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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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8/9

8話

 夜の街は崩れたビルの影に沈み、風が砂塵を巻き上げ(ほころ)びる心を沸騰させた。

 そこに立つ存在は、もはや義紀でもクロでもなかった。二つの命が融合し、肉と機械と怨念が絡み合い、怪物へと変じた“復讐者”。

 義紀の姿を残しながらも、その背からは黒い装甲のような影が数本、尾のように伸びて揺れている。一本一本が生き物のように蠢き、触れた鋼鉄を簡単にへし折った。クロの尾に宿っていた蒼い光は、今や全身を包む妖気のように輝いている。

 低く唸る声は、義紀の声とクロの電子音が混ざったような、不気味で、それでいて悲壮な響きを持っていた。

 

(……クロ……行くぞ……)

(……うん、義紀……全部、壊そう……)

 

 ふたつの声がひとつに溶け合い、夜の訪れを知らしめた。

 怪物となった義紀とクロは、瓦礫を蹴り飛ばして駆け出した。まるで大地そのものが押しつぶされたように地面が沈み、破片が宙に弾ける。

 その前方に、指揮個体と同型の戦闘機械が数体、義紀を迎え撃つように展開していた。光学センサーが一斉に赤く点滅し、無機質な声で同時に告げる。

 

「変異体……分類不能。排除対象に追加」

 

 光線が撃ち込まれる。しかしそれは、直撃する前に“影の尾”がすべて絡め取った。尾がしなるたび、鋼鉄の砲身が折れ、機械の腕がねじ切れる。

 火花が咲き、油煙が立ちのぼる。

 義紀の目は暗闇の中で妖しく光り、深い怒りの熱で寄せ付けない領域のようだ。

 

(……クロ、俺はまだ……終わっちゃいない……)

(わかってる……義紀……まだ倒してない……あいつを……)

 

 義紀は腕を振り抜いた。爪のように変形した指先が機械の胴体を貫き、引き裂く。鋼鉄がまるで紙のようにちぎれ、破片が雨のように降り注いだ。

 残りの機械兵が後退しようとしたが、それは逃げではなかった。彼らは一斉に地面へ向けて信号を発し始めた。

 

「指揮個体へ通達。変異体の発生を確認。至急──」

 

 その言葉は最後まで続かなかった。

 影の尾が高速で伸び、一体の首を掴んだまま地面へ叩きつけ、さらに別の一体を引き寄せて衝突させた。衝撃で内部回路が火花を散らし、あっという間に沈黙する。

 残り一体が義紀の背へ向けて刃を突き立てようとする。

 しかし義紀の身体は、振り返りもせず、それを感じ取って尾を一本伸ばし、胴体を締め上げた。

 金属が悲鳴のような音を上げる。

 そして――ひしゃげる。

 静寂が落ちた。だが夜は終わらない。

 怪物となった義紀とクロは、息をひとつだけ吐いた。

 

(義紀……あいつ、いるよ……)

(ああ……わかってる……あそこだ)

 

 クロの感知能力と義紀の本能がひとつになり、遠く瓦礫の山の向こう、“奴”の存在をはっきりと捉えた。

 指揮個体。

 義紀を殺し、友梨を奪い、海斗を奪い、すべてを壊した存在。

 その影が、夜の霧の中で静かに佇んでいた。

 巨大な姿。冷えた金属の刃。無貌の頭部。

 

「……変異体。追跡を感知……新たな脅威と分類」

 

 機械の声が空気を震わせる。

 それを聞いた瞬間、義紀とクロの身体は沸き立った。

 

(クロ……行くぞ)

(うん……“復讐”だよ、義紀)

 

 二つの心が溶け合い、怒りが燃え上がる。

 影の尾が空を裂き、怪物はまっすぐに、静かに、そして暴力的に指揮個体へ向かって走り出した。

 義紀とクロの“復讐者”は、瓦礫を裂きながら指揮個体へと突進した。影の尾が四方へ伸び、空気を切り裂く鋭い音が夜に走る。指揮個体は腕部の刃を展開し、冷徹に迎撃態勢へ移行したが、怪物の速度は計算を超えていた。

 

(まだ足りない……もっと速く……!)

(うん、義紀。壊すんだ。あいつだけは――)

 

 義紀は跳躍し、影の尾の一本を地面へ突き刺して体勢を強引に変え、上から指揮個体へ叩きつけるように降下した。指揮個体は刃を交差させて受け止めるが、衝撃で足元の地面が亀裂を走らせる。火花が散り、金属同士が悲鳴を上げた。

 

「防御……不可能。行動パターン、再計算――」

 

 計算は終わらなかった。義紀の腕が獣のようにねじれ、爪が装甲を抉る。指揮個体は後退し、反撃として胸部から高出力の光線を放つ。しかし影の尾が幾重にも重なり盾のように展開し、眩い光を押し返した。

 

(クロ、今だ!)

(うん……いくよ!)

 

 尾が一斉にしなり、鞭のように打ちつけられる。指揮個体の外殻に深い亀裂が走り、巨体がよろめいた。義紀はその胸部へ拳を叩き込み、機械の内部から低い破砕音が響いた。

 霧が揺れ、夜がさらに暗く沈む。指揮個体ははじめて、わずかに後退した。


「ウリャアアアアア」


 叫び声と共に異種生を引き千切り、赤みを帯びる。


「人様の大事なものを全て奪っておいて、のうのうと生きてんじゃねぇよ!」


 皮肉な響きは終始消えない殴打を繰り返し、嫌悪(けんお)と恨みを怒りで制裁したような。

「余裕なんて、与えない」と意気込み、握った拳には(あわれ)みを弾き返すほど。容易く血の気に満ちた目は、すべてを塗りつぶしてしまう。


「過剰に働きすぎだ! 誰も望まねぇから……さっさと、地に寝そべっとけ――!」


 大きな叫びが衝撃波となり、言い訳や誤魔化しなど絶対にできない道標(みちしるべ)となった。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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