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仮面  作者: 道上 萌叶
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 今日も、何とか終わった。

 大学の後、直で来たバイト先の店長に挨拶をして、星が見えにくい空を眺めながらアパートに戻る。



「篠崎ちゃん、今日、よかったら食べに行かない?この前バイト代が出たから、奢るよ」


 5限目の後、教材をしまっていると田辺さんが食事に誘ってきた。何も無かったら、心を誤魔化して応じたと思う。彼女が誘う理由が、何となく分かったから。


「わ、行きたい!でも、ごめんね。今日これからバイトがあるの。また今度、誘ってほしいな」


 バイトは、好きでも無いけど嫌いでも無い。お金は入るし、こんな時に役に立つから。

 田辺さん自身も、どうしてもと言うつもりはなかったらしい。「そっか。バイト頑張ってね!」と、それだけ残して彼女は帰っていった。

 10月になって、夜は過ごしやすくなったが、昼間はまだまだ暑い。バイトで動いて、のどが渇いていたことと、なんでもいいから甘いものが食べたくて、帰る途中にあったコンビニに入る。

 紙パックの緑茶を手に、スイーツにするかチョコレートにするか、それともアイスにするか少し悩んで、アイスにしたかったけれど帰る前に溶けてしまうかと思い、スイーツにする。新発売と書かれていた栗のモンブランを選びとり、お茶と共にレジに持っていく。


「お願いします」


「いらっしゃいませ‥‥‥あ」


「え?」


 レジに背を向けて、煙草を補充していた店員さんに声をかけると、彼は私の顔を見て目を大きくさせた。どういう反応かわからなかったから、咄嗟に聞き返してしまった。


「あ、すんません。えっと、レジ袋はご利用になりますか?」


「いえ、そのままで」


「470円になります」


 若い男の店員さんが私を見て何を思ったのかわからないけれど、それは私にとってはどうでもいいことだ。こんなところでまで、仮面を被り続けなくても大丈夫だろう。

 スマホをトートバッグから取り出して、決済アプリを開いてバーコード決済をお願いすると、彼はレジを操作してバーコードを読み取る。少し待つとスマホがピロンと音を鳴らして、決済完了画面が表示される。店員の男性からレシートを受け取り、モンブランとお茶をトートバッグにしまう。


「あの、」


結人(ゆいと)君!ごめんね、残ってもらっちゃって。もう上がっていいからね」


「ああ、いえ。おばあさん、大丈夫でしたか?」


「とりあえずはなんともないみたい。ほんと、ありがとうね。あ、これ補充しとけばいいかな」


「はい、お願いします」


 店員の男性が何かを言いかけていたようだけど、バックヤードから女性の店員が出てきて、続きを聞くことはなかった。

 男性を待って、何を言いかけていたのか聞いた方がいいか迷ったけれど、今日はなんだかひどく疲れてしまった。きっと、昨日彼と別れたことを河野さんと田辺さんに伝えたことで、2人の気遣う空気にどう対応していいのかわからなくて、いつも以上に頭を働かせていたからだろう。

 男性はもう上がるようだったけど、彼が女性と話しているうちに私はコンビニを後にした。早く、帰りたかった。1人になりたかった。

 



 翌日昼休み。今日も変わらず、私は河野さんと田辺さんとお昼ご飯を食べている。今日の話題は、ネットで話題になっていた動物の動画だ。

 昨日は疲れていたからか、帰ってお風呂に入った後、いつもご飯を食べながらしているネットニュースの確認を忘れてしまっていた。朝ご飯を食べながらしていたけれど、起きる時間もぎりぎりだったから、あまり確認できていなかった。

 それでも今日の話題が動物の動画で助かった。こういうモノは知らなくても、その場で一緒に見ることができる。それに動物の動画ならかわいいと言っておけば間違いはない。他に感想を求められたら、コメント欄で他の人が言っていることを、違和感がないように適当に組み合わせて言えばいいだけだ。

 かわいいかわいいと盛り上がる2人に合わせて、私も時々「かわいいね」「この子賢いね」と言葉を挟む。

 動画を見ながら、私は今日も、笑顔で普通の人の仮面を被っているけれど、こういった動物の映像を見ていると心はざわざわと騒いでいる。私よりも、彼らの方がありのままで人間社会に溶け込むことができていると。人間である私の方が自分を取り繕っているのに、人間でない彼らの方が人間に認められて、私よりも人らしいと。


「あー、やっばあ。威嚇すらかわいいってどゆこと?」


「これはレッサーパンダ沼るね。今度動物園言ったらレッサーパンダのところから動けんかも」


「あの、すみません」


「ん?」


 3人で何度もレッサーパンダの動画を再生していたら、誰かが話しかけてきた。顔を向けるとそこには清潔感のある短髪の男性が立っていた。

 誰に話しかけたかわからなかったけど、2人は彼のことを知っていたらしい。


「え、佐野君どうしたの?」


「ごめん、うるさかった?」


 彼は佐野君というらしい。たぶん今聞いても、私に関わりのない人だったらすぐに忘れる。

 そう分かってはいるけれど、ここは大学だし、2人の手前、今は彼に興味のあるふりをする。


「や、違います。お話し中すみません。篠崎さん、ですよね。今、少しいいですか?」


「え?」


 きっとうるさかったという用事か、3人共に用事があるか、2人のどちらかに用事があると思っていた。まさか、私1人に用事があるとは思っていなかった。予想外のことに、仮面が外れそうになった。

 それでも外れかかる前に取り繕ったから、変なところはなかったはず。


「はい、大丈夫です。ごめんね。ちょっと行ってくる」


「あ、ここでも大丈夫ですよ」


 腰を上げかけると、佐野さんに手で制される。でもその佐野さんを制したのは、河野さんと田辺さんだった。


「ダイジョブダイジョブ。ゆっくり行ってきていいよ」


「篠崎ちゃん、次空きコマだから気にしなくていいよ!」


 2人に手を振って送られて、私と佐野さんは食堂を出る。

 私の心は、これまでに無いほどの冷や汗をかいていた。


 私の名前を知る彼は、誰なのだろう、と。

あらすじと合わない部分があったので、調整しました。まだ食い違っているところがあると思うので、気付き次第修正します。(12/26)

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