな。
そうおもった。
---
しょうがっこうにはいかなかった。
「学校は汚染されてる。」
ママはそういった。
だからいかなかった。
おうちで。
くまさんとはなした。
それだけが。
たのしかった。
弟が生まれた。
知らないおじさんが家にいた。
あとから。
教祖様なんだと知った。
ママはその人の言うことなら何でも聞いた。
僕も聞いた。
聞くしかなかった。
---
中学生になる頃には、父はいなかった。
新しい女と生きるらしい。
母とは歩めかったのに。
母は笑わなかった。
全部、私のせいだと言った。
「疫病神。」
その言葉だけは、毎日聞いた。
学校へは行かなかった。
代わりに働いた。
工事現場だった。
人手が足りないから。
最初は怖かった。
でも。
「ありがとう。」
「助かった。」
そんな言葉を初めてかけられた。
少しだけ。
ここが好きになった
だけど。
家に帰ると母は言う。
「財布から取ってきなさい。」
私は何度も金を盗んだ。
悪いことだと知っていた。
それでも。
従うしかなかった。
弟の世話も私の仕事だった。
あの子だけは。
普通に育ってほしい。
そう思っていた。
---
高校生になった。
アルバイトを掛け持ちした。
家に金を入れるため。
そして。
初めて友達ができた。
笑った。
遊んだ。
楽しかった。
本当に。
楽しかった。
ある日。
みんなで愚痴を言い合った。
「親が勝手に習い事決めるんだよ。」
「お小遣い一万円しかない。」
みんな笑っていた。
私は笑えなかった。
その日。
初めて知った。
私の人生は。
愚痴にもならないんだと。
----
帰宅すると。
母はまた叫んでいた。
「私は不幸!」
「私はなんでこんな人生なの!」
「全部あんたのせい!」
「疫病神!」
何度も。
何度も。
聞いた言葉だった。
私は。
初めて口を開いた。
「違う。」
母は黙った。
次の瞬間。
聞いたこともない言葉を叫び始めた。
意味は分からなかった。
でも。
もう。
聞きたくなかった。
机の上にあったナイフを握る。
そして。
突き刺した。
---
「もう一度尋ねます。」
「だからですか?」
「はい。」
「だから殺しました。」
「だから。」
普段、何気なく使うこの言葉。
その一言の裏には、どれだけの時間や出来事が積み重なっているのでしょうか。
この作品は、一つの「だから」に至るまでの人生を書きました。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




