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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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15/21

15話 助けたい 大事な心 誰よりも

 イタズラに疑問視が増える義紀が、胸の奥で噛み締めた温もりは、確かな希望そのものだった。

 しかし、そのわずかな安堵を断ち切るように――病室の外から、重い足音が響いた。

 

「おい菜乃花、そろそろ代われ。俺の番だ」

 

 横柄、低く太い声と共に、ドアが再び開く。

 入ってきたのは、肩幅の広い壮年の男。

 濃い髭をたくわえ、制服の袖口は擦り切れ、胸元には幾つもの従軍章が揺れている。

 正面に立つだけで圧を感じる“現場の獣”のような男だ。

 

「紹介する。俺の上司だ」

 

 菜乃花が一歩退いて言う。

 髭の男は腕を組み、義紀を見下ろした。

 

「陸上自衛隊 北海道方面隊 特殊警備群 隊長――酒巻(さかまき) (ごう)だ。よろしくな、坊主」

「……坊主じゃねぇよ。義紀だ」

「反抗的だな。まあ、目ぇ覚ました直後に知らねぇ軍人二人に囲まれりゃ、そうもなるか」

 

 酒巻は椅子を“ギッ”と大きな音を立てて引き寄せ、無遠慮に腰を下ろした。

 菜乃花とはまるで違う種類の威圧感。

 あまりの尊大さに、義紀は無意識に喉を鳴らした。

 

「で、聞いたか? 例の少女――友梨って子のこと」

「ああ……生きてるんだろ。すぐ会わせてくれ」

 

 即答した義紀に、酒巻は首を横に振った。

 

「無理だ」

 

 冷たく、重く、否定の言葉。

 その言葉だけで病室の空気が引き締まった。

 

「なんでだよ……! 友梨は俺の――」

「絶対安静だ。医療班が死ぬ気で繋ぎ止めてる。お前が今行ったところで、意識が戻るどころか、刺激で状態が悪化する可能性すらある」

「……そんなわけないだろ。俺が何をしたって、悪くなるわけ――」

「あるんだよ」

 

 酒巻の一喝は、病室の壁が震えたように感じるほど強かった。

 

「生きてるのは奇跡だ。あの戦場であの距離にいて、かすり傷どころか半壊だぞ? よく持ったほうだ。俺らも驚いてるくらいだ」

「…………」

「だからな、会わせねぇ。少なくとも、今は絶対にだ」

 

 身震い、そして義紀は拳を握った。

 しかし、怒りの矛先を向けることができない。

 友梨の命のためだと言われては、言い返す言葉が喉に詰まる。

 それでも、胸の奥の焦燥は抑えきれなかった。

 

「じゃあ……どうすればいいんだよ」

「そう来ると思った」

 

 酒巻はポケットから一枚のデータ端末を取り出す。

 タップすると、複数の映像が再生された。

 各地で倒れている支配種の残骸、空に走る異常な裂け目、そして――“玄屍鬼”が戦っている映像も、一瞬だけ切り替わった。

 

「これ……俺……?」

「ああ。あの日、十数ヵ所同時に起きた異常を止めた“最後の一体”だ。お前はあの怪物の中にいたんだろうが、その力はまだ完全に消えちゃいねぇ――そうだろ?」

 

 義紀の背中に、冷たい汗が流れる。

 

(クロの力が……まだ……?)

「だからだ。坊主」

 

 酒巻の声は、さっきとは違った意味で重かった。

 

「――俺たちに協力しろ」

「……は?」

「友梨を治してほしいんだろ」

「……っ!」

「あの子を生かすには、特殊医療班の判断が必須だ。だが今、北海道は壊滅寸前だ。生存者の救助も山積みで、人手も設備も足りねぇ」

 

 酒巻は義紀の目の前に端末を置き、はっきりと言った。

 

「お前の体内に残っている“あのエネルギー”を調べる必要がある。人類側の研究が進めば、怪我も病気も治療できるようになる可能性がある」

「でも、それって――」

「わかってる。危険な話だ。お前自身に負荷もかかるだろう」

 酒巻は深く息を吸い、義紀の正面に視線を合わせた。

「だがな――」

 

 その瞳は嘘を申しているわけでない。一目でわかるように簡潔に、でも淡々と事務作業をしているようだった。

 

「お前が協力してくれれば、友梨の治療態勢を最優先で整える。会うのも、意識が戻れば許可する。約束する」

「…………」

「その代わり、黙って逃げ出したり、力を完全に封じて何もしねぇなんて選択肢は認めねぇ。お前には――“必要なんだよ”」

 

 義紀は、握った拳をゆっくりと開く。

 指先が震えていた。

 怒りでも、恐怖でもない。

 ――迷いだった。

 

(クロ……どうすればいい……?

 力を使えば、また誰かを傷つけるかもしれねぇ……

 でも……友梨を……)

 

 返事は、やはりない。

 しかし、胸の奥で、小さな温もりが「迷うな」と語りかけるように震えた。

 義紀は、顔を上げた。

 

「……協力すれば、友梨を救えるんだな?」

「約束する」

「……どんな実験でも、調査でも……俺がやれば、友梨は助かるんだな?」

「――ああ。責任持ってな」

 

 義紀は唇を噛みしめた。

 深く、深く呼吸をし、静かに言った。

 

「……わかったよ。俺がやる」

 

 酒巻の口元が、わずかに緩む。

 

「良い返事だ。生き残った人間は、皆、何かを背負わなきゃならん。お前も例外じゃねぇってことだ」

 

 菜乃花が歩み寄り、義紀にタブレットを差し出す。

 

「契約書類だ。サインすれば正式に協力者として登録される。待遇は保障する」

 

 義紀はそれを受け取り、震える指で署名を記した。

 

(友梨……必ず助ける。

 クロ……一緒に、行こうな)

 

 契約完了の音が鳴った瞬間――

 義紀の胸の奥で、わずかに青黒い光が揺れた。

 それはまだ、消えていなかった。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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