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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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20/21

20話 地中の 不吉な夜明け 地下深く

 ゆらり、また不吉な夜明けは静かに訪れた。

 空の端が淡い金色へと変わる頃、御角は荷物をまとめ終え、義紀に声をかけた。

 

「行くぞ、義紀。裂け目までは二時間の行程だ」

「ああ、準備できてる」

 

 義紀は裂け目に向かう道のりを思い、胸の奥がざわつくのを感じていた。

 昨日聞いた“地中に続く通路”という言葉が頭から離れない。

 

(異星種は、本当に地下深くから……?

 俺の力が、その入り口を探せるって言うなら……)

 

 青黒い火が、微かに胸で揺れた。

 御角はそれをじっと見たが、何も言わず荷物を背負い直した。

 

「行こう」

「……おう」

 

 安全圏を抜けると、森は再び湿った土と濃い緑の匂いに満たされていた。

 鳥の鳴き声は少なく、代わりにざわりと揺れる木々の音が、不穏なリズムとなって続く。

 

「異星種の気配は?」

「まだ薄い。中央部に近づくほど濃くなるだろうな」

 

 御角はコンパス型の検知器を見て、険しい表情を作った。

 針は、まるで焦っているかのように震え続けていた。

 

「支配種の反応も……昨日より強くなってる。急がねば」

 

 義紀は無言で頷いた。

 友梨の顔がふっと浮かび、胸の火が静かに灯る。

 

(進むしかねぇ。全部終わらせるために)


 

 深い森を一時間ほど歩いたときだった。

 足元の土が、突然変わったのに気づく。

 

「……御角。ここ、地面が……」

 

 踏みしめた土が、まるで異質な粘土のように柔らかい。

 根がない。石もない。

 ただ、深い層から押し上げられた何かが固まったような滑らかさ。

 御角はしゃがみ込み、指で触れた。

 

「やっぱりな……。ここから“地中侵食”が始まってる」

 

 土を掴むと、内部は黒い。

 

「黒土……?」と義紀。

「ああ。大陸で見たことがある。異星種が大量に湧いた土地の特徴だ。地表の土が、地下の何かと混ざって変質している」

 

 御角は険しい顔で立ち上がった。

 

「裂け目は近い。気を引き締めろ」


 そして――森が急に終わった。

 そこは、まるで大地ごと裂かれたような巨大な溝だった。

 幅は十五メートル、深さは見えない。

 底からは、青黒い光がゆっくりと胎動している。

 

「これが……裂け目……」

 

 義紀は無意識に拳を握った。

 胸の火と、裂け目の光が同じ色であることに気づいた瞬間、心臓が早鐘を打つ。

 

「御角……俺の力と同じ色だ」

「気づいたか。これが、俺が“お前が必要だ”と言った理由だ」

 

 御角は端末を操作しながら裂け目に近づく。

 

「裂け目の底には、層状の“エネルギー波”が観測されてる。お前の胸のエネルギー――青黒い波長と一致する。

 つまり、ここは“異星種が通るための回廊”になってる」

 

 義紀はゆっくりと膝を折り、地表に手を置いた。

 そのとき、微弱な振動が伝わる。

 心臓の鼓動と重なり、不快なほどリズムが合う。

 

「……気持ち悪……」

「お前には“感じる”はずだ。異星種が通った余波。

 おそらく――」

 

 高鳴る気持ちを抑える御角は、裂け目の奥を見つめる。

 

「ここから、地中深くへ続いている」


 御角はロープを取り出し、不安定な岩肌に固定した。

 

「降りるぞ。深さは五十メートルほどだ」

「崩れたりしねぇのか?」

「崩れたら俺たちは終わりだ。慎重にな」

 

 義紀は了承するも、慎重にロープに手をかけた。

 降下を始めると、岩の温度が徐々に下がっていくのがわかった。

 十メートル。二十メートル。

 さえずる空気は湿り、金属が錆びたような匂いへと変わっていく。

 

「匂い……変じゃねぇか?」

「変だ。大陸で見た“地潜種の巣”と同じ匂いだ。

 つまり、ここには――」

 

 御角の声が途切れた。

 腹立たしく、義紀もそれを感じる。

 ――何かが、動いている。

 ガリ……ガリ、ガリガリ……

 岩を爪で削るような音。

 断続的だが、確実に近づいてくる。

 

「御角……!」

「気づかれたか。ロープを離せ! 跳び降りるぞ!」

「マジか!?」

「死にたくなければな!」

 

 二人は同時にロープを放し、下の突き出た石面へ飛び移る。

 おもわず、落下の衝撃が膝に響く。

 次の瞬間、彼らが降りていた岩肌が――内側から、爆ぜた。

 ゴシャァッ!!

 岩を破って姿を見せたのは、黒い甲殻に覆われた巨大な異星種だった。

 体長は四メートルほど、蠍と蜘蛛を合わせたような異形。

 

「地潜種……!」

「やっぱり湧いてたか!」

 

 地潜種は甲高い金属音のような鳴き声を上げ、こちらへ向かって移動を始める。

 動きは早くないが、その巨体が狭い裂け目の中では脅威となる。

 御角が叫ぶ。

 

「義紀、やれるか!」

「……ああ。もう分かってる!」

 

 義紀は胸の奥に意識を集中させた。

 青黒い火が、一瞬で熱を帯びる。

 

(来い……!)

 

 号令、統率がとれた地潜種が一斉に跳びかかる。

 義紀の影が揺れ、尾のように伸び――

 甲殻の隙間へ鋭い一撃を突き刺した。

 グギャアアッ!!

 地潜種は痙攣し、内側から黒い液体を噴き出した。

 動きが止まり、崩れ落ちる。

 

「……はぁ、はぁ……」

「見事だ。やはりお前の力は、地中由来の異星種に強い反応を示す」

 

 御角は死骸に近づき、慎重に観察する。

 

「見ろ、義紀。脚の関節……“摩耗”してない」

「摩耗……?」

「ああ。こいつは長距離を移動していない。

 つまり、この島の“すぐ下”に巣がある」

 

 御角は端末を取り出し、地潜種の死骸にかざした。

 すると、端末の画面に奇妙な波形が現れる。

 

「やはり……“下層信号”が強い」

「下層信号……?」

「奴らのネットワークだ。地中を走る“導線”のようなもの。

 ここはその導線に、ほぼ直結している」

 

 義紀は裂け目のさらに深い暗闇を見下ろした。

 

「……じゃあ、異星種はこの島の地下で何してんだ?」

「それを探るために、裂け目の底まで行くんだ」

 

 御角はロープを回収し、別の降下ルートを探し始めた。

 一連の動作、義紀にも緊張が走る。

 

(この下に……異星種の“通路”がある……?

 俺の力が反応する場所……?)

 

 胸の火がゆらりと手招き。

 まるで“呼ばれている”かのように。


「行くぞ。ここからは慎重に……異星種の巣が近い」

「……御角」

「なんだ」

「もし本当に通路があって……

 その先に“何か”があるなら――」

 

 義紀は、暗闇の底を見つめた。

 

「全部、暴いてやる」

 

 御角は短く笑った。

 

「その意気だ。ここからが謎解きの本番だ」

 

 何事もなく願ってやまない混沌への裂け目は、まどろみと真の姿を隠す巨大な入口のように口を開けていた。

 異星種の起源へと続く通路――その最初の階段を、義紀と御角は今、降り始める。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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