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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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7/8

7話

 煌びやかな閃光が空気を裂く直前、義紀はクロを胸に抱えたまま横へ転がった。衝撃が背中に走り、肺が潰れそうになる。しかしそのおかげで、直撃だけは避けられた。

 直後、義紀の背後で瓦礫の塊が崩れ、金属梁が折れ曲がりながら音を立てて落ちた。崩れた破片が奇跡的に屋根のように積み重なり、狭い空洞を作る。

 

「……ここなら……少しは、安全だ」

 

 義紀はクロをその瓦礫の下へ押し込むようにして守った。穴は小さく湿った土と砂埃の匂いがしたが、敵からは見えない。

 クロは彼の手を弱い光の尾で叩いた。

 

「……義紀……いっちゃ……だめ……」

「大丈夫だ……すぐ戻る。必ず、お前を……」

 

 しかし、その言葉を最後まで紡ぐ余裕はなかった。

 否応なしに巨大な影が降り立つ。

 指揮個体。その無貌の頭部が義紀を見下ろし、光学センサーが冷たい点滅を刻む。

 

「人類、残存率……一・四%。抵抗、無意味」

 

 その声は、死を告げる鐘のように乾いていた。

 義紀は口内に溜まった血を吐き捨て、立ち上がる。脚は震え、視界は歪み、胸は焼けるように痛んだ。それでも叫ぶのは止めなかった。

 

「無意味なんかじゃない! お前らに……友梨を……海斗を……家族を殺された!」

「情動反応、最大値。攻撃予測パターン──固定」

 

 義紀は瓦礫の間に落ちていた爆薬を掴み、よろめきながら駆け出した。体はもはや限界を超えていた。それでも腕を振りかざし、真っ直ぐに化け物へ向かっていく。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

 叫びが夜空を駆ける。

 しかし、指揮個体の動きは義紀の焦燥に比べてあまりに滑らかで、あまりに機械的な作業に近かった。

 

「排除」

 

 その一言と同時に、指揮個体の腕が義紀の胸を突き破った。

 飛び出た鮮血が夜気に散る。

 力が抜けた手は爆薬を取り落とし、ぐらりとその場に崩れ落ちた。

 微かな視界の端で瓦礫の隙間が揺れている。クロが、地を這いずり必死に身体を動かしていた。

 

「……クロ……動くな……お前は生きろ……」

 

 義紀は最後の力で、瓦礫のほうへ手を伸ばす。

 

「……守れなくて、ごめんな……」

 

 視界がどんどん暗転していく。冷たい風の感触も、痛みも、遠のいていく。

 そして――抵抗虚しく地面に倒れ、そのまま動かなくなった。

 血の匂いが風に混ざる。

 指揮個体は義紀の体を一瞥(いちべつ)すると、興味を失い冷ややかな一撃をお見舞いした。

 

「主標的、排除完了。次行動へ移行」


 その頭を異形の足が踏みつけた。眼球が潰れ、視界が血に染まる。

 無機質な足音が去っていく。

 瓦礫の下。狭い空間に、弱い青の光が震えていた。

 クロが義紀の亡骸をじっと見つめていた。

 身体の内部で、脈のような電子反応が波打ち始める。クロの瞳の奥で、繰り返される言葉と叫びと、最後の想いが再生されていく。

 

「復讐……果たせ……」


 意識が遠のく刹那、義紀の脳裏に景色が崩れるように思い出が流れ込んでくる。幼い頃、父に肩車されて見た初めての花火。暗闇を彩る光を見て「世界はこんなにも明るいんだ」と笑った少年の記憶。友梨と海斗と過ごした放課後、壊れたドローンを修理しながら、未来の話を語り合った机の温もり。雨の日、傘の下で震えていた小さなクロを抱き上げた瞬間の、驚くほど柔らかな体温。眠る生命の鼓動を聞きながら、自分は守られる側ではなく、守る側に立つのだと気づいた夜。

 

「平和であれば、そんな嘘みたいな話があったかもしれない」

 

 理想を抱いた世界が灰色に崩れ、人々が消えていっても、その記憶だけは色を失わなかった。笑い声、泣き声、温かな灯り、柔らかな毛並み。武器も装甲も持たない、ただ静かな幸福。誰かのために手を伸ばし、抱きしめ、守りたいと思った、確かな願い。

 痛みが薄れ、風が遠ざかる。最後に義紀は、瓦礫の下で震える青い光を見た。――ああ、生きろ。クロ。俺の代わりに、この願いを、生かしてくれ。

 でも、どこか諦めきれない"復讐心"が(たぎ)る。


「……家族を殺された。

 無意味なんかじゃない!

 クロ、離れないでくれ……!」

 

 義紀が死の間際に抱いた、燃え上がるような憎悪、悲しみ、強い祈り。

 それらが、クロの機械脳の深層に刻み込まれていく。

 呼応するかのように尾が、弱々しい光ではなく、深い蒼炎のような光を帯びた。

 

「……復讐……」

 

 その声は、かつての猫の鳴き声でも、翻訳機のゆっくりした電子音でもなかった。

 クロの内部で、何かが"覚醒"する。

 

「……義紀……の……心……を感じる」

 

 瓦礫を押しのけるように、クロが這い出した。

 四肢は傷つき、装甲は剥がれ、満身創痍――ボロボロだった。

 だがその瞳だけは、まるで義紀の後悔を炎と変えたかのように強く燃えていた。

 ただ一つの目的だけが、クロの中で明確に形を取る。

 

「……倒す。指揮個体……必ず、いや、すべてを」

 

 クロは、小さな体で夜闇を蹴り、横たわる亡骸の方へ一度振り返ると、深く、静かに頭を垂れた。

 

「義紀……君に命をあげる、だから、一緒に行こうよ」

 

 そして――

 青い光を尾にまとい、彼の血と肉が取り込まれていく。

 クロと義紀の心を継いだ、復讐者として。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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