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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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17/21

17話 落ちている 鮮明な傷 仲間たち

 沖縄本島上空。

 深夜にもかかわらず、重々しい雰囲気を残しつつも、空は黒に染まっていなかった。

 ――なんだか、赤い。

 視覚に入る雲が、街が、海岸線までもが、手招きや歓迎し不気味な赤黒い光に照らされていた。

 まるで巨大な焚き火の煙に空全体が包まれているよう。

 

「……なんだよこれ」

 

 義紀はヘリの小窓に額を寄せ、ゆっくりと息を呑んだ。

 沖縄は、本来なら夜でも暖かく、街灯の点々と続く穏やかな島のはずだ。

 しかし、眼下に広がる光景は――どの戦場よりも異常、異質だった。

 石造(いしづくり)の建物すら燃える惨状。

 古風や伝統ある遺産が無惨に崩れた建物群。

 そしてその間を“何か”が徘徊しながら歩き回っている。

 

「……見えるかい。あれが沖縄の現状だ」

 

 隣で若い隊員が唸るように言った。

 ヘリの内部には、いつもの余裕など欠片もない緊張が満ちている。

 点々と動き回る小さな影――それは、気持ち悪く人間ではなかった。

 一体だけならまだしも、数十、数百という群れで探りうろついている。

 

「異星種……の、子供……か?」

 

 義紀の呟きに、操縦席から通信が返ってきた。

 

小型歩行種ミニオンと分類されている。支配種の近くで“生まれる”個体で、繁殖速度が異常に早い。現地部隊はこれに手を焼いて壊滅した」

「……生まれる、だと?」

 

 義紀の眉がひきつる。

 支配種が現れると、空間が歪み、裂け目から放射状に“影”のようなモノが溢れ出てくる。

 東京で戦ったあのときもそうだった。

 だが、沖縄は――その比でなく桁が違う。

 

「おい、なんだ? 震えてるのか?」

 

 隊員が横目で力強い目をした義紀に問う。

 

「……別に、怖くねぇよ」

「じゃあ何だ?」

「ムカついてんだよ……。あいつら……住んでた人たちを……こんな……」

 

 握りしめた拳から、爪が肉に食い込む。

 胸の奥が熱いのか寒いのかわからない、ただ許せない感情が義紀を突き動かそうと。

 クロの気配はもうない。

 だが、血の奥底に巣食う青黒い火が、"じゅ"……と燃え立った気がした。

 

(……全部、俺がぶっ潰す)

 

 そのときだった。

 ――ピピッ

 操縦席のアラートが鋭く鳴り、赤ランプが点滅した。

 

「……反応あり! 上空から高速接近物体!」

「なんだ!? ミサイルか!?」

「違う……熱量が低い……これは――」

 

 操縦士が言葉を飲み込んだ瞬間。

 窓の外が、淡い光で満たされた。

 

「……上だ!」

 

 隊員の叫びと同時に、義紀は条件反射で天井のハッチを仰いだ。

 そこに――

 “ひび割れた夜空”があった。

 黒い裂け目から、赤黒い光がほとばしり、その中心に、無数の虫のような影が渦巻いていた。

 

「嘘だろ……!? 空が割れて――」

 

 次の瞬間。

 ――ブシュウウウウウッ!!

 真上から赤黒い“光の雨”が降り注いだ。

 

「伏せろッ!!」

 

 緊迫する現場――隊員が義紀を押し倒した。

 だが、その声が届くより早く、機体が激しく揺れた。

 ――直撃。

 外殻(がいかく)が焼け焦げる匂いが一気に流れ込み、操縦席が赤い閃光に包まれる。

 

「機体制御不能! 落ちます!!」

「クソッ、緊急着陸しろ!!」

「無理です! 推進系が――」

 

 操作がいうことを聞かない。

 遅れて迫る爆音と衝撃。

 機体全体がねじ曲がるような悲鳴を上げる。

 義紀の全身がシートに叩きつけられ、視界が白く弾けた。

 

「しっかり、しがみつけ!!」

 

 どこかで、誰かの叫びが遠くで聞こえる。

 しかし義紀の耳には、別の音が響いていた。

 ――ギギ……ギギギ……ギシャアアア……

 ヘリの外側を何かが這っている。

 小型異星種が、群れで機体を噛み破ろうとしていた。

 擦り切れる金属音、断絶を呼ぶひび割れ、そして――慌ただしく爆裂。

 激流の口が空いたかと見間違え、機体後部が吹き飛んだ。

 厚かましい配慮などない赤黒い閃光が、義紀の顔を焼くように照らす。

 火の粉が舞い、流星群のように燃えた部品が空間を跳ねる。

 

「う、おおおおおっ!!」

 

 義紀は咄嗟に体をひねり、落下する破片から身を守ろうとした。

 だが――ヘリはもう、空を飛ぶものではなかった。

 ただ、落ちるだけの鉄の塊。

 真っ逆さまとなり大地へ向かう瞬間、義紀の視界は赤く染まった。

 その赤の奥に――復讐心が。

 クロの残した青黒い火が、一瞬だけ、強く揺らめいた。

 そして、世界が爆音と共に断ち切られた――沖縄上空。


 落ちている――そう理解するより先に、体が重力に引き裂かれていく感覚があった。

 死ぬのか、と考える暇はなかった。ただ、腹の奥で煮え(たぎ)るものだけが、やけに鮮明だった。

 怖くはない。逃げたいとも思わない。

 仲間たち、家族を助けられず――奪われた。

 街も、人も、穏やかな夜も。

 それを思った瞬間、怒りが痛みに変わり、痛みが熱へと変わる。

 クロはいない。それでも、確かにここにある。

 血の奥で(くすぶ)る青黒い火が、落下の中で息を吹き返す。

 終わりでいいはずがない。

 こんな場所で、こんな形で、終われるはずがない。

 歯を食いしばり、義紀は心の底で誓った。

 友梨を守るため、何より脅威を根絶やす――生きて、地に立ち、必ず"この手"で叩き潰す。

 爆音が迫る中、その決意だけが、重力に逆らって彼を支えていた。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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