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歩き出す声

 再起動は、わずか一瞬の光にすぎなかった。

 だが、その瞬間にすべてが変わっていた。


 


 黒剣デカログ・コードが脈動する。

 第二戒印――再誕リブート、解放完了。


 


 ヴァルトの視界は鮮明だった。

 痛みも、疲労も、もはや一切残っていない。

 だが、それ以上に――“理由”が、芯に届いていた。


 


 目の前に立つのは、人型の機械生命体オートマタ

 しなやかな脚部、鋭く尖った両腕。背中の投射装置からは、わずかに熱が残っている。


 


 フィーネを狙ったのも、背を撃ったのも、こいつだ。


 


 ヴァルトは剣を構える。

 構えに迷いはない。手の中にあるのは、命を繋ぎ直した重さそのもの。


 


 機械生命体オートマタが動いた。


 


 腕を伸ばす。

 風を切るような加速音と共に、連続の斬撃が放たれる。

 その動きは、人間よりも洗練されていた――だが、


 


「遅い」


 


 ヴァルトの声が、冷静に響いた。


 


 黒剣が風を裂く。

 第一戒印、影刃シェイドカット。影の残像を滑るようにして、刃が抜ける。


 


 一閃。

 機械生命体オートマタの左腕が、根元から吹き飛んだ。


 


 間を与えず、踏み込む。

 背後に跳ぼうとした敵の進路を読んで、足払いのように剣を滑らせる。


 


 その剣は地面に触れてはいない。

 影をなぞり、そこに斬撃を走らせたのだ。


 


 機械生命体オートマタの脚部が弾け、制御を失った機体が傾く。


 


 ヴァルトは静かに剣を振り上げた。

 その構えは、ただの斬撃ではない。


 


 記録に刻む一撃――命を繋ぎ、守るための裁断。


 


 黒剣が唸った。

 戒印の力は使わない。ただ、そこに宿る“意志”を刃に乗せる。


 


 真っ向からの斬撃が、機械生命体オートマタの中核を両断した。

 内部で何かが火花を散らし、機械の体が沈黙する。


 


 戦いが、終わった。


 


 


 静寂の中で、ヴァルトは剣を下ろす。

 呼吸も整っている。だが、胸の奥に――言葉にできない何かが、残っていた。


 


「ヴァルト!」


 


 駆け寄ってきたフィーネの声に、彼は軽く振り向いた。


 


「……動けるか」


 


「うん……それより、あなたは」


 


 彼は答えない。ただ、わずかに眉を寄せ、黒剣を背へと戻す。


 


 フィーネは、彼の背中を見つめた。

 さっき――あの瞬間に見えた光。刻印。再び立ち上がった姿。


 


 それが何だったのか。

 どうして立ち上がれたのか。どうしてそこまでして守ってくれたのか。


 


 聞きたいことは山ほどあった。

 けれど、それを問うには――まだ自分の中の言葉が、追いついていない。


 


 彼女は、ただ呟いた。


 


「……あなたの背中、見てたよ」


 


 ヴァルトはその言葉に、答えなかった。

 だが、ほんの一瞬だけ、肩がわずかに緩んだ気がした。


 


 二人の間に、沈黙が落ちる。


 


 けれど、それは戦場の静けさではない。

 風の音と、まだ温もりの残る空気が、彼らをつないでいた。


 


 その時、黒剣が小さく“音”を立てる。

 それはまるで、記録が更新されたことを告げるかのようだった。


 


 フィーネは思う。


 


 あの剣は、ただの武器じゃない。

 そして彼もまた、ただの戦士ではない。


 


 彼の中にある“何か”を、私はまだ知らない。

 でも、知りたいと思った。

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