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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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21話 故郷へ やや張り詰めた 迷路門

 裂け目の底へ続く急斜面を降りながら、やや張り詰めた面持(おもも)ちの義紀は息を整えた。

 空気はさらに重く湿り、喉の奥に鉄の味がまとわりつく。

 

「御角……気を抜くなよ。下から、何か……呼吸してる気配がする」

「俺も感じる。ここから先は、異星種が“作った”空間だ」

 

 作った――その言葉に義紀の眉が跳ねた。

 

「大地を食い破って、迷路みたいな巣を作るのか?」

「違う。これは“掘った”んじゃない」

 

 御角はライトを下へ向けた。

 地面の岩層は、まるで巨大な爪で削られたのではなく、溶かされ、流体が固まったように滑らかだった。

 

「……溶けてる?」

「生物じゃなく、“エネルギー波”で焼かれた跡だ」

「エネルギー……?」

「お前の胸の火と同じ種類の波長だ。

 この通路そのものが、“あの青黒いエネルギー”で作られてる」

 

 義紀の胸の奥が、じり、と熱を持った。

 まるで通路自体が、彼の存在を感知して刺激を返しているようだ。


 

 裂け目の底にたどり着くと、そこには洞窟のような“口”が広がっていた。

 幅五メートル程のアーチ状。

 内部は真っ暗で、風ひとつない。

 

「ここが……地下通路か」

「正確には“導層(カタルシス)”と呼ぶべきだな。異星種の動線……いや、もっと根本的な何かだ」

 

 御角は慎重に一歩踏み入れる。

 義紀も続く。

 内部は静寂そのものだった。

 だが、壁には脈動する青黒い筋が流れ、時折“ドクン……”と低いうねりを発した。

 

「…………気持ち悪い」

「正常な反応だ。

 これは生物じゃない。“地球のものじゃない構造体”だ」

 

 御角は検知器をかざすが、針はぐるぐると回って止まらない。

 

「どういうことだ?」

「反応が……多すぎる。ここは単なる通路じゃない」

 

 義紀の背筋に冷たいものが滴り落ちる。

 

「御角、何か知ってるだろ」

「……推測の域は出ないがな」

 

 御角は壁に手を触れた。

 脈動が、その手に吸い付くように集まる。

 

「異星種は、どこから来たのか――その問いに対する“可能性の一つ”だ」

 

 義紀は息を呑む。

 

「まさか……地球の中から来た、なんて言うなよ」

「いいや。むしろ逆だ」

 

 御角はゆっくりと義紀を見る。

 

「異星種は――地下を“経由して”来ているだけだ」

「経由……?」

「この通路は、“向こう側”とつながっている」

 

 向こう側――その言葉が胸の火を揺らす。

 

「異星……いや、異空間か?」

「断言はできないが……“座標を持たない場所”だ」


 通路の奥へ進むと、地面に奇妙な模様が広がり始めた。

 円、線、そして幾何学的な溝。

 

「……文字?」

「パターンだ。生体信号を増幅するための」

 

 義紀は足元を見る。

 溝の奥が脈動し、青黒い光がわずかに流れている。

 

「これ、まるで……生き物みてぇだな」

「生き物じゃなく、“機能”だ」

 

 御角は光る溝を一つ指した。

 

「ここを見ろ。

 この形状は、俺たちが使う“空間識別マーカー”に似ている」

「空間識別……?」

「座標のない場所を結ぶための技術だ。本来は軍が研究していたものだが……」

 

 御角の声が止まる。

 

「研究は、途中で凍結された。

 “地球では扱えないエネルギー”だったからだ」

 

 義紀は壁に耳を当てる。

 低い振動が続き、それは鼓動にも似ていた。

 

(ここは……地球の体内じゃない……)

 

 奥に進むほど、空気が軽くなる。

 重力すら、僅かに変化しているように感じる。

 

「御角。ここ……何か、おかしいぞ」

「感じるか。そうだ、この通路は――」

 

 御角は周囲を見渡し、言い切った。

 

「“地球の物理法則”が弱くなる場所だ」

「……っ!?」


 胸の違和感を覚え、通路の奥で“光が揺れた”。

 青黒い火ではない。

 もっと硬質で、白く鋭い光。

 

「御角……!」

「物質反応だ! 隠れろ!」

 

 二人は壁の影に飛び込む。

 光が近づく。

 カツン……カツン……と金属の足音を響かせながら。

 そして姿を現した。

 ――細長い人型。

 全身が、黒い外骨格のような“装甲”。

 異星種特有の肉感はなく、むしろ機械のようななめらかさ。

 だが、顔の位置にあるのは“空洞”。

 

「……あれ、なんだ?」

「初めて見る……。少なくとも“地潜種”じゃない」

 

 人型の異星種は、壁の溝に触れた。

 その支配域が、通路全体に青黒い光を走らせる。

 ――ドクン。

 義紀の胸が応じるように波打った。

 

「おい……なんか反応してんぞ……!」

「ひええ……マジか……!」

 

 人型の異星種が、ゆっくりとこちらを振り返る。

 顔の空洞の奥。

 そこには――

 星空のような“奥行き”があった。

 

「な……んだよ……あれ……」

「別位相の空間を内部に持ってる……? そんなバケモンが……」

 

 次の瞬間、人型の異星種は一歩踏み出した。

 その動きは静かだが、空間がわずかに歪む。

 

「バレてる……!?」

「そんなはず……いや、“義紀にだけ反応してる”可能性が――」

 同時に、義紀の胸の火が、(とどろ)いた。

 青黒い光が義紀の体表を駆け巡り、影が尾のように伸びる。

 

「っ……! 勝手に……!」

「来るぞ義紀!! 避けろ!!」

 

 人型異星種が腕を振る。

 空間が裂け、黒い刃が走った。

 義紀は跳び退くが、刃は岩壁を紙のように切り裂く。

 

(こいつ……地潜種とかの次元じゃねぇ……!)

「御角!! こいつ、何者だ!!」

「わからん!! だが――」

 

 御角は震える声で言った。

 

「“異星種が生まれる場所”じゃなく、

 “送り出す側”のモデル個体……!」

「送り出す側……?」

「つまり――」

 

 白い光を放つ“人型”が、青黒い通路を照らした。

 

「異星種の“本来の領域”から来た個体だ!!」


 義紀は影を構え直し、にらみつける。

 

(ここは……通路なんかじゃねぇ……)

 

 胸の火が、静かに、しかし確実に理解を告げていた。

 ――ここは、“あちら側”の力が漏れ込む境界。

 異星種の巣ではなく、

 異星種そのものの故郷へつながる“門”だ。

 人型異星種の奥行きのある空洞が、義紀をじっと見据える。

 その奥には、無数の光点――星のような、世界のような。

 

(俺の力も……そこから来た……?)

 

 義紀は拳を握った。

 

「御角……」

「……わかってる。逃げ場はない」

 

 人型異星種が足を踏み出す。

 通路全体が震える。

 御角は叫んだ。

 

「義紀!! こいつを倒せ!!

 ここを突破しない限り、“本当の答え”にはたどり着けない!!」

 

「……ああ。上等だ」

 

 義紀の影が、完全に目覚めた。

 青黒い火が爆ぜる。

 地球ではない場所へ通じる“門”。

 その番人との戦いが――今始まる。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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