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仮面  作者: 道上 萌叶
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3

「でね、昨日ハルくんがすっごくかっこよかったの!」


 昼休み。大学の学友と食事をとりつつ、会話をする。今日の話題は、芸能人。


「河野ちゃんは一途だねー」


「一途じゃ無い、普通だよ。もー、ほんとかっこいいんだから!」


 相槌を打つのは田辺暁子。アイドルの話で盛り上がるのは河野美来。昨日、推しのライブに行ってファンサとやらを貰ったらしい。

 彼女達は私と同じ学部だ。2人とも大学で出会った。


「んー、あたしはアイドルはいいかな。それよりも昨日、ニュース見た?まさやん結婚するって!」


 コンビニのサンドイッチを頬張りながら、田辺さんが机を軽く叩く。

 まさやん、確か俳優の金田昌伸(まさのぶ)だ。昨日ニュースで見た名前だ。


「あ、見たよ。相手は一般女性、だったよね」


 覚えのあるニュースだったから、すぐに反応できた。

 この反応でよかっただろうか、と彼女達の様子を窺う。


「そう!あー、いいなぁ。あたしもイケメンと結婚したーい」


「イケメンなら、この大学にもいるよね。古宮優紀さんとか、結構有名じゃない?」


 どうやら、私の反応は間違っていなかったらしい。

 2人にばれないように、安堵の息を吐きながら、卵焼きを口に運ぶ。今日の卵焼きは、砂糖多めの甘い方だ。 


「あー、まぁ、イケメンだけど古宮先輩は彼女いるよ」


「え、そうなの?」


 お弁当おかずを口に含みながら、話に耳を向ける。

 今は口にものが入っているから喋れないという雰囲気を出しながら、私に反応できるところはあるか、2人にばれないように探る。


「あ、佐野君は彼女いないらしいよ」


「へー。ってか河野ちゃん、佐野君の事気になってるの?」


「いや、別に。あいつはないわ」


 2人は佐野君というのが誰か知っているようだが、私は分からない。

 なかなか2人の会話に入れずに、お弁当を食べ終わってしまった。分からない話が出てきても、誤魔化せない。


「そーいえば篠崎ちゃん、彼氏いたよね?」


 私が食べ終わるのを待ってました、と言うように、田辺さんが私をまっすぐ見つめていた。

 跳ね上がる心臓が、2人に気付かれていないか不安になる。

 私が彼と別れたのは昨日だ。2人には付き合っていた事は言っているけれど、別れた事は言っていない。


「そーだ!加菜ちゃん、高校の時から付き合ってたんだよね。いいなー」


「あ、えっと、それが‥‥‥別れた、の」


 どう説明したものだろうと悩みつつ、取り敢えず事実を述べる。


「え?!別れたって、いつ?!」


「あ、えっと、昨日」


「昨日?!え、彼から?篠崎ちゃんから?」


「成田くん、えっと、彼から」


「えー!もったいない!こんな可愛い子を振るなんて!」


「え、何で、どうして?」


 身を乗り出す2人は、信じることができないというように、全身で驚きを表現している。私よりも、私と彼が別れたことに驚いている。

 どうして振られたのか、理由は分かっている。私が彼を好きになれなかったから。でも、正直に伝えると、私が普通でない事が彼女らにもバレてしまう。あの時と一緒だ。必死に取り繕ってきた、全てが無駄になる。


「あ、いや、無理に言わなくていいよ。辛いこと聞いてごめんね」


「あ‥‥‥」


 言葉に詰まっていたら、何かを察したらしい河野さんが、綺麗に飾った爪に彩られた手で、優しく私の手を握りしめてきた。まるで、傷ついた心を慰めるかのように。

 よかった。何とか誤魔化せたみたい。

 何とか笑顔を作って、私は2人に気付かれない程度の、小さいため息をつく。

 

 そのまま話題は理想の彼氏像に移っていく。

 やっぱりイケメンがいいだの、見目が良くても中身がクズだと駄目だの、2人が言い合っているのを何となく聞き流して、時々相槌を打ったり、思ってもいない理想の人物像を上げたりして、昼休みは過ぎていった。



「あ、忘れ物しちゃった。ごめんね、先に行ってて」


「大丈夫?待ってよっか?」


「ううん、すぐに行くから大丈夫」


 不自然にならないようにカバンの中をあさってから、食堂に戻るふりをして1番近いトイレに向かう。個室に入る前に、トイレには誰もいない事をこっそり確認して、1番奥の個室に身を潜める。音を立てないように意識して鍵を閉めてから、便座の蓋は閉めたまま腰掛けて、漸く息を吐き出す。


 しんどい。普通でいるために、自分で選んだ事だけど、それでも時々1人になって、素の自分に戻らないと、しんどい。

 顔に貼り付けた笑顔を剥がして、大きく深呼吸をする。普段と違う話題だったからか、余計に気を遣った。普段の笑顔の倍は無理していたらしい。口周りがピクピク勝手に動く。

 息を整えてから、丁寧に顔のマッサージをする。手鏡を取り出して、顔を写してからまた笑顔を作る。


 少し、ぎこちない。


 もう一度、さっきよりも少し長めにマッサージして、笑顔を作る。今度はいつもと変わらない笑顔になった。


 もう一度深呼吸をしてから、普通の人の仮面を被り直して、トイレを後にする。

 まだ、今日は半日しか終わっていない。あと半日は、仮面を被っていないとならない。

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