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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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19/21

19話 起源かな 誘われるまま 頻繁に

 誘われるまま森の奥へ踏み込むにつれ、潮風は薄れていき、代わりに湿った土と植物の匂いが濃くなった。

 義紀は治りつつある足を引きずりながらも、御角の背中を見失わないよう必死に歩く。月光は枝葉の間を縫うように落ち、白と黒のまだら模様を林道に描き続けた。

 

「……もうすぐだ。安全圏は、この島の北側にある高台だ」

 

 御角は小声で告げ、手の中の端末を時折確認している。

 針は頻繁に震え、赤い方向――島の中央部を示していた。支配種の反応は依然として弱いものの、確かにそこに存在する。

 

「安全圏って、本当に大丈夫なのか?」

「“人間にとって”はな。異星種にとっても安全とは限らない。奴らは一定の領域には踏み込まない習性がある。それを利用してる」

 

 意味深な言い方に、義紀は眉をひそめた。

 

「その習性って……なんでそんなもんがあるんだよ」

「それを探るのが、俺たちの仕事になるかもしれん」

 

 突然、枝が折れる音がした。

 義紀は即座に身構えたが、出てきたのは小動物――太ったイタチのような影だった。

 森の生態は壊滅していないらしい。むしろ、異星種がこの島に完全に根を下ろしていない証かもしれない。

 坂を登り、(つた)の絡まった大岩を越えると、風景が開けた。

 灰色の岩肌が丸く盛り上がり、中央に大きな空洞がある――まるで天然の野営地のようだ。いや、そこだけ植物が生えていない。

 

「ここが安全圏だ」

 

 御角が壁面に手を当てると、岩肌が低く震えた。

 義紀がぎょっと目を見開く。

 

「おい……生きてるのか、これ……?」

「いや。超低周波を発してるだけだ。異星種は、ある振動数を極端に嫌う。だからここには近づけない」

(異星種の弱点……そんなのがあるのか)

 

 中に入ると、岩陰には古びた装備や乾パン、薬品の箱など、以前の隊員が残した補給物資が並んでいた。

 おそらくここでしばらくの間、生存していた者がいたのだろう。

 御角は荷物を確認しながら言った。

 

「……義紀。異星種がどこから来たか、知ってるか?」

「空から、じゃないのか? “空裂”から落ちてきてるって……」

「それだけなら、俺もこんな危険な場所まで来ない」

 

 御角は端末を岩に置き、マップを展開した。

 島の中央――赤い点がゆっくりと脈動している。

 

「まず大前提だ。異星種は二種類いる。“上から来たもの”と“下から湧いたもの”だ」

「下……? 地面の下からってことか?」

「そうだ」

 

 義紀は首を傾げたが、御角は続けた。

 

「大陸側での戦いでも、地中から出てくる固体がいた。それを“地潜種(ちせんしゅ)”と呼んでいたが……現場の兵の間じゃ“地獄虫”って呼ばれてた」

「……聞いたことねぇぞ。そんな分類」

「公表されてない。研究班と一部の隊以外にはな」

 

 御角は、焚き火代わりに小型ランタンを灯し、青白い光の中で義紀を見た。

 

「異星種は空裂から“落ちてきた”とされてるが……それは半分しか正しくない。俺たちは、地中から湧くタイプの異星種の割合が年々増えてることを確認してた。

 つまり――“地球の内部にまで侵食してる”」

 

 義紀の喉が乾いた。

 

「内部……? 核心部にまで?」

「断定はできない。だが深層で何かが起きてるのは確かだ」

 

 御角は、岩陰から折り畳まれた地質図を引っ張り出し、地形線を指差した。

 

「この島の中央部にある“裂け目”。

 あそこは、空裂でできた傷じゃない。地盤の下から“押し上げられて”生まれた地形だ。つまり――下からの圧力で開いた穴だ」

「……下から?」

「そうだ。俺たちの推測では、“異星種は地球内部を利用して移動している”」

 

 義紀は息を呑む。

 それはつまり、異星種が宇宙から来た存在だけではなく――

「地球そのものを“通路化”してる……?」

「俺たち研究部隊の見立てだ。空裂はその通路の出口でしかない。だが本当の侵入点は、もっと深い場所にある」

 

 御角の指がマップの中心を叩く。

 

「この島は、その“通路”の一部なんだ」

 ――と言った(つか)の間の静寂。

 ランタンの光だけが、岩肌を淡く照らした。

 義紀はゆっくりと膝に手を置いた。

 

「……じゃあ、支配種は?」

「支配種は“空から来たもの”。上層の司令塔だ。下層の異星種を制御している、ある種の“リンクノード”だと考えられる」

「リンク……ノード……」

「お前が東京で倒したあれは、地表に現れたノードの一つだった。だが、こっちにももう一つある。

 しかも……この島のやつは、まだ“完全に起動していない”」

「起動……?」

「時間をかけて周囲の地質と融合し、“地中ネットワーク”に接続しようとしているんだろう」

 

 義紀は考えごとを巡らせ、頭を抱えた。

 

(異星種は空と地中、両方のルートで来ていた……?

 そんなの、どうやって防ぐんだよ……)

 

 だが、胸の奥で青黒い火が微かにゆらめいた。

 恐怖や絶望ではなく、違和感だ。

 

「……御角。なんで俺の力が必要なんだ?

 俺の中の“青黒いエネルギー”が、どう関係してる?」

 

 御角はしばらく黙った。

 視線は、義紀の胸――内部の光を透かすようだった。

 

「お前のエネルギーは……異星種の“中枢信号”と近い周波数を持ってる。

 つまり――“通路を逆探知できる唯一の人間”なんだよ」

 

 義紀の心臓が一段と強く跳ねた。

 

「俺が……通路を……?」

「そうだ。異星種の来た道を、逆に辿ることができる可能性がある。

 そしてその結果、奴らの“本当の起源”にも近づける」

 

 御角はランタン越しに義紀を見据えた。

 

「謎解きの第一歩は、“通路の入り口”を見つけることだ。

 島の中央部――裂け目の底にあるはずだ」

 

 目的を見据え、義紀は拳を握りしめた。

 

「明日の夜明けに向かうんだな?」

「……ああ。ただし――」

 

 御角は目を細めた。

 

「裂け目の周辺には、“上から来たもの”も“下から湧いたもの”も集まる。

 つまり、ここからが本当の戦場だ」

 

 岩壁を叩く風の音が、ひゅう、と静かに鳴った。

 それは、海の音とも戦場の風ともつかない、不吉な響きを帯びていた。

 義紀は岩壁にもたれかかり、目を閉じる。

 友梨の顔が、ふっと浮かんだ。

 

(待ってろよ……必ず戻る。

 戻るために……俺はここで真実を掴まなきゃいけない)

 

 青黒い火が、静かに、だが芯を強く燃え上がらせる。

 

「義紀」

 

 御角が言った。

 

「今日から、ここが俺たちの“拠点”だ。

 異星種の起源――謎解きの最初の扉を、必ず明日開ける」

「ああ……行こう。どんな地獄でも」

 

 夜が深まり、風が海の匂いを連れてくる。

 こうして義紀は、市原御角と共に――異星種の“本当の侵入経路”を探る戦いへ足を踏み出すことになった。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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