12話 騒がしく 無数の刃 一撃を
騒々しく乱れる闘技場を覆う光膜は、もはや限界に近いと呻いていた。ひび割れは蜘蛛の巣のように広がり、ひとたび巨大な衝撃が加われば崩壊するだろう。
その中心で、玄屍鬼と“支配種”は、互いの存在をかけて、削り合うようにぶつかり合っていた。
支配種の本体は巨体に物を言わせて。もはや人間に似せようとする心情すら介在せず、闇と金属が混ざり合ったような異形の塊となり襲いかかる。
背から伸びる無数の刃――触手は独立した意志を持ち獲物を捉え動き回り、そのすべてが玄屍鬼の急所を狙う。
「――来るなら、来い!」
(義紀、右!!)
(任せろ!!)
玄屍鬼は地を蹴り、瞬間的に身体をひねる。
刃にも似た触手が空を裂き、背後の壁を深く抉った。粉砕された破片が雨のように降る。
影の尾が十数本、触手を迎え撃つようにしなり、鋭い音を立てて激突した。
激しく摩擦した金属が砕ける音。
青い火花が散り、衝撃波が闘技場全体を震わせる。
(義紀……! 力が……まだ上げられる……!)
(クロ、お前……無理してないか?)
(平気……義紀と一緒なら……“もっといける”)
クロの声が震えているのは、恐怖ではなかった。
怒りと決意、そして復讐の共有。それが玄屍鬼の力を加速させていく。
「強化反応……確認。情動融合率……八四%、上昇中」
支配種の声は逆に滑らかさを増し、どこか愉悦が混じっていた。
巨大な身体が軋み、さらに膨張する。
「ならば――更に楽しませてもらおう。“地球種”よ」
異形の腕が三本同時に振り下ろされた。
一本一本が高層ビルをなぎ倒すような質量を持ち、空気自体を圧潰させる。
「ほら、もっと来いよ!!」
玄屍鬼の尾が一斉に広がり、盾のように形成される。
止められない対立。
世界がひっくり返ったような轟音が響き、衝撃が玄屍鬼を数十メートル吹き飛ばした。
だが、玄屍鬼は着地と同時に地面を掴み、滑りを強引に止める。
(クロ、大丈夫か!)
(大丈夫じゃない……すっごく痛い……でも……倒すまでやる!!)
クロの傷は深い。しかしその光は弱まらない。
義紀の心がクロを奮い立たせ、繋ぎ止めに必死な存在が自身を支えている。
支配種が一歩踏み出すだけで地震のような揺れが走り、粉塵が舞う。
「人類代表"クロシキ"……その力、評価に値する。しかし――」
巨大な触手がうねりを上げ、蛇のような動きで玄屍鬼へ迫った。
「――まだ“本気”ではないぞ?」
瞬間、触手の先端が刃状に変形し、五本、十本、二十本と増殖する。
闘技場全体を埋め尽くすほどの刃の触手がシャワーのように降り注ぐ。
(義紀っ!!)
(わかってる!!)
玄屍鬼は影の尾を収束させ、身体の後ろに意識を集中させた。
「“猫・螺旋尾撃”!!」
八本の影の尾が一つに束ねられ、巨大なドリルのように螺旋を描きながら前方へ突き出された。
その瞬間、青黒いエネルギーが奔流となって迸る。
触手の群れを突き破り、空間をねじ切るような衝撃が支配種の胸部へ直撃した。
闘技場の光膜に大きなひびが入る。
支配種の身体が大きく揺らぎ、表面装甲が剥がれ落ちた。
「……ほう……」
支配種はひっそりと呟いた。
「そこまで力を……人類という弱き種が、ここまで……」
「終わりだあぁぁぁぁっ――!!!」
玄屍鬼は再度跳び上がり、拳を叩き込む。
義紀の人間的な怒りと、クロの獣の反射が完璧に融合した動き。
拳の衝撃だけで支配種の顔面が歪み、光学孔が潰れた。
「“家族”を奪った……お前を、俺たちは絶対許さねぇ!!」
尾が一斉に支配種へ伸び、身体を包囲する。
支配種の背を抉り、腕を裂き、地へと叩きつける。
「――情動指数……限界突破。殺意……完全解放」
支配種の身体の内部から膨大なエネルギーが噴出し、玄屍鬼の尾が吹き飛ばされた。
巨大な衝撃波が闘技場を覆い、光膜が悲鳴のような音を上げて破壊される。
闘技場の壁が砕け、外の荒廃した都市が露わになる。
(義紀っ……!)
(わかってる、まだ終わりじゃねぇ……!)
玄屍鬼は息を荒げながら立ち上がる。
筋肉が裂け、影の尾は何本も消失し、体内の機械が悲鳴を上げる。
だが支配種もまた、満身創痍だった。
装甲は砕け、内部組織が露出し、かつての威容は半分以上失われている。
そして――支配種はゆっくりと顔を上げた。
「……クロシキ。認めよう。貴様は“人類史上、最強の戦士”である」
地響きのような声。
「だからこそ――“最終儀式”を提案する」
「儀式……?」
支配種は四本の腕を広げ、背の触手を天へ向けた。
「我々異星種と、人類の代表……ここでの融合を提案する」
「融合だと?」
「勝者がこの地区を手にし、敗者は完全消滅する――それこそが“未来を決める戦い”だ」
玄屍鬼は支配種を睨みつけた。
(義紀……どうする……? これ……受けるの……?)
(クロ……当然だ……!)
胸の奥にあるのは、ただ一つ。
――友梨の笑顔。
――海斗の最後の声。
――義紀の悔しさと悲しみ。
――クロの祈り。
全てが一つの言葉に収束した。
「……受けてやるよ」
「ならば、最後の一言申せ」
クロと義紀が同時に呟いた。
「その顔、飽きたぜ。さっさと、あんたを終わらせる名を刻め!」
(クロと義紀……合わせて……クロシキ)
その言葉とともに力の限り、両の爪を地面に突き刺し、踏ん張った。
支配種も、最後の一撃とばかり、片腕だけ光を収束させ構えるのであった。
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