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蹂躙の霹靂  作者: 犀川


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11話 楽観視 中に宿るは 狂人

「お遊びもここまでだ! 必ず終わらせる!!」

 

 玄屍鬼(くろしき)の復讐を捧げた叫びは、義紀の後悔とクロの電子的な金切り声が重なり、空間そのものを震わせるほどの咆哮となった。

 影の尾が奔流のように支配種へ襲いかかり、その巨大な身体を縦横無尽に切り裂く。青黒い光の刃が何十本も閃き、一瞬で空気の層ごと削り取った。

 しかし――支配種の無貌の頭部は、逆に愉悦の色を帯びていく。

 

「楽感、楽感……人類感情、極値……愉快……即時処罰へ移行」

 

 声は静かだが、中に宿るものは()みはらしさ――狂気。

 金属の皮膚が割れ、内部の筋束が脈打つたび、支配種のシルエットがさらに膨れ、(ひるがえ)って、醜悪な美のようなものへ変貌していく。

 玄屍鬼は一歩後ずさった。

 

(義紀……あいつ、喜んでる……本気で……)

(わかってる……怒りを“餌”にしてやがる……! 感情を読み取る機能……いや、それだけじゃねぇ。楽しんでいやがる……っ!)

 

 支配種の顔面に見える光学孔が、まるで人間の瞳のように細まり、笑っているようにすら見えた。

 

「人類代表玄屍鬼……戦闘能力、成長を継続……その情動、甘美……」

 

 (とざ)し覆尽くす四本の腕が同時に伸び、先端が尖った刃へ変わる。

 その一本が、空間を淀ませて――空気が悲鳴を上げたかのような音が遅れて派生。

 玄屍鬼は横へ飛び、尾の一本で衝撃を受け止めた瞬間――受け止めきれず尾が弾け飛んだ。

 

「ぐっ……!!?」

(義紀っ!!)

 

 クロの声が響くが、痛みはすぐ怒りと同化する。

 失った尾の断面から黒い蒸気が上がり、瞬時に再生を始める。

 だが、その再生速度よりも速く、支配種は迫ってきていた。

 鋼鉄が捻じれるような音。

 地面に深い溝が刻まれる。

 支配種が腕を振り下ろすたび、闘技場を包む半透明の壁が波打つ。

 

(……クロ、やべぇ……奴の動きが……さっきより速い……!)

(義紀、避けて! あれは……あれは“殺すため”じゃない……“壊すため”に振ってる……!)

 

 分析が脳に直接流れ込み、玄屍鬼は地面を蹴った。

 支配種の刃が首元をかすり、黒い血が飛び散る。

 その瞬間、クロが心の奥で叫んだ。

 

(ダメ……! 血液を“読む”!)

 

 支配種の光学孔が玄屍鬼の飛び散った黒血に反応し、形状を変える。

 まるで味わうかのように。

 

「……進化因子……複合。人類・猫型生命体・機械……興味深い……」

「テメェに……俺とクロの何がわかるんだよ!」

 

 玄屍鬼は地を蹴り、身体の中心から影を爆発させた。

 矢を彷彿させる尾が数本伸び、支配種の両足へ絡みつく。

 金属が食い破れ、黒い体液が噴き上がる。

 

「……効率低下……しかし防御可能……」

 

 そう言って支配種が腕を振った瞬間、玄屍鬼は地面に叩きつけられた。

 衝撃で瓦礫が宙へ舞い、闘技場の壁に激突して砕け散る。

 凄まじい目眩(めま)いで視界が揺れ、ノイズが走る。

 義紀の怒り、クロの痛覚抑制、ふたつの感情がぶつかり合い、身体のバランスが崩れる。

 

(クロ……大丈夫か……?)

(義紀こそ……痛いよ……胸のあたり……すごく……)

(くそ……俺たち……まだ半端なのか……)

 

 支配種がゆっくり歩み寄る足音。

 そのたびに地面が沈み、小さな地震のように周囲の畏怖を感じさせた。

 

「クロシキ……その名、その存在……人類の最終進化仮説に一致……」

「…………なんだと?」

 

 支配種の光学孔が淡く揺れ、まるで楽しげに追い詰める。

 

「人類……絶滅寸前まで追い込み……“融合進化”を誘発……」

「お前らが……仕組んだってのか……?」

「肯定。人類が最も輝く瞬間……それは死の直前……」

 

 玄屍鬼の胸が煮え(たぎ)った。

 内側で義紀とクロの意識が怒りで爆ぜる。

 

(義紀……やっちゃおう……あいつ、絶対に……許さない……!)

(ああ……クロ……一緒に、全部終わらせる……!)

 

 影の尾が膨張し、玄屍鬼の身体を覆うように巨大化した。

 再生そして八本の尾がさらに尖りを増し禍々しく、その先端に青黒い光が集中していく。

 支配種が反応し――四本の腕を構えた。

 

「情動反応……極値突破。戦闘記録更新――愉悦」

「黙れ!!」

 

 玄屍鬼は尾を一斉に叩きつけた。

 八本の影が渦を巻き、爆音とともに支配種へ直撃する。

 その衝撃だけで闘技場の壁が波打ち、光膜が軋みを上げる。

 支配種の身体が一歩後退し、金属音が響く。

 

(義紀っ、今!!)

(おうっ!!)

 

 玄屍鬼は地面を砕きながら跳躍し、拳を支配種の頭部に叩き込んだ。

 青い衝撃が走り、支配種の無貌の面が(ゆが)む。

 その瞬間、クロと義紀の声が完全に重なった。

 

「――消えてなくなれぇぇぇぇっ!!」

 

 支配種の身体が吹き飛び、壁へ叩きつけられる。

 闘技場の膜全体が振動し、ひび割れが走る。

 しかし――支配種は倒れない。

 ゆっくりと立ち上がり、さらに愉悦に満ちた声で言った。

 

「……良い……実に良い……玄屍鬼……」

 

 支配種の背が裂け、内部からさらに巨大な影が姿を現した。

 それは、人型ではなかった。

 星を食らう異形の本性。

 触手と刃と装甲が混じり合い、闇より黒い巨体。

 

「――これより、“真の姿”で遊ぼうか……人類の足掻く者よ」

 

 玄屍鬼は唸り、影を逆立てた。

 

(クロ……)

(義紀……)

(行くぞっ!!)

 

 逆境に負けじ疾風に勁草(けいそう)を知る"苛立ちの魂"が先走り、ふたりは再び異形へと飛び込んでいった。

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