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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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14/21

14話 会わせてよ 新たな希望 可能性

 勝利を刻む戦いの余韻がようやく風へと溶けていった頃。

 巨大クレーターの外周部――崩れた観客席跡の上空を、陸上自衛隊北海道方面隊の救援ヘリが旋回していた。

 

「……あそこだ! 中心部に、何か倒れている!」

 

 ある隊員が身を乗り出す。粉塵で白みがかった視界の奥、瓦礫に埋もれるようにして横たわる影――そう、玄屍鬼(くろしき)だった。

 

「生命反応……微弱ですが、あります!」

 

 報告が飛ぶたび、機内に緊張が走る。

 ヘリはホバリングを維持し、ロープを伝って三名が地上へ降下した。

 近づくにつれ、隊員たちは息を呑んだ。

 玄屍鬼。その姿は、もはや“怪物”ではなかった。

 八本あった尾は消え失せ、角や爪も軟化し、ちぎれた装甲のような殻もひび割れて落ちている。

 生き物とも機械ともつかぬ異形だったその身体は、急速に輪郭を失い始めていた。

 

「……溶けてる? いや、これは――」

 

 青黒い光が、残った体表からふわりと舞い上がる。

 煙に似ているが、触れると温かく柔らかい。

 それはまるで、“役目を終えた力”そのものが天へ還っていくようだ。

 やがて、その中心に――浮かび上がる人の姿を視認。

 

「ひとり……? 青年か!」

 

 隊員が慌てた様子で、覆っていた膜や瓦礫をどける。

 現れたのは、気を失った状態の若い男。

 黒い髪は血と埃にまみれ、全身には怪我の痕と火傷が残っている。

 だが、その表情だけは、不思議なほど満足感、穏やかだった。

 

「搬送します! 意識レベルは……低いですが、脈は安定!」

 

 混乱の続く戦場跡から、義紀――かつて玄屍鬼と呼ばれた青年が担架に乗せられ、救援ヘリへと運ばれていった。

 


「……ん……?」

 

 遠くで機械音が聞こえる。それも一定の感覚で。

 やけに鼻を刺す消毒の匂い。

 薄く瞼を開けた義紀は、馴染みのない白い天井を見つめた。

 

(ここ……病院……か?)

 

 暖かい空気に包まれ、意識がゆっくりと戻っていく。

 身体は重く、石のようだ。けれど、死にかけたはずの痛みは嘘のように薄れていた。

 

(クロ……?)

 

 呼びかけても、返事はなかった。

 胸の奥に、温かい残滓(ざんし)だけが残っている。

 ――ドン。

 突然、病室のドアが勢いよく開いた。

 

「起きたな。思ったより早いじゃないか」

 

 現れたのは、背の高い女性。

 黒髪を後ろで束ね、制服の上から防衛省のコートを羽織っている。

 鋭い眼光と無駄のない足取り。

 頬に走る古い傷が、彼女の歴戦を物語っていた。

 

「……あんた誰?」

「まず名乗っておく。陸上自衛隊 北海道方面隊 特殊警備群――桜井(さくらい) 菜乃花(なのか)だ。質問に答える前に、こっちが聞く」

 

 椅子も使わず、義紀のベッドの横に立ったまま腕を組む。

 

「お前、何者だ?」

「……人間だよ。見ての通り」

「とぼけるな。私らが回収したのは化け物だった。全長三メートル近い化け物だ。その中心から、お前が“抜け落ちる”ように現れたんだ」

 

 義紀は眉をひそめた。

 確かにクロと融合し、玄屍鬼として戦ったが――彼自身にその身体の記憶は断片的にしか残っていない。

 

「覚えてねぇのか?」

「覚えてるよ……全部ってわけじゃないけど……」

 

 菜乃花は目を細める。

 嘘を見抜く職業に就く人間特有の鋭さ。

 

「ひとつだけ確かに言える。あんたは人類救援の功労者だ。だが同時に――危険因子でもある。だから私はここに来た」

「尋問ってやつかよ」

「そうだ。だが今は簡易だ。本格的なものは後日、上で行われる」

 

 義紀はため息をつく。

 戦い、勝ち抜き、命がけで星を守ったというのに、この扱いはあまりに味気ない。

 しかし、菜乃花は表情を変えずに続けた。

 

「……落ち込むな。命を拾っただけでも儲けものだ。現場じゃ誰もが、もう助からねぇと思ってた」

「そりゃどうも」

「で――最後に一つ。お前にとって重要な情報だ」

 

 菜乃花は、おもむろにポケットから一枚の"タブレット"を取り出し、画面を義紀の前に差し出した。

 そこには瓦礫撤去作業中の映像が映っている。

 

「戦闘後の回収でな……“生存者”が見つかった」

「……生存者!?」

「お前の近くで倒れていた女性だ。名前は――」

 

 義紀の心臓が、一瞬で跳ね上がる。期待と逸る気持ちで、ひとすじの汗が頬から地へ零れ落ちた。

 

(まさか……)

 

 意に返さぬ表情、業務連絡のように菜乃花は淡々と言った。

 

「学生証で名前を確認。名は友梨ゆり。かなりの重傷だが、命に別状はない。現在は別施設で保護中だ」

「――っ!!」

 

 義紀の身体が反射的に起き上がる。

 反動で痛みが走ったが、それすら忘れていた。

 

「友梨が……生きてる……?」

 

 ありえない、嘘か夢物語か疑うほどに。

 義紀の胸の中で、クロと共に戦った記憶――「友梨を守りたい」と願った感情が、熱く広がっていく。

 

「落ち着け。会わせるのはまだ許可が下りていない」

「なんでだよ! 生きてるなら、今すぐに会わせてくれ!」

「ああ、生きてる。お前が押し通した光の柱の影で、奇跡的にな」

 

 義紀は布団を握りしめる。

 涙が落ちそうになるのを必死でこらえた。

 

(クロ……聞こえるか……

 友梨、生きてたぞ……!)

 

 返事はない。

 けれど、胸の奥が温かく震えた気がした。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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