表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/29

記録に刻まれなかった者たち

 静けさに包まれた観測施設の最深部。

 ヴァルトは剣を鞘に収め、崩れかけた操作台へと歩み寄る。

 かつて何百という記録が処理されていた場所──だが、黒剣はそこに“痕跡”を感知しなかった。


 


「やっぱり……ここも、何も残ってないのか」

「……違う。何かが“消されてる”」


 


 フィーネが懐から記録球を取り出す。

 それは先ほどまでは沈黙していたはずだった。だが今、球面の奥に淡い光が揺らいでいる。


 


 フィーネの指先が触れた瞬間、黒剣が淡く共鳴した。


 


「これは……戒印でもない。命令コードの断片……いや、それすら未完成だ」

「記録……だけど、断ち切られてる。途中で、何かに塗りつぶされてる」


 


 二人の視界に浮かび上がるのは、かすれた映像。

 人影、装甲、そして整列する小型の機械生命体オートマタたち。

 彼らは戦場へ向かうように並んでいた──人間が、それを送り出していたのだ。


 


「まさか……機械生命体オートマタを“迎撃兵器”として使っていた……?」

「あり得る。数、速度、破壊力。……軍用に改造されていたとしても、おかしくない」

「でも、制御に失敗した……」


 


 映像が乱れる。

 制御塔の火災。機械生命体オートマタが人を襲う。記録係の叫び声。

 そして、突如として全ての映像が途切れる。


 


 その瞬間、記録球の光がふっと消えた。


 


「……これ、記録の“断片”だね。誰かが封印される前に、わずかに残した……」

「あるいは、わざと一部だけ“開かせる”ように仕込んだか。何のためにかは、まだわからない」


 


 フィーネは静かに記録球を胸元に戻す。

 その指先は微かに震えていた。怒りか、悲しみか、それとも誰かの想いが流れ込んできたのか。


 


 ヴァルトは、天井の崩落跡を見上げた。


 


黒剣デカログ・コードに刻まれるのは、過去の“事実”だけだ。

 けど、そこに“想い”が残るなら──それを刻むのは、お前だ、フィーネ」


 


「……私が、刻んでいいの?」

「他に誰がいる。記録とは、ただ保存するだけじゃない。

 意味を見出し、繋ぐ者がいて初めて、“記録”になる」


 


 ふいに、扉の奥から微かな振動音が響いた。


 


 二人は静かに、剣と記録球を携えて進む。

 その先にあるのが、新たな敵か、あるいは──また別の“記録”かを確かめるために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ