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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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9/9

9話

 復讐者となった義紀とクロが戦場を蹴り進むたび、瓦礫が砕け、破片が嵐のように舞い上がる。影の尾はまるで生きた刃。敵の機械兵を絡め取り、引き裂き、骨も肉もない鋼鉄の躯体を色だけ違う血肉のように千切っていく。

 

「終わらせる! お前の仇も、日本の夜も、全部だ」

 

 啖呵(たんか)を切り、叫んだ義紀の声はもう人間ではなかった。怒りが燃え(たぎ)り、"復讐の欲求"が心臓の代わりに全身を動かしているかのようだった。

 

(義紀……こわい……でも……これが正しい……)

(ああ。奪われたものの重さを……そのまま返すんだ)

 

 ふたりの意思が混ざり合い、影が再び交差し複雑に閃く。

 だがそのとき――大地が、(うめ)いた。

 拠点の中心部、壊れた塔の奥深く。暗闇の底から、何か巨大なものが地上へ押し出されるように、(せま)り上がってきた。

 断末魔かと見間違う地響き。敵を待ち追い詰め、殺伐とした金属が軋む不快感。どす黒い感情が溶け合い、空気が飢えた獣のように吸い込まれる。

 そして、邂逅の合図とおぼしき闇が割れた。

 出てきたのは、かつて義紀を踏み潰した“指揮個体”。

 ……ではなかった。

 それは、指揮個体よりさらに禍々しく、異様なまでに膨張した“支配種(通称ドミダリアン)”だった。

 その身体は人間の三倍以上の巨躯へ(へん)じ、無貌(むぼう)の頭部には幾重(いくえ)もの光学孔が蠢く。腕は四本に増え、先端は巨大な刃と化している。背には虫の羽のような膜状機構が開き、内部で脈打つ黒いエネルギーが息づいていた。

 

「……進化個体確認。変異種に対抗すべく……適応進行完了……」

 

 声はもはや単なる機械音ではなく、複数の音声が折り重なったような不快なハーモニーの連続で気味が悪い。

 義紀とクロは影と対峙するため、身構えた。

 

(義紀……あいつ……前より強い……)

(関係ねぇ……ここで終わらせる……!)

 

 支配種はその四本の腕を広げ、瓦礫を撒き散らしながら突進してきた。

 統率された狂気が衝撃となり、世界を震わせる。

 義紀とクロの影の尾が一斉に伸び、支配種の刃とぶつかり、火花が空を照らした。爆発のような衝撃音、金属の悲鳴、影が裂ける音が交錯する。

 両者は互角か。

 いや――お互いが、相手を上回ろうとした瞬間、そのたびに戦場そのものが悲鳴を上げるほど。


「このヤロー、しつこいぞ! 強要すんなよ、正しい判断できないだろうが!」


 影の尾が支配種の胸部に突き刺さるが、黒い膜がそれを弾き返す。

 支配種の刃が義紀の肩を切り裂くが、すぐに影が再生する。

 生き急ぐ拳が支配種の顔面を粉砕するが、内部の構造が即座に形を戻す。

 戦いは終わらなかった。

 永遠に続くかのような拮抗。殺意ある怒り、納得できるはずのない憎悪と敵意は炎のように燃え上がり、夜の闇を紫色に染める。

 

(義紀……このままじゃ……決着がつかないよ……)

(わかってる……だが引けねぇ……!)

 

 支配種が不気味に笑ったように見えた。口がないのに。

 

「気持ち悪いんだよ! へらへら笑うんじゃねぇ!」


 支配種は執拗(しつよう)につけ狙う。四本の刃腕が風を裂き、瓦礫を削り取りながら義紀へ襲いかかる。斬撃は雨のように絶え間なく、一撃ごとに大地がえぐれ、火花が紫の弧を描いた。


「そんな攻撃、効かない!」

 

 だが義紀とクロは怯まない。影の尾がしなり、刃を受け流し、重心を滑らせるように攻撃線をそらしていく。刃と影が触れ合うたび、不協和音のような金属音が周囲に散った。


「危ねぇだろう! やり方がせこいんだよ」

 

 支配種は攻勢を強め、同じ軌道を二度となぞらない高速の斬撃を放つが、義紀の影は一瞬早く軌跡を読み、紙一重で身をずらす。黒い膜に守られた巨体が迫り、刃が頬をかすめる。しかしその刹那、影の尾が渦を巻き、衝撃を斜めへ逃がして受け流す。


「なっ……なら、これなら、どうだ!」


 重圧の連撃が続くほど、義紀とクロの呼吸は研ぎ澄まされ、影はより深く、より鋭く大地を滑った。支配種の攻撃は荒れ狂う嵐のようだったが、そのすべてを正面からではなく、風をいなすように受け流し続けた。


「……戦闘効率……臨界点。双方、損耗甚大。提案……非効率な破壊行為を中断し……種族間調停のため……対決の形式を変更……」

 

 支配種の背部から、黒い触手のようなアンカーが大地に突き刺さる。周囲の機械兵が一斉に静止し、霧のような電磁波が空へ舞い上がる。

 義紀とクロの動きも、一瞬だけ止まった。

 

「……提案。人類代表対、異星種代表のデスマッチ。勝者が本地区の未来を得る」


 突然の饒舌(じょうぜつ)な提案。まったく意味がわからず、意識の中の義紀に尋ねた。

 

(……デスマッチ……?)

(簡単な話だ……勝った方が、この星を取るってことだ)

 

 支配種の巨大な頭部に無数の光が灯る。まるで嘲笑っているかのように。

 

「……拒否は可能。しかし……その場合、人類側の敗北を宣言とみなす……」

 

 義紀の中の血が、煮えくり返る。

 

「いいだろう……!」

 

 義紀の声とクロの電子音が混ざった咆哮が、天空に炸裂する。

 

「その勝負……乗ってやるよ!!」


 無謀な賭け。

 勝手とはわかっていたが、守る者を見出すため、理由が必要だった。落ち着かない心を鎮めよう、と意識を集中するも、もう前しか見えなかった。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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