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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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13/21

13話 破片さえ 静まり返る 暗い空

 大詰め、と思わせぶりな大気そのものが澄み切っていた。

「今度こそ、とどめだ」玄屍鬼(くろしき)が爪を地に突き立てた瞬間、闘技場の砕けた床を通して青黒いエネルギーが脈動し、周囲の瓦礫を浮かせるほどの重圧を放つ。

 一方で、支配種の右腕に集まる光は、まるで太陽の核が凝縮されたような白熱の輝きを反射させた。

 光の塊は形を持たず、しかし確かな“死”そのもののような存在感で、空気を焼き、地面を黒く焦がしていく。

 閉鎖された世界が、一瞬だけ静まり返る。

 風も、粉塵も、残った闘技場の破片さえ動かない。

 ただ――玄屍鬼と支配種、二つの存在だけが、ぶつかる準備をしていた。

 

(義紀……いくよ……)

(ああ……絶対に……終わらせる!!)

「終末融合儀式――開始」

 

 支配種の声が響いた、そのとき――玄屍鬼が先攻した。

 地を蹴っただけで大地が沈み、青黒い線を描きながら一直線に支配種へ迫る。

 対して支配種も腕を振り上げ、集めた光を凝縮させて一気に放つ。

 白と青黒。光と影。生と死。

 対立を避けられない両者のエネルギーが――重なり激突した。

 直後、世界が破壊されるかのような爆音が広がり、衝撃波が周囲の建造物を粉砕した。

 建物の残骸が空へ巻き上がり、空気が裂ける。

 戦場だった闘技場は一瞬で消え去り、ただの“巨大なクレーター”へと姿を変えた。

 衝突点を中心に、光と影が渦巻き、雷のような亀裂が地表を走る。

 

(義紀っ……力を!!)

(任せろ……全部出す!! 俺たちの“怒り”全部だ……!!)

 

 玄屍鬼の全身から"青黒い火"が噴き上がる。

 尾の残った七本が一斉に支配種の周囲へ絡みつき、動きを封じていく。

 

「情動エネルギー……限界値突破。

 ――これほどまでに……!」

 

 支配種の声は震えを帯び始めていた。

 それは恐怖ではない。

 理解だ。

 “人間”という不完全な生命体が、ここまでの怒りと憎しみ、そして願いを力へ変えるとは――想定していなかった。

 

「だが……まだだ!!」

 

 支配種の身体内部で、さらに巨大なエネルギーが生まれる。

 光が膨張し、溢れ、周囲の空間が歪む。

 玄屍鬼の尾が焦げ、千切れ、吹き飛ばされていく。

 それでも、玄屍鬼は離さない。

 

(義紀……!)

(わかってる……! ここで離したら……全部終わる!!)

「クロシキイイイイイ――!!」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 玄屍鬼の叫びは、もはや義紀とクロどちらのものでもなく、二つが完全に混ざり合った声だった。

 残った三本の尾が支配種の胸部を貫くように突き刺さり、内部で絡み合う。

 支配種の光の核に触れた瞬間、玄屍鬼は全力で力を流し込んだ。

 

「|“絶" 龍・猫《 ぜつ りゅう びょう》・核喰かくぐい――ッ!!」

 

 凄まじい早さで突進――尾が核を噛み砕くように締め上げる。

 内部で青黒い稲妻が炸裂し、光の核が悲鳴のような音を上げて軋んだ。

 尾の勢いを利用し、両の握り拳に力と殺意を込めて。

 

「馬鹿な……! この力を……抑え込むだと……!」

「抑え込むんじゃねぇ……!!」

 

 玄屍鬼の拳が支配種の胸をぶち抜く。

 義紀の怒りとクロの牙が、肉体となって炸裂する。

 

「“喰らい尽くす”んだよ!!」

 

 支配種の胸部が内側から破裂した。

 拳に乗せられた青黒いエネルギーが内部へ流れ込み――何度も我慢によって収束を続け、敗北を"刻む音"を立て始めた。

 光の核が砕け、光が暴走し、支配種の身体全体が音もなく膨張を始める。

 

「不合理……だ……人類ごときが……」

「ごときじゃねぇ!! 勝手なことほざいてんじゃねぇ!」

 

 玄屍鬼は残る全力で支配種へ組み付き――その光を押しつぶした。

 

「運命? 終わりにしてやるよ。"お前の時代"をな!」

 

 直後、支配種は爆散した。

 光が巨大な柱となって天へ昇り、全てを照らし、そして消える。

 残ったのは――(かん)高い余韻。

 風の音だけが戦場を吹き抜ける。

 崩れた瓦礫の山の中央で、玄屍鬼は片膝をつき、荒い息を吐いた。

 影の尾は一本も残っていない。

 身体中が裂け、青い血と油が混ざり合って滴っている。

 

(クロ……終わった……のか……)

(うん……義紀……勝ったよ……)

 

 クロの声はかすかで、温かかった。

 義紀は(おぼろ)げな意識の中でその言葉を噛み締める。

 遠く。

 暗い空のかなた。

 星々の向こうで、確かに何かが砕け散ったような気がした。

 それでも――地球はまだ、生きている。

 玄屍鬼は最後の力で立ち上がった。

 そして。

 

(義紀……)

(なんだよ……)

(“勝った”って……言ってよ……)

 

 (くすぶ)っていた胸の奥で、温かな痛みが波のように満ちていく。クロの声がまだ耳の底に残っていて、それが"自分を許す"いや支えのようでもあり、救うようでもあった。勝ったと言いたい。けれど、その言葉を口にするにはあまりにも喪失が大きく、喉がつまり中々声にならない。遠くで砕けた気配は、きっと全力を形取るすべてだったのだと思うと、膝が崩れそうになる。それでも、守られた地球の息づかいが確かに感じられ、義紀はその重さを抱えたまま、ただ静かに空を仰いだ。

 瞳を閉じて――気持ちはほがらか、わずかに笑い、答えた。

 

「……ああ……俺たちの勝ちだよ、クロ」

 

 青黒い光が静かに消えていく。

 玄屍鬼は、確かに《勝った》。

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読むだけでは足らず、作者の励みになりません。どうか勇気づけると思っての願いを読んだ句です。

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